なぜ彼は盗撮に手を染めたのか? 元講師から届いた7通の手紙

なぜ彼は盗撮に手を染めたのか? 元講師から届いた7通の手紙
ことし3月、大手学習塾で、教え子の児童を繰り返し盗撮したなどとして、元講師の男性に執行猶予のついた懲役2年の判決が言い渡されました。

元講師は、盗撮にとどまらず、児童の名前や住所などをSNSのグループチャットに投稿していたことも明らかになり、社会に大きな衝撃を与えました。

教育現場の性被害。

その実態に迫るため、私たちは、元講師に独自に接触。

本人が手紙での取材に応じました。

7通の手紙のやりとりから見えてきたのは、SNS上の“仲間”との出会い。

そして“仲間とのつながり”が犯行をエスカレートさせていく現実でした。

(NHKスペシャル「調査報道・新世紀」取材班)
※この記事では、性犯罪の背景にある加害者心理を伝えるために、加害の手口や言葉などについて触れています。フラッシュバックなど症状のある方は十分にご留意ください。

ある日届いた手紙

ことし2月、私たちのもとに届いた手紙。
「もしかしたら偏った考えや自己弁護に捉えかねない話、性犯罪を軽視する表現があるかもしれませんが、犯行当時の心理としてありのままお伝えするのでご容赦ください」
手紙の主は、大手学習塾「四谷大塚」の元講師の男性。

教え子の複数の女子児童を繰り返し盗撮した罪などで、ことし3月に有罪判決を受けました。

盗撮された動画は、生徒の名前や住所などの個人情報とともにSNSのグループチャットに送られていたことが明らかになり、社会に大きな衝撃を与えました。

SNSで広がる子どもへの性暴力

発達途上の子どもが性被害に遭うと、その後の人生を大きく変えられてしまうこともあるほど、深刻な傷が残ります。

特に近年、増加しているのが、SNSをきっかけにした被害です。
警察庁によると、SNSをきっかけに性被害に遭った18歳未満の子どもは、去年1665人に上っています。

さらに、小型カメラやスマートフォンの発達によって盗撮事件も増加。去年7月に「撮影罪」が成立して以降、20歳未満の被害者は524人に上ります。

性暴力について5年にわたって取材を続けてきた私たち取材班は、深刻な子どもたちへの性犯罪の実態に迫ろうと、ことし2月はじめ、裁判中だった元講師に手紙を送り、取材を申し込みました。

すると、2日後、仮釈放中の本人から返信が届きました。

明かした社会への「不満」

「贖罪の意味も込めてお伝えしようと思います」

元講師が最初につづっていたのは、社会に対する不満でした。
元講師の手紙
「成人を恋愛対象とする人と、子どもを恋愛対象とする人、どちらになりたかったかと問われれば、迷いなく全員前者を選ぶでしょう。にもかかわらず、気づいたら後者になっていたわけです。小児性愛者は世間の嫌われ者です。社会の敵です。なりたくてなったわけじゃないのに、なぜこんなに嫌われなきゃいけないのか、そういう不満も持っているのです」
元講師は、自身を「小児性愛者」と捉えていました。

子どもに性的な関心を持つ人の中には、精神障害の1つである「小児性愛障害」と診断される人もいます。

通常13歳以下の子どもを対象として性的興奮をもたらす強い空想、衝動、または行動が反復的にみられることが特徴とされます。

もちろん、小児性愛障害の診断を受けた人が必ずしも加害行為をするとはかぎりませんし、子どもに性加害をした人すべてが小児性愛障害であるともかぎりません。

最初は“抑えていた”

自身の欲望を自覚するきっかけもつづられていました。
元講師の手紙
「私は大学生のころに、小学生の女の子に一目ぼれしました。ただ、好きといっても、おつきあいしたい、という感情ではないです。その子を強姦して自分のものにしたいという感情です。だから恋愛感情とは少し意味が違うかもしれません。私は自分の欲望を文字に起こすことで、実際に性加害をしたいという気持ちを抑えていました」
本来、性行為は、対等な相手と双方の合意のうえで行われるはずです。

元講師が抱いていた感情は、恋愛とは別のもので、暴力的な欲望が背景にあったと感じました。
誰にも言えない欲望を抑えるために、元講師が始めたのが、インターネットに自作の小説を投稿することでした。

読者からの「応援」

ところが、投稿を続けていると、いまでも脳裏を離れないという出来事が起きたと言います。

読者の1人から、子どもが性被害に遭っている姿が映った動画が送られてきたのです。
元講師の手紙
「小説執筆の応援として低学年の女の子が被写体となった児童ポルノ動画を2本送ってもらい、それを見たときは感無量でした。だって、本物の小学生なんですから。それ以来、私は子どもを被写体とした漫画には見向きもしなくなり、ひたすら児童ポルノ動画を探すようになりました」

避けていたはずの教育業界に就職

一方、手紙では、塾に就職したのは望んで選んだわけではなかったと語りました。
元講師の手紙
「もともと塾に就職するつもりはありませんでした。塾に就職すればいずれ子どもに性加害をしてしまうことはわかっていました。5年程度の間なら我慢できるかもしれません。ただ、定年まで40年間となると、子どもに性加害をすることなく定年を迎えることは全く考えられませんでした。0%だと思っていました。だからこそ、教育業界を避けていたのです」
志望していた業界は人気が高く、40社以上受けたものの、すべて不採用になり、塾に唯一内定をもらえたため、就職したと説明しました。

盗撮 きっかけは職場への不満

そして、元講師は、就職した2年目に盗撮行為に及んでいます。

そのきっかけは、授業で騒がしい子どもへの仕返しだったと、語りました。
元講師の手紙
「ある生徒がたまたま授業中に四つん這いの体勢になったので、短パンの隙間からパンツが見えたのです。その時にドキッとしたのもそうですが、その子が中でも騒がしい子だったので、仕返しとして盗撮してやろうと思い、盗撮に手を出してしまいました」
元講師は、苦手な教科の授業を持たされたことや騒がしい子どもがいるクラスを任されたことで不満がたまり、仕返しをしてやろうと考えて盗撮に手を出したと、私たちには理解し難い説明をしました。

その考えに触れるうちに、私たちは、「盗撮してもいい」という考えに至ったのはなぜなのか。どうしても知りたいと思うようになりました。

そして、手紙のやり取りを重ねる中で分かってきたのが、SNSのコミュニティーの存在でした。

児童ポルノで「つながる」

元講師は、手紙の中でSNSのコミュニティーを通じて600人以上とやりとりを重ねたこと、そしておよそ7000本の児童ポルノを入手したことを明かしました。
児童ポルノ禁止法では、18歳未満の性交や性交に類似する行為、性器等を触る行為、性器などが露出・強調され性欲を刺激するものが写った画像や動画が児童ポルノと定義され、性的な目的で所持、提供、製造、公然陳列することなどが禁止されている。
コミュニティーの中では、持っている児童ポルノ動画の数に応じて「階級」のようなものがあり、多く持っているほど尊敬の対象だったといいます。
元講師の手紙
「児童ポルノは小児性愛者界隈における通貨の役割も担っています。だから持っていて当たり前、持っていなければ誰も相手にされません。小児性愛者界隈には階級があります。農民は児童ポルノを持っていないか、やり取りできる量に達していない小児性愛者のことを指します。商人は他の小児性愛者と児童ポルノのやり取りができるほどの数を所持した小児性愛者のことです。そして貴族は十分な児童ポルノを持っていることに加えて、小学生以下の子どもと接する職業に就いている小児性愛者のことです。要するに私は小児性愛者界隈において貴族階級にあったということになります」

「仲間」からの反応欲しくて

コミュニティーのつながりは、犯行をさらにエスカレートさせていきます。
元講師の手紙
「誰からも受け入れられないのですから、受け入れてくれる同じ小児性愛者とつながろうとするわけです。そうなってしまえば、もう犯罪一直線。まず、理性や罪悪感は短期間のうちにほとんど失われます。私は盗撮動画や個人情報をメンバーに送信しましたが、そこには一切の罪悪感もありませんでした。メンバーからは『こんなに近くにこんなにかわいい子がいるのに、我慢できるなんてさすが先生ですね』というようなメッセージがよく届きました。そのようなメッセージをもらうにつれて、危害を加えている感覚は徐々に失われ、罪悪感も感じなくなっていきます。ここまで短期間に盗撮を繰り返した要因は、間違いなくグループという小児性愛者同士のつながりです」
元講師は、“仲間たち”から寄せられる卑わいなコメントの数々に興奮し、盗撮を何度も繰り返したと明かしました。

仲間たちからより過激な反応を引き出すために、動画とあわせて複数の教え子の児童の名前や学校、住所、電話番号などもグループチャットに投稿していったと言います。

「仲間」には逮捕者も

また、SNSコミュニティーの中に、検挙された人物もいたことも明かしました。
元講師の手紙
「スイミングスクールで教え子の女児にわいせつ行為をし、その様子を撮影したとして逮捕されたA受刑者はかつて私と動画を交換した仲でした。触発された部分はありましたね。自分もやってみたいなと」
この受刑者は、兵庫県のスイミングスクールのインストラクターで、教え子の体を触り撮影したなどとして去年4月に逮捕されたあと有罪判決を受けた人物でした。

インストラクターは、園児の体を触り撮影した大分県の保育士とも動画のやりとりをしていたことが明らかになっています。

この元保育士は去年1月に逮捕され、強制わいせつと児童ポルノ禁止法違反の罪で有罪判決を受けました。

元保育士からの手紙

私たちは、服役中の元保育士にも取材を申し込み、手紙で返事が届きました。
元保育士から届いた手紙
「私の場合、小児性愛は後天的なもので、もともとは同年代の女性と関係を持つことが専らでした。保育士の仕事に従事する中で女児に好意を寄せられる事が多くなり、成人女性に対する感情とは別にそういった趣向も出てきたといったところです」
子どもから向けられる親しみの情愛を、性愛として受け取ることは間違っています。

たとえそう受け取ったとしても、実際の加害行為に及ぶことは当然許されません。

「つながり」が加害助長

元保育士も、SNSのつながりが加害行為を後押ししたと語りました。
元保育士の手紙
「ネット内におけるコミュニティーでは、オープンにできないセクシュアルな話や交流を楽しんでいます。ここならすべてをさらけ出してやり取りができるので、心のよりどころとしている人も少なくありません。小児性愛的な動画像は規制の強化によって年々流通が減っており、とても珍重されています。特に、こういった動画像をみずから撮影する人物は信仰にも近いレベルの扱いを受けています。こうした空気感に加え、逮捕されれば数年の実刑では済まないような過激なものを撮影している人もいるため、『自分はまだおとなしいほうだ』と感覚が麻痺してしまう部分があると思います」
元講師と元保育士、ふたりから共通して見えてきたのは、子どもにわいせつ行為をし、みずから児童ポルノを製造する悪質な犯罪者をあがめる空気が熟成されたSNSコミュニティーの中で、みずからも心理的なハードルを下げ、一線を越えていった姿でした。

元講師の「謝罪」

塾の元講師は、グループチャットへの投稿を見た人の通報で被害が発覚し、逮捕。ことし3月には、懲役2年、執行猶予5年の判決が下されました。

現在は、性犯罪歴のある人が通う専門のクリニックに通院しながら、自宅で生活を続けています。

罪を背負いながら、再犯しないように暮らしていってほしい。その思いを込めて、最後の質問を送りました。

盗撮した生徒たちに対して今、どんな思いなのか――。
元講師の手紙
「申し訳ないと思っているに決まっています。被害生徒に限らず、生徒はみんないい子たちばかりでした。でも盗撮行為はバレない限りは、相手を傷つけることなく性欲を満たせられる手段だということに気づき、何の罪悪感もなく繰り返してしまったのです。おそらく相当ショックを受けたと思います。先生から盗撮されただけでなく、その盗撮動画を個人情報とともに、変質者たちに売られたということは、今後大人を信用することができなくなるほどのショックだったと思います」
最後の手紙で反省の弁を語った元講師でしたが、合わせてつづられていたのは、事件の報じ方への不満でした。
元講師の手紙
「●●●●(あるメディア)が報道した1枚の写真によって、事件のあった校舎がバレ、近隣の小学校では一部の男子たちが四谷大塚のその校舎に通っている女の子たちに『お前、盗撮された?』などと聞いて回ったそうです。その時の被害生徒の気持ちを考えると、言葉にならないですよね。ロリコン講師と報道されたときは、大きな憤りを感じました。ロリコンの性的対象は13歳から17歳で、ペドフィリア(小児性愛者)の性的対象は0歳から12歳。わかりますか?全然違うわけですよ。私の性的対象は4歳から12歳の男子と女子。ロリコン要素は一切ないわけです」

自己正当化の心理は

やりとりを重ねた7通の手紙で、元講師が使った言葉や表現、自己正当化の強弁。私たちは、最後まで、心の中にわだかまりが残ったままでした。

その気持ちの整理も含め、性加害者の心理について、専門の医師に話を聞きました。

精神科医の小畠秀吾教授が、まず指摘したのは、性加害をした人は、自分の責任を小さく見積もったり、他に原因を求めたりすることがある、ということでした。
国際医療福祉大学 小畠秀吾教授
「小児性愛者であることが問題なのではなく、性加害をしたことが問題です。しかし、元講師は自分が小児性愛者であることを強調し、性加害をしたことの責任に向き合えていないように感じます。メディアへの怒りも、自分が人を傷つけたことを正面から受けとめられず、他に落ち度を求めようとしているのだと思います」
そして、小畠教授は、責任から目を背け被害を小さく捉えていると、再犯につながるおそれが高まるため、専門の治療を通して向き合っていく必要があると指摘しました。

受け取り方のゆがみ

元講師が使った「仕返し」という言葉についても聞きました。
国際医療福祉大学 小畠秀吾教授
「生徒が騒がしかったから仕返しとして盗撮した、という言葉からは、自分がばかにされたという被害意識が見えます。ある出来事に対して、ばかにされたと受け取るか、ほかの受け取り方をするかは人によって違います」
指摘したのは、「受け取り方のゆがみ」です。

例えば、「ばかにされたから仕返しをしてもいい」「子どものほうから誘った」など、性犯罪を容認するような思考をしてしまうことが、実際の加害行為につながると言うのです。

小畠教授は「ゆがんだ眼鏡」という表現を使っています。
一方で、治療のヒントもここにあると指摘しました。

専門の治療教育では、自分の考え方の“くせ”を自覚し、他の受け取り方がないか、考える訓練をすると言います。

考え方の幅を広げる方法を身につけることで、「ゆがんだ眼鏡」を外していきます。
国際医療福祉大学 小畠秀吾教授
「元講師が『もしかしたら偏った考えや自己弁護に捉えかねない話があるかもしれません』と書いていることを考えると、自分でもゆがみを自覚している部分があると思います。自分の背景にあるものに向き合い、ものの受け取り方を変えていくことができれば、彼自身もっと生きやすくなるのではないかと思います」

子どもへの性的搾取を許さない社会に

子どもへの性加害の本質的な問題は、小児性愛者かどうかではなく、言葉やものの受け取り方、認識のゆがみだという指摘がありました。

SNS上には、子どもを性的対象にして画像や動画を交換しているコミュニティーがあふれ、こうしたコミュニティーに触れ続けていると、『子どももよろこんでいる』『みんな盗撮しているから大丈夫』など、さまざまなゆがみが生じてくるのではないかと確かに感じます。

まずは、そうした考え方が生じないように、子どもを性的に搾取することを許さない社会的風潮を強めていくこと、そして、加害行為に至ってしまった人が適切な治療教育を受けられる体制づくりが求められます。

NHKでは、子どもへの性的搾取が社会に広がっている実態について、より詳しい内容を番組で放送する予定です。

NHKスペシャル「調査報道・新世紀 File3 子どもを狙う盗撮・児童ポルノの闇」
▼前編 6月8日(土)夜10時~NHK総合
▼後編 6月15日(土)夜10時~NHK総合