世界文化遺産目指す「佐渡島の金山」イコモス 情報照会の勧告

世界文化遺産への登録を目指している新潟県の「佐渡島の金山(さどのきんざん)」について、ユネスコの諮問機関は4段階の評価で上から2番目の、「情報照会」の勧告をまとめました。世界遺産への登録を考慮するに値するとしつつ、資産範囲の修正など追加の情報を求めていて、政府は7月の世界遺産委員会での登録を目指し、対応していくとしています。

「佐渡島の金山」は、▽西三川砂金山(にしみかわさきんざん)と▽相川鶴子金銀山(あいかわつるしきんぎんざん)の2つの資産で構成され、伝統的な手工業で17世紀には世界最大の金の生産地になったなどとして、日本政府が世界文化遺産への登録を目指しユネスコに推薦書を提出していました。

これについてユネスコの諮問機関「イコモス」が、4段階ある評価の上から2番目の「情報照会」の勧告をまとめたとして、文化庁が6日夜会見を開きました。

それによりますと、勧告では▽「佐渡島の金山」は完成された手工業で採鉱と製錬技術を継続したアジアで例を見ない事例として、世界遺産への登録を考慮するに値するとしています。

一方で
▽完全性・真実性を満たすため江戸期よりあとの証拠が大部分を占める一部の地区を除くこと
▽相川鶴子金銀山の資産を保護するための地域を沖合いに拡張すること
▽鉱業権の所有者が商業採掘を再開しないという明確な約束を示すこと
の3点の追加情報を求めています。

また「佐渡島の金山」をめぐっては、韓国が「朝鮮半島出身の労働者が強制的に働かされた場所だ」として反発した経緯があり、政府は韓国と丁寧な議論を行っていく姿勢を示していました。

イコモスは今回、追加の勧告として、鉱業採掘が行われたすべての時期を通じた資産に関する歴史の説明や展示戦略を策定し、施設や設備などを整えるよう配慮を求めていて、文化庁は「勧告を真摯(しんし)に受け止め、どう全体の歴史を示していくか関係省庁、佐渡市、新潟県と検討していきたい」としています。

去年はイコモスに「情報照会」と勧告された6件中6件が、その年の世界遺産委員会で世界文化遺産に登録されていて、政府は7月にインドで開かれる世界遺産委員会での登録を目指し対応していくとしています。

盛山文部科学相「ことしの登録目指す」

盛山文部科学大臣は談話を発表し「勧告を真摯(しんし)に受け止め、ことし7月にインドで開催される世界遺産委員会で登録されることを目指し、今後、速やかに関係省庁、新潟県、佐渡市と連携し、イコモス勧告への対応について検討していく」としています。

また、7日の閣議のあとの記者会見で「世界遺産登録を考慮するに値する価値が認められたということだが『情報照会』ということは、まだ宿題があるということだ。これらの対応をしっかりして、来月の世界遺産委員会で委員国にご理解をいただいて、『記載』の決議となることを目指して努力していく」と述べました。

追加的勧告の中で、全体の歴史を包括的に扱う説明や展示を求められたことについては「まずは評価結果の内容を十分に読んだ上で、新潟県や佐渡市などと相談して対応していきたい」と述べました。

林官房長官「政府一丸で対応」

林官房長官は7日午前の記者会見で「登録を考慮するに値する価値があると認められたものと受け止めているが、一方でいくつかの指摘があったところだ。勧告を真摯に受け止め、地元自治体とも緊密に連携しつつ、来月の世界遺産委員会での登録実現に向け、政府一丸となって対応していく」と述べました。

また韓国が「朝鮮半島出身の労働者が強制的に働かされた場所だ」として反発した経緯があることから、今後の対応を問われたのに対し、「『佐渡島の金山』のすばらしい価値が評価されるよう、引き続き誠実かつ不断に丁寧な議論を行っていく」と述べました。

新潟県知事「国や佐渡市と協議し対応」

新潟県の花角知事は7日県庁で「世界文化遺産に値する価値があるということを認めてもらったうえで、価値をさらに明確にする、あるいは保護措置を強化するという指摘をいただいた。登録の実現に向けて国や佐渡市と連携しながら、世界遺産委員会で理解が得られるように取り組んでいきたい」と述べました。

そして「勧告で求められた追加情報への対応については、国や佐渡市と協議しながら内容をしっかり分析して対応を検討したい」としたうえで、韓国との関係については「国が丁寧に議論していると理解しているので見守りたい」と述べました。

佐渡市長「ことしの登録目指しできるかぎりのことを」

佐渡市の渡辺竜五市長は、「『情報照会』での勧告は残念でしたが、『佐渡島の金山』の価値を認めてもらい登録に向けて一歩前に進んだと思います。ことしの登録を目指して、国や県とともにできるかぎりのことをしていきたいと思います」と述べました。

韓国外務省関係者「強制動員の事実の反映を」

ユネスコの諮問機関による今回の勧告を受けて、韓国外務省の関係者は7日、「強制動員された労働者に関する事実を、反映しなければならないというのが韓国政府の立場だ。歴史を消したり過小評価したりしてはならない。私たちが反対するかどうかは、日本側がどうするかにかかっている」と述べました。

日本政府が7月の世界遺産委員会での登録を目指すとしている中、韓国は、世界遺産委員会で審議にあたる21の委員国のうちの1つで、登録にあたっては全会一致での決定が慣例となっています。

この関係者は「私たちの立場が反映されれば、コンセンサスを妨げないことを検討している。一方で、反映されなければ、反対せざるを得ない」としています。

「佐渡島の金山」の世界文化遺産への登録をめぐり、韓国はこれまで「朝鮮半島出身の労働者が強制的に働かされた場所だ」と反発し、2023年日本政府がユネスコに推薦書を再提出した際には、「強制労働の痛ましい歴史などが反映されるよう、ユネスコなど国際社会と努力を続けていく」としていました。

市民団体「めげずに価値伝えたい」

世界文化遺産への登録を目指し活動を続けてきた地元・佐渡市の市民団体の中野洸会長は、ユネスコの諮問機関の勧告について「期待していましたが、発表を聞いて残念な気持ちです。ただ、私たちもめげずに世界遺産としての価値は十分あるということを多くの人に伝えていきたいです」と話していました。

「佐渡島の金山」を構成する鉱山の一つ、相川金銀山を見学できる施設を運営する会社の鈴木徹社長は「『佐渡島の金山』の文化的な価値については評価されたと思いますが、『記載』の勧告に至らなかったのは残念です。今後、世界遺産委員会で行われる審議の結果を見守りたいと思います」と話していました。

「佐渡島の金山」がある佐渡市で、観光客の増加に期待して客室の改装などの受け入れ準備を進めてきたホテルのおかみ、深見聖子さんはユネスコの諮問機関の勧告について、「最初は驚きましたが、4段階のうち上から2番目の評価なので、何を求めているかしっかり受け止めて対応すれば来月の世界遺産委員会で登録され、今度こそ喜べるのではないかと期待しています」と話していました。

「佐渡島の金山」とは

「佐渡島の金山」は、16世紀から19世紀にかけ機械を用いない伝統的な手工業で金が生産され、17世紀には世界の金の生産量の10%を占め世界最大の金の生産地になったなどとして、日本政府が世界文化遺産への登録を目指し推薦書を提出しています。

「佐渡島の金山」を構成するのは「西三川砂金山」と「相川鶴子金銀山」の2つの資産です。

このうち「西三川砂金山」は島で最も古い砂金山で、山を掘り崩したあと大量の水を流し込み砂金を採る「大流し(おおながし)」という独特な手法がとられ、現在も残る堤や水路、山を掘り崩した跡も推薦の対象となっています。

「相川鶴子金銀山」は、相川金銀山と鶴子銀山からなり、このうち相川金銀山は国内最大の金の産出量を誇った鉱山で、排水のために作られた922メートルの坑道が現在も保存されています。

金の鉱脈を山の上から74メートルの深さまで掘ったことで、山が割れたように見える「道遊の割戸(どうゆうのわりと)」は「佐渡島の金山」のシンボルとなっています。

また、鉱山周辺では金銀を精製する場があった奉行所の跡地や奉行所と金銀山を結ぶ道など、生産体制に応じて形成された集落も資産として推薦されています。

「イコモス」の勧告とは

ユネスコの諮問機関「イコモス」の勧告は世界文化遺産への登録の可否を決める世界遺産委員会の判断に大きな影響を与えます。

イコモスの審査は「顕著な普遍的価値の証明が十分か」や「万全の保護措置がされているか」などを基準に行われ、勧告は▽最も高い評価の「記載」、▽「情報照会」、▽「記載延期」、▽「不記載」の4段階で出されます。

このうち「記載」の評価を受けたものは、日本の場合はすべて世界遺産に登録されています。

それに次ぐ「情報照会」は追加で情報を提出させたうえで次回以降に再度審査をするもので、「記載延期」は調査や推薦書の本質的な改定が必要だという内容の勧告です。

ただ、最近ではこれらの勧告を受けたものがその年の世界遺産委員会で登録が認められるケースも相次いでいます。

最も低い評価の「不記載」は、世界遺産にふさわしくないという勧告で、これが世界遺産委員会で確定すると世界遺産への登録は難しくなります。