「日本は一段の軍事力増強を」トランプ政権元高官の警告とは?

「日本は一段の軍事力増強を」トランプ政権元高官の警告とは?
「日本は最近、誤った自信を抱いている」

こう指摘するのは、トランプ政権時代の国防総省高官です。

5か月後に迫ったアメリカ大統領選挙。接戦が予想されていますが、仮に“アメリカ第一主義”を掲げるトランプ氏が返り咲いたら、政策はどう変わるのか。日本との関わりはどうなるのか。

トランプ政権で「外交・安全保障」分野の要職を務めたキーパーソンに聞きました。

(ワシントン支局長・高木優)

外交・安全保障 トランプ氏の訴えは?

トランプ氏は大統領選挙での公約を集めたウェブサイト「AGENDA47」で、バイデン政権の外交・安全保障戦略を見直す考えを明確にしています。

ウクライナ支援で出費がかさんだとして、ロシア軍の侵攻を受けているウクライナへの関わり方から変えていく方針です。

「もし私が再選されたら、アメリカの利益最優先の外交政策に戻す。バイデン氏が浪費したアメリカの軍事力と抑止力の再建に向けて、国防を見直す必要がある。ウクライナへ支援した軍の備蓄品の代金をヨーロッパに払い戻させる」

トランプ政権での国防総省高官の分析は

トランプ政権下で国防次官補代理を務めたエルブリッジ・コルビー氏。トランプ氏が当選すれば、政権入りの可能性が指摘されている人物の1人です。

「自分はトランプ氏の代弁者ではない」と強調した上で、インタビューでは、トランプ氏はウクライナではなく、中国への対応を最も重視するだろうと分析しました。

対中国を最重視

「トランプ氏が明確にしてきたのは中国が優先であり、中国に対して断固とした態度をとるということです。
また、トランプ氏は同盟国に相応の負担を求めると繰り返し明確にしてきました。それを特にヨーロッパ諸国に対して実行してきましたが、日本に対しても同じ考えだと思います。
日本は安倍元総理大臣の指導力のおかげで、防衛予算が少なすぎるとか、中国や北朝鮮の脅威に見合う軍事力が欠如しているといった批判はあまり受けてきませんでしたが、それらはもっと精査されなければならないと考えています」
「バイデン政権が、日本との関係を“真の成功”だと言いたい政治的な動機を持っているために、日本はこのところ少々誤った自信を抱いているように思えます。
正しい方向には向かっていますが、スピードがあまりに遅すぎます」
いきなり飛び出した日本の対応への批判。それはトランプ氏の考えを代弁しているのかと尋ねると、こう答えが返ってきました。

同盟関係はビジネスパートナーのようなもの

「私はトランプ氏を代弁しているのではなく、彼の選挙運動のために話すわけでもありません。あくまで私の視点からの考えです。
しかし、トランプ氏の言及するアメリカ第一主義のアプローチに合致すると考えています。それはトランプ氏の言うところの外交政策における、いわゆるビジネスライクなアプローチであり、アメリカ国民に具体的な利益をもたらす手法です」
「同盟関係とはとても重要なビジネスパートナーのようなもので、要は実質的に役立たなければなりません。
もしビジネスパートナーが相応の力を発揮していないなら厳しい話をする必要があります。日本はアメリカにとって最も重要な同盟国で、この同盟はアメリカ第一主義という合理的な外交政策を実現する上で死活的に重要だと考えています。
しかし、その同盟は機能する必要があります。(日米韓首脳会談が開かれた)キャンプ・デービッドでの記念撮影や岸田総理大臣の議会演説だけでなく、軍事力を提供する必要があるのです」

われわれには時間がない

さらにコルビー氏は、日本が一段の軍事力増強をはかるべきだと主張する根拠について、中国の軍備増強のスピードが日米両国を上回っていることを挙げました。
「アメリカ、日本、フィリピン、そしてオーストラリアが進んでいる方向は良いと思いますが、それはすべて相対的なものであり、ワシントンも東京もこれまでよりも改善しているからと自画自賛し過ぎています。
中国の軍備増強や、彼らがやっていることに見合うほどにはうまく出来ていません」
「日本は2027年までに(軍事費をGDPの)2%にする方向で動いていますが、2027年は、習近平主席が人民解放軍に対して台湾への攻撃準備を終わらせるよう指示した年です。ですから、もっと早いペースで行動しなければなりません。
私は日本は現時点で(GDPの)3%の軍事費を費やしているべきだと考えています。軍事力の構築には何年もかかります。しかし、われわれにそれほどの時間はありません。ことし11月に当選し、来年1月に就任するアメリカ大統領は任期中に中国と戦争になる現実的な可能性があることを想定しておかなければなりません。
しかしながら、やるべき備えをしているとは私には思えないのです。これまでの成果を祝っている場合ではなく、もっと速く、もっと大規模に備える必要があります」

“台湾有事”「備えが可能性を低める」

“中国との戦争”が次のアメリカ大統領の任期中、すなわち2025年1月から2029年1月のあいだに現実のものとなり得ると主張したコルビー氏。

中国が武力で台湾を統一する台湾有事の可能性について見解を聞きました。
「習近平国家主席が、これからどんな行動をとろうと考えているかを知る人などいません。
ただ、われわれが今、目の当たりにしているのは中国の歴史的な軍事力の増強です。それはアメリカ軍や自衛隊に対抗し、台湾を奪還することを目的としています。
日本やアメリカ、そして台湾にとり賢明な計画とは、(台湾有事は)いつ起きてもおかしくないとして準備することです。そしてより準備が整えば中国がそれを目にし、台湾有事となる可能性はより低まることになるでしょう」

ばかげた戦争にはへきえき

そして、コルビー氏は、アメリカはウクライナでの戦闘から手を引き、日本も東アジアにおける防衛力強化にもっと集中すべきだと主張しました。
「バイデン政権がいま直面している問題は、ある意味、彼ら自身が認めている通り(中国とは別の)脅威への対応に引っ張られ、消耗させられていることです。これは中国にとって大きな勝利です。
バイデン大統領は軍事費を増やしていません。我々は、ロシアに対しても、またイランに対しても勝利することがないまま、大量の死活的に重要な資源を消費しているのです。
トランプ氏はウクライナへの追加の支援について、ヨーロッパがもっと負担すべきだと強調していますし、これは完全に正しいことです。
しかし、同じ論理は日本にもあてはまります。アメリカ第一主義の政策にあてはめれば、アメリカは日本の対応にも、もっと焦点をあてなければなりません。
最も驚かされたことの1つは、日本政府がバイデン政権のヨーロッパに集中する政策に同調したことです。これはアジアに投下すべきわれわれの能力を減じており、正しい判断ではありません」
「トランプ氏の支持者たちは、われわれの指導者の失敗に根ざした、ばかげた戦争にへきえきとしています。これは日本の失敗ではありませんが、われわれはお金の浪費や中東での戦いにうんざりしています。
日本はこの現実を深刻に受け止め、自分自身の防衛のために戦う準備が出来ていると思わせる必要があると考えます」

取材を終えて

コルビー氏へのインタビューを通じて感じたのは、トランプ氏が政権を率いた4年間の政策は正しかったのだという強い確信だ。

それと共に、同盟国・日本は大事だが、それはアメリカの国益を追求する上で欠かせないからだという考えが、いまのバイデン政権以上に直接的であるのも特徴だ。

仮にこうした元高官が政権入りすれば、日本もタフな交渉を強いられるであろうことは容易に想像できる。

トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、実際にどんな政策をとるかはトランプ氏のみぞ知る。

しかし、トランプ政権2期目が発足すればそのインパクトは極めて大きいと見られるだけに、側近や元高官への取材を重ねて可能性を聞き出す作業は今後ますます重要性を増す。

バイデン氏とトランプ氏のどちらが勝利するかは五分五分の情勢だが、日本がこれまで外交・安全保障分野で積み重ねてきた努力と貢献をトランプ氏やその側近に丁寧に説明していくことが大切であることを改めて実感した。
(5月11日サタデーウォッチ9で放送)
ワシントン支局長
高木 優
1995年入局 国際部 マニラ支局 中国総局(北京)などを経て
2021年3月から2度目のワシントン駐在