政治資金規正法改正案が衆院を通過 自公維などの賛成多数で

政治資金規正法の改正をめぐり、自民党が公明党と日本維新の会の主張を踏まえて新たに修正した法案は、衆議院本会議で、3党などの賛成多数で可決されました。法案は7日、参議院で審議入りし今の国会で成立する見通しです。

政治資金規正法の改正をめぐっては、与野党双方が法案を国会に提出し、自民党は公明党と日本維新の会の主張を踏まえ党の法案を修正しました。

自民党の法案では、いわゆる「連座制」導入のため収支報告書の「確認書」の作成を議員に義務づけるほか、パーティー券の購入者を公開する基準額を「20万円を超える」から「5万円を超える」に引き下げるとしています。

また、党から支給される「政策活動費」について項目ごとの使いみちや支出した年月を開示し10年後に領収書などを公開するとしています。

6日の衆議院本会議では採決に先立ち討論が行われました。

自民党の山下元法務大臣は「自民党の法案は各党・各会派からの提案を真摯(しんし)に受け止め、事態の再発を防止するとともに政治資金の拠出に関する国民の自発的意思を抑制しないようにしながら、政治活動の自由と政治資金の透明性を確保する内容だ」と述べました。

賛成した日本維新の会の浦野靖人氏は「一定の納得ができる修正ができたことから賛成の立場をとるがすべてを是としたわけではない。極めて小さな変化であり国民の信頼を取り戻すには全く不十分だ」と述べました。

反対した立憲民主党の西村代表代行は「企業などによるパーティー券の購入も規制せず政治家個人や政治団体に献金する抜け道を残すのが自民党案だ。抜け道だらけの自民党案では、裏金づくりの根絶には全くつながらない」と述べました。

このあと採決が行われ、自民党の法案は自民党、公明党、日本維新の会、教育無償化を実現する会などの賛成多数で可決され、参議院に送られました。

立憲民主党、共産党、国民民主党、れいわ新選組、社民党などは反対しました。

一方、立憲民主党と国民民主党が共同提出した法案などはいずれも否決されました。

自民党の法案は7日、参議院で審議入りし今の国会で成立する見通しです。

自民党案【詳細】

自民党の法案ではいわゆる「連座制」として、議員に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけ、会計責任者が不記載や虚偽記載で処罰された場合、議員が「確認書」を作成していなかったり、内容を確かめずに作成したりしていれば、50万円以下の罰金を科し公民権を停止するとしています。

また、収支報告書に不記載などがあった場合、相当する額を国に寄付できるようにするとしています。

一方、政治資金の透明性を向上させる方策として、外部監査を強化し、議員の政治団体の支出だけでなく収入も監査の対象に含めることや、議員に収支報告書のオンライン提出を義務づけることを盛り込んでいます。

そしてパーティー券の購入者を公開する基準額については、当初は現在の「20万円を超える」から「10万円を超える」にするとしていましたが、公明党の主張を踏まえ、法律の施行から1年後に「5万円を超える」に引き下げると修正しました。

さらにパーティー券の現金での販売を禁止し、代金は口座振り込みにするとしています。

党から議員に支給される「政策活動費」については、当初の案では50万円を超える支給を受けた議員が使いみちを項目ごとの金額で党に報告し、党が収支報告書に記載するとしていました。

これに支出した年月も開示する修正を加え、さらに日本維新の会の主張も踏まえ、1年ごとの支出の上限金額を定めた上で、50万円以下の支給を受けた場合も使いみちを開示する対象とし、領収書などを10年後に公開することも盛り込みました。

そして透明性を確保するため独立性のある第三者機関を設置することも追加しました。

国会議員の政治団体の会計処理をめぐっては、議員側から年間で1000万円以上の資金を後援会など別の政治団体に移した場合、支出の公開基準を国会議員の団体と同様に厳格にするとしています。

このほか国民民主党の主張を踏まえて、議員に規正法違反などがあった場合に政党交付金の一部の交付を停止する制度を創設することも加えました。

また、外国人などによるパーティー券購入に関する規制や個人献金を促進するための税制優遇措置、それに議員自身が代表を務める政党支部に寄付した場合は税制優遇措置の対象から外れることについて検討し、必要な措置を講じることも盛り込みました。

法案は一部の規定を除いて再来年1月1日から施行し、修正で法律の施行から3年をめどに見直す規定も追加しています。

《論点1》パーティー券 購入者公開の基準額

今回の政治資金規正法の改正案では、パーティー券の購入者を公開する基準額を、現在の「20万円を超える」から、法律の施行から1年後に「5万円を超える」に引き下げるとしています。

これまで、派閥や政治家のパーティー収入の大部分が20万円以下の匿名の購入者で占められいて、どんな企業・団体、個人がパーティー券を買ったのかがわからず、不透明だという指摘がありました。

政党以外には認められていない企業・団体献金の抜け道になっているとも指摘され、公開の基準額が引き下げられれば、一定の透明性の向上が図られることになりますが、5万円以下の購入者は、引き続き、非公開の扱いとなります。

企業・団体献金や、政治資金パーティーそのものを禁止するよう求めてきた立憲民主党などの主張とは、大きな隔たりがあります。

《論点2》「政策活動費」の公開

「政策活動費」は、政党から政治家個人に支出される資金で、これまで、政治家側には使いみちを公開する義務はなく、『ブラックボックスになっている』と指摘されてきました。

今回の派閥の政治資金をめぐる事件で逮捕・起訴された池田佳隆衆議院議員の事務所は、キックバックされた金について、議員の逮捕前、「政策活動費であると認識し、収支報告書に記載していなかった」などと説明していました。

改正案では項目ごとの使いみちに加えて、支出した年月を公開することを規定した上で、1年間ごとの支出の上限を定め、10年後に領収書などを公開すること、支出の監査のあり方を検討する第三者機関を設置することなどを盛り込んでいます。

《論点3》議員の罰則強化

今回の派閥の政治資金をめぐる事件では、派閥の幹部たちはいずれも立件されず、政治倫理審査会では、議員側へのキックバックや、収支報告書への虚偽記載が継続していた経緯について、「わからない」などといった弁明が相次ぎました。

議員本人への罰則を強化するいわゆる「連座制」として、改正案では、議員に収支報告書の「確認書」の作成を義務づけた上で、会計責任者が不記載や虚偽記載で処罰され、議員が確認を怠っていたことが明らかになった場合には、50万円以下の罰金を科し、公民権を停止するとしています。

立憲民主党などが求めてきた議員本人が会計責任者と同じ責任をとることの明確化については盛り込まれませんでした。

岸田首相「改正を確実に実現する」

岸田総理大臣は総理大臣官邸で記者団に対し「今回問題になった事案に対する具体的な再発防止策に加え、『政策活動費』や第三者機関についても明確な方向性を明らかにした。公明党や日本維新の会とも真摯な検討を行い法案をつくり上げたもので、実効性がないという指摘はまったく当たらない」と述べました。

そのうえで「参議院での審議はこれからで、改正を確実に実現するため引き続き緊張感を持って取り組んでいかなければならない」と述べました。

林官房長官 “参院で議論深められると考えている”

林官房長官は午後の記者会見で「政治資金に関するルールは政党・政治団体の政治活動の自由と密接に関連していることから、各党・各会派で議論してもらうべきもので、政府の立場でコメントは控えるが、引き続き参議院での国会審議を通じて議論が深められるものと考えている」と述べました。

各党の反応

自民 茂木幹事長 “賛同得て成立に万全期したい”

自民党の茂木幹事長は「政治資金のあり方は、与野党の枠を超えて取り組むべき重要課題であり、改正案は各党の提案の中でも取り入れられるものはできるかぎり取り入れた。引き続き高い緊張感をもって参議院の審議を進め、できるだけ多くの賛同を得て、この国会での成立に万全を期したい」というコメントを出しました。

自民 石破元幹事長 “一段落の雰囲気にならないように”

自民党の石破元幹事長は記者団に対し「一歩前進、二歩前進ではあるが、『これで一段落』みたいな雰囲気にならないよう党全体で心がけていかなければならない。抜け穴があると指摘されているがそれを利用して疑念を抱かれることがないようにするのがわれわれの責任だ。これで終わりにせず今後も、カネがかからない制度などを議論していかなければならない」と述べました。

立民 泉代表「自民党の修正案は不合格で話にならない」

立憲民主党の泉代表は記者団に対し「自民党の修正案は不合格で話にならない。政策活動費の支出の上限が決まらず、領収書などの10年後の公開は『タイムカプセルなのか』という話で、ありえない。企業・団体献金の禁止もゼロ回答となっている。参議院の審議でも法案の内容をしっかり詰めなければならない」と述べました。

また、岸田総理大臣が6日の本会議で、各党の討論が行われている中、遅れて議場に入ってきたことについて「改革の意志をまったく感じない。『火の玉になる』ということばもうそであり、政治改革に対する熱意のなさを表している」と批判しました。

一方、今の国会で岸田内閣に対する不信任決議案を提出するかどうかについて「これから対応を協議していく」と述べました。

維新 馬場代表「まだまだ改革しなければいけないところがある」

日本維新の会の馬場代表は記者会見で「珍しくわが党の主張が大きく取り入れられたが、まだまだ改革しなければいけないところがあり、十分納得していない。自民党から『抜本的な改革をしよう』という姿勢が見えたわけではなく、きょうの本会議の討論も、ことばでは反省しているが態度では反省していないと捉えた方がほとんどだろう。立憲民主党も政治資金パーティーの禁止を訴えながら、党幹部がパーティーを予定するなど矛盾している」と述べました。

また、党が主張する「調査研究広報滞在費」の使いみちの公開などについて「岸田総理大臣と交わした合意文書に期限はないが、党首どうしの約束を先延ばしすることは許されない。常識的にこの国会中に結論を得るのが当たり前で、やらなければ、最大限の力で自民党を攻撃していく」と述べました。

一方、馬場氏は与野党各党との連携をめぐり「改革を実行するためには、もちろん政権側に立つことが早道というのは万人が認めるところだろう。他党と協力する場合、主要政策をすりあわせて『これは必ずやる』という覚書を交わすことになる。その中には企業・団体献金の廃止が入ることは間違いない」と述べました。

維新 野党会派にシュークリーム差し入れ

日本維新の会は、政治資金規正法改正案を採決する衆議院本会議を前に、立憲民主党、共産党、国民民主党、それに無所属の議員でつくる会派、「有志の会」の国会内の控え室にシュークリームを差し入れました。

衆議院の特別委員会で理事を務める浦野靖人・議員が委員会の審議にともにあたった野党側の理事や委員に謝意を示したいとして贈ったものです。

洋菓子店で購入し、人数に応じて12個入りの箱を1箱から2箱届けたということで、浦野氏のもとには各党の議員からお礼の電話が寄せられていました。

5日は岸田総理大臣が自民・公明両党の国会対策委員会に別の洋菓子店のシュークリームを差し入れていました。

公明 石井幹事長「主張してきたとおりの中身になった」

公明党の石井幹事長は記者団に対し「自民党との協議の結果、ほぼ、党が一貫して主張してきたとおりの中身になったことは大きく評価している。一部の野党の賛同を得られたのは、与党として努力した結果ではないか。細かい点で確認しなければならない点が残っているので、成立後に円滑に施行できるよう参議院での審議で確認したい」と述べました。

共産 田村委員長「逃げきりや幕引き図るための法案」

共産党の田村委員長は記者団に対し「自民党が『裏金事件』から逃げきりや幕引きを図るための法案でしかなく、重大な改悪が行われたと言わざるをえない。参議院では企業・団体献金を禁止する対案を出しているので、これこそが国民が求める政治改革だということをしっかりと論戦の中で示し、道を切り開いていきたい。与党だけでなく、自民党に助け船を出して逃げきりを許した日本維新の会にも、国民の厳しい審判が下されるべきだ」と述べました。

国民 玉木代表「裏金問題の対策に全くなっていないザル法だ」

国民民主党の玉木代表は記者団に対し「裏金問題の対策に全くなっていないザル法だ。自民党は政治への信頼を揺るがす裏金問題を起こしておきながら全く反省がなく、怒りをもって抗議したい。『反省しろ、恥を知れ』と申し上げたい」と述べました。

そのうえで「これから参議院に審議の舞台は移るが、わが党は独自の法案を出している。抜け穴があるところを1個でも塞ぐことができるよう引き続き戦っていきたい」と述べました。

れいわ 大石共同代表「法案を採決させない戦いが必要だ」

れいわ新選組の大石共同代表は記者団に対し「抜け穴をふさいでいるようにみせて、拡大させるという『裏金維持法』だ。野党第一党が採決に合意して審議が進んできたので、茶番の極みだ。これから参議院での審議になるが、この法案を採決させない戦いが必要だ」と述べました。

繰り返す 政治とカネをめぐる問題

『政治資金規正法』は、「政治資金の流れを国民に公開することを通じて政治活動の公正と公明を確保し、民主政治が健全に発達するようにすること」を目的として1948年に議員立法で成立しました。

しかし抜け穴が多い「ザル法」と指摘され、政治とカネをめぐる問題が起きるたびに法改正が繰り返されましたが、問題の抜本的な解決にはつながりませんでした。

1988年に発覚したリクルート事件で企業から政治家への巨額の献金が大きな問題となり、自民党は翌年に、『政治改革大綱』を、さらにその3年後には、『政治改革の基本方針』を取りまとめます。

基本方針の中で自民党は、「国民の信頼がなければ政治は成り立たず、政治の透明化は、国民の信頼を得る第一歩である」として、人事で公正な適材適所を貫き、派閥の推薦は認めないこと、寄付やパーティー収入の公表基準の厳格化を目指すことも方針として掲げました。

1994年には、政治資金規正法の改正で、派閥への企業・団体献金が禁止されました。

しかしその後も、派閥がパーティー券を売るという形で、企業・団体から資金を受ける道は残され、「パーティー収入」は、自民党の派閥の主要な収入源となっていきます。

年間5万円を超えれば収支報告書に名前などの公表が義務づけられる「寄付」と比べて透明性が低いと指摘され、自民党の主要5派閥のおととしのパーティー収入について、去年12月時点の政治資金収支報告書をもとにNHKが調べたところ、85%にあたるおよそ7億6000万円分が1回20万円以下の購入者からの収入とされ、匿名になっていました。

収支報告書への不記載が長年、続いてきたことの背景の1つには、こうした透明性の低さがあったと考えられます。

リクルート事件のあと、当時の自民党の若手議員グループの1人として政治改革の提言を行った三原朝彦元衆議院議員は、「政治をする上で資金は必要で、金がかからないということはありえない。フェアにお金を集め、説明をしっかり尽くした上で使うのであれば、文句は言われないと思う」と述べる一方、「率直に言って、政治家は30年以上前から何も変わっていないと感じる。透明性と説明責任に関していまだにあいまいで、二度と繰り返すまいという姿勢が感じられない。規正法の網の目をすり抜けようとしてまずかったという気持ちを持てているなら、変われると思うが、ばれたらしかたないといった雰囲気であるならば、改めなくてはならない」と話しています。

識者「可能なかぎり透明化を」

政治過程論が専門の神奈川大学の大川千寿教授はパーティー券の公開基準の引き下げをめぐる国会での議論について、「30年前の政治改革では、国民の多くが優先するよう望んでいた政治腐敗の防止よりも、選挙制度改革に論点が移り、その積み残しが今回の事態を招いた。国民と政党・政治家のつながりを信頼に基づくものにするためには、資金の流れを透明化することが不可欠だ」としたうえで、「自民党の当初の案は、明らかに踏み込み不足だった。国民の批判の声が、最近の選挙結果にも表れ、譲らざるを得なくなったのだろう」と述べました。

「政策活動費」について、10年後に領収書を公開するなどと盛り込まれたことについては、当初の自民党案と比べると前進したとする一方で「10年たつと、引退する議員もいて、記録が散逸してしまう懸念もある。政策活動費が政治や選挙をゆがめているのではという疑念がある中で、理解されづらい内容だ」と指摘しました。

大川教授は、「政治に金がかかることは事実だと思うが、政党や政治が国民の信頼をこれだけ失っている中で、厳しい目としっかり向き合っていかなくてはならない。政治資金を使う以上は、きちんと説明責任を果たし、可能なかぎり透明化を進めていくという姿勢が、自民党はもちろんだが、野党を含めた政治全体に求められている」と話しています。

神戸学院大学 上脇博之教授「改革やめさせないことが重要」

今回の政治資金をめぐる問題の捜査のきっかけとなる刑事告発を行った神戸学院大学の上脇博之教授は、今回の政治資金規正法の改正案について、「政策活動費など、合法的な使途不明金、事実上の裏金を今後も残す法案になっているので、私から見れば評価に値しない」と述べたうえで、「事件の捜査や、自民党の調査で明らかにされた“裏金”は、過去5年分に過ぎず、氷山の一角にすぎない。刑事責任は時効が5年だが、政治責任は必ずしも、5年には限定されず、主権者である国民にきちんとした説明を果たさなければ、今の自民党では、信頼回復は難しいと思う」と指摘しました。

そのうえで上脇教授は「国民が改革を求めることをあきらめてしまったら、今後も裏金は作られ、正常な政治や選挙がゆがめられてしまう。民主主義にとって、裏金は悪であると声をあげ、改革をやめさせないことが重要だと思う」と話しています。