ヨーロッパ議会選挙 きょうから一部の国で投票始まる

EU=ヨーロッパ連合の重要な政策を左右するヨーロッパ議会選挙は6日から一部の国で投票が始まります。選挙ではEUに懐疑的な右派や極右の政党が議席を伸ばすと予想され、世界をリードしてきた気候変動対策などの分野で政策の進め方に変更を迫られる可能性もあります。

EUの議会にあたるヨーロッパ議会は、加盟国とともにほとんどの分野で立法を行い、EUの委員長の人事や予算を承認し、政策運営を監督しています。

選挙では人口に応じて加盟各国に割り当てられたあわせて720の議席をめぐり、国ごとに投票が行われます。

6日はオランダで投票が始まり、最終日の9日にはフランスやドイツなどの主要国で投票が行われます。

今回の選挙ではロシアのウクライナ侵攻の影響による物価の高騰や、移民や難民の流入が続く中、EUの統合に懐疑的な右派や極右の政党は、自国の利益を最優先にすべきだと訴えて支持を広げているとみられています。

政治専門サイト「ポリティコ」による予測では、今月4日時点でEUに懐疑的な右派や極右の政党が議席の20%以上を占める勢いでどこまで議席を伸ばすかが焦点となっています。

影響受けるとされる分野のひとつ「気候変動対策」

今回の選挙でEUに懐疑的な右派や極右の政党が議席を増やした場合に大きな影響を受けるとされる分野のひとつが、EUが主要政策として掲げる気候変動対策です。

EUは、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げ、EV=電気自動車の推進など運輸やエネルギー、産業をはじめ幅広い部門で排出削減に向けた取り組みを進める新しい成長戦略「グリーンディール」を打ち出しています。

しかし、環境先進国として知られてきたドイツでも、こうした政策に反発が広がっています。

反発を背景に支持を広げる右派政党「ドイツのための選択肢」は、EUは物価の高騰や移民・難民の流入などの課題を顧みず、気候変動対策を進めているなどと訴えてきました。

5月下旬、ドイツ西部で開いた選挙集会でもワイデル党首が集まった支持者を前に、EVの推進は、個人の選択の自由を奪い負担を強いると批判しました。

そして「環境主義者たちの妄想的な政策を止めよう」と訴えると参加者から拍手が起こっていました。

集会に参加した30代の男性は「気候変動対策を進めたいなら暮らしに影響がないようにすべきだ。強制してはならない」と話していました。

シンクタンクのヨーロッパ外交問題評議会は、極右や右派の政党が躍進すれば、議会にいままで存在しなかった反気候変動対策の連合が生まれ、加盟国が一致して対策を進めるスピードが落ちるだろうという見通しを示しています。

右派や極右の政党 議席増やす可能性に警戒感も

今回のヨーロッパ議会選挙で、気候変動対策に反対する右派や極右の政党が議席を増やす可能性があることに、警戒感も強まっています。

5月31日には、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんなどが立ち上げた若者たちの運動「未来のための金曜日」が、ドイツなどヨーロッパ各地で一斉にデモや集会を開き、右派や極右の政党に投票しないよう訴えました。

ドイツでは80か所で行われ、首都ベルリンではおよそ1万3000人が参加し、中心部の大通りを「私たちの未来のためにあなたの1票を」とか「今回の選挙の1票は気候変動対策を進める1票」と書かれた横断幕を掲げて行進し、気候変動対策を推進する党に投票しようと訴えていました。

今回、初めて投票する16歳の女性は「多くの人が『ドイツのための選択肢』などを支持するようになっているのでそうした政党は問題の解決策にならないと伝えなければいけないと思う」と話していました。

また、娘の将来のために参加したという母親は「地球を守る必要があり、子どもや家族の将来を考えて投票しなければいけないと伝えたくて参加した」と話していました。

気候変動対策を優先「国民に負担」と不満も

右派政党「ドイツのための選択肢」の支持者の多くは、物価の高騰、それに、中東やアフリカからの移民や難民の流入への対応といった課題が山積する中EUが気候変動対策を優先し、国民に負担を強いていると不満を募らせています。

このうち党の集会に初めて参加した50代の男性は、EUがEVを推進するなか、自分が乗っている燃料費が安い天然ガスで走る自動車の生産が相次いで停止され、燃料の補給場所も減っていることに、個人の選択の自由が奪われていると怒りをあらわにしています。

また、ドイツ政府がEUの目標を踏まえて、ことしから住宅に新設する暖房設備について再生可能エネルギーの利用を義務づけたことについても、設備の導入で高額の費用の負担を強いられると感じています。

男性は「EUや政府が行動を強制しているのが問題だと思っている。気候変動対策には反対しないが市民のことをよく考え進めるべきだ」と話し、負担が伴う対策はやめるべきだと訴えていました。

こうした声はほかの参加者からも聞かれ、以前は主要な中道右派政党を支持していた50代の弁護士の女性は「気候変動対策は市民が受け入れられる程度のものであるべきだ。EUの気候変動対策は理念だけが先行していて、うまくいくはずがない」と話していました。

また、37歳の消防士の男性は「気候変動対策を進めたいなら暮らしに影響がないようにすべきだ。強制してはならない」と話し、EUに見直しを求めていました。

「EUの取り組み 速度が鈍る可能性」

EUの気候変動対策などに詳しいヨーロッパ外交問題評議会のマッツ・エングストロム上席政策フェローは、EUに懐疑的な右派や極右の政党は軒並みEUの気候変動対策を批判しているとし「国の主権を重視し、EUのような国際的枠組みを好まず、気候変動対策にも否定的だ」と説明します。

そのうえで、こうした勢力がヨーロッパ議会で議席を増やした場合の影響について「対策の方向性は変わらないが、新たな法律を制定するスピードが落ちるだろう」と述べ、EUの取り組みの速度が鈍る可能性があると指摘します。

具体的には、現在、検討されている2040年までに温室効果ガスを1990年に比べ90%削減する新たな目標や、市民への負担が生じる交通や住宅での対策などが弱められる可能性もあるという見方を示しています。

さらに、EUに懐疑的な右派や極右の政党が加盟国への支援にも使われるEUの予算の削減も重視していることに触れ「経済力が比較的小さい中央や東ヨーロッパの国は温室効果ガスを減らすための社会の変革を進めるのに必要な資金を調達するのが難しくなるおそれがある。具体的にはEVの充電スタンドや再生可能エネルギーのための送電線といったインフラの整備だ」と述べ、各国の取り組みに影響を及ぼしかねないと指摘しました。

一方で「ヨーロッパの産業界や金融界は気候変動対策に伴う転換に多額の投資をしてきた。これを進めることに経済的な理由があり、グローバル市場で利益を得られると考えている」とも述べ、経済界を中心に対策を進める機運は変わらないという見方も示しています。