水産物に異変!日本の食文化は……

水産物に異変!日本の食文化は……
焼き魚に、わかめの味噌汁、ご飯のおともの焼き海苔……日本の食卓に欠かせないのが、これら水産物です。

しかしここ数年、水産物の異変を伝えるニュースが増えています。

何が起きているのか。日本の食文化は守れるのか。現場を取材しました。

(経済部 川瀬直子記者/松山局 伊藤瑞希記者)

豊洲でも異変

水産物の現状を取材しようと、まず訪れたのは東京・豊洲市場。全国から水産物が集まり、世界最大の水産物の卸売市場とも呼ばれています。

しかし、豊洲の卸売市場での水産物の取引量は、減少傾向が続いています。去年1年間では29万トンと、4年前に比べて1割以上減りました。
日本人の魚離れなども挙げられていますが、大きな要因として指摘されるのが、不漁による漁獲量の減少です。

スーパーなどに水産物を卸している、仲卸業者の亀谷直秀さんに話を聞くと、不漁の影響で秋の味覚のサンマなどの価格高騰が目立つほか、魚の旬の時期や主な産地も、これまでと変わってきていると言います。
仲卸業者 亀谷直秀さん
「魚種によっては魚の住む場所が変わり、『いいもの』が入りにくくなっている。漁獲量が減り、価格が高くなると、消費者からも敬遠されてしまうので、またたくさん獲れるといいなと思う」

「呼子のイカ」も不漁!?

漁業の現場では何が起きているのか。次に訪れたのは、「呼子(よぶこ)のイカ」で有名な佐賀県唐津市の呼子町です。
町内には「活造り」や天ぷら、シューマイなど、さまざまなイカ料理を提供する飲食店が多く軒を連ね、市はイカを観光の柱と位置づけPRしていますが……。
5月下旬のある日、10時間ほどの漁を終えて、港に戻ってきたイカ釣り漁船から水揚げされたのは、シーズンのケンサキイカが10匹ほど。

重さにして5キロ余りで、例年と比較すると4分の1ほどに落ち込んでいると言います。
漁協の青年部長 浪口太さん
「近ごろは燃料費も高く、この漁獲量だと釣り合いがとれない。『呼子のイカ』を目当てに食べに来てくれた観光客が食べることができないケースもあり、心苦しい。本当に厳しい状況だ」

10年前から約100万トン減

漁獲量の減少は、さまざまな水産物におよびます。

農林水産省がまとめた「漁業・養殖業生産統計」によると、去年1年間の日本の漁獲量は、能登半島地震の影響で調査が遅れている石川県を除いた速報値で372万トン余り。

今後、石川県の分が加わっても、去年に続いて過去最低を更新する見通しで、10年前からは、およそ100万トン減った形です。
種類ごとにみると、前年に比べ、
▼サバが18%減、▼カツオが20%減、▼スケトウダラが23%減、▼スルメイカが36%減と、身近な魚の減少が目立っています。

また▼サンマは前年よりは増えたものの、ピーク時の昭和33年(1958年)の4%程度にとどまりました。

さらに、養殖の▼のりも13%減と、鮮魚以外も減っています。

不漁の背景には何が?

漁獲量の減少が続く背景には何があるのか。

国内外の漁業に詳しい、東京大学大学院の八木信行教授は、日本人の魚離れや漁業者の減少といった要因があるものの、資源量そのものの減少も大きいと指摘しています。

気候変動の影響で生息域が移動してしまったり、成長しにくくなったりしている中で、これまでどおりに漁を続けた結果、資源量自体が減っているのではないかというのです。

ただ、そのほかにも海洋汚染やエサの状況など、魚ごとにさまざまな要因が複雑に絡み合っているため、対策に向けてはより詳細な調査が必要としています。
東京大学大学院 八木信行教授
「漁獲量の減少の背景にはたくさんの要因があり、魚種ごとに調査して一つ一つ対応を取る必要がある。韓国やヨーロッパの各国なども、日本と同じかそれ以上、漁獲量が減っているので、そうした国とも連携をしながら、国際的な協力体制を構築していくことが重要だ」

料理人の危機感

水産物の漁獲量の減少に、強く危機感を抱いているのが料理人たちです。

5月下旬、有名レストランのシェフなど、およそ40人の料理人たちで作る団体のメンバーが水産庁を訪れました。
「このまま水産資源の減少が続けば、日本の食文化を守れないかもしれない」

そんな思いから、国が水産資源の保護にさらに取り組むよう求める提言を、水産庁長官に手渡しました。

「未利用魚」活用の取り組みも

水産物の漁獲量が減る中、料理人たちの間では、独自の取り組みも始まっています。

提言をした一人、東京都内で和食店を経営する林亮平さんは、毎日の仕入れの中で年々、水産物が手に入りにくくなっていると感じてきました。
林亮平さん
「感じ始めたのは、店を自分でやるようになってからだが、毎日の水産物の仕入れをしていると『ことしは少ないですね』という話になり、また次の年になったら『やっぱりないですね』という話が、いろいろな魚で聞くようになった」
こうした中で林さんが目をつけたのが、広く流通することの少ない、いわゆる「未利用魚」です。

人気の魚ばかりを使うことが、魚の捕りすぎにもつながると考え、今まであまり利用されてこなかった魚を料理に使おうと考えたのです。

今は毎日、各地の卸業者などに直接連絡を取り、あまりなじみのない魚も仕入れるようにしていると言います。
取材に訪れた日、林さんが仕入れていたのは、岡山県で水揚げされた「ヒラ」という魚です。

地元では知られているものの、ほかの地域ではあまりなじみがない地魚で、小骨が多く調理が難しいと言います。
林さんは、同じように骨が多い「ハモ」を調理する道具や技術を使って、骨を切って食べやすくし、寿司や皮を軽く火であぶる「焼き霜造り」などにしていました。
林亮平さん
「魚が減っていく中で、いろいろな魚をおいしく食べるということは必要だと思うし、私たち料理人は、一般の方より調理技術の引き出しや経験もあるので、新しい調理方法を作り出しやすい。魚食文化を将来につなげていくということは、私たち料理人の使命でもあるし、義務ではないかと思う」

国は資源管理を強化

一方で、国は、さまざまな水産物の漁獲量に制限を設けるなどして、資源の回復を目指しています。

クロマグロやサンマ、スケトウダラ、スルメイカ、ズワイガニなど、漁獲量の多い魚を中心に制限を設け、捕りすぎを防ぐことにしています。

このうち太平洋のクロマグロは、一時、資源量が落ち込みましたが、各国が漁獲制限を強化した結果、このところ資源量は回復傾向にあります。

国は、こうした取り組みによって、令和12年度(2030年度)までに、養殖などを除く漁獲量を444万トンまで回復させたいとしています。

まとめ

水産物は一度減ってしまうと、回復に長い時間がかかります。

資源管理によって、資源量の回復が見られる魚はあるものの、それはまだごく一部です。

今一度、豊かな食文化を支えてきた水産資源に目を向け、どうすれば次世代につなげていけるのか。われわれ消費者も含めて、考えるときが来ていると感じます。

(6月1日「ニュース7」で放送)
経済部記者
川瀬 直子
2011年入局
新潟局、札幌局を経て現所属
農林水産行政を担当
松山局記者
伊藤 瑞希
2016年入局
津局、松江局を経て現所属
経済分野の取材を担当