「支援金制度」 子ども・子育て支援法などの改正法 成立

児童手当の拡充をはじめとした少子化対策の強化策や、財源を確保するための「支援金制度」の創設を盛り込んだ、子ども・子育て支援法などの改正法が、参議院本会議で賛成多数で可決・成立しました。

改正法は、児童手当の所得制限をことし12月の支給分から撤廃し、対象を18歳まで広げるのに加え、働いていなくても子どもを保育園などに預けられる「こども誰でも通園制度」の導入や、育児休業給付の拡充などが盛り込まれています。

そして財源を確保するため、公的医療保険に上乗せして国民や企業から集める「支援金制度」を創設し、2026年度から段階的に運用を始めるとしています。

このほか、家族の介護や世話などをしている子どもたち、いわゆる「ヤングケアラー」についても、国や自治体による支援の対象とすることを明記し、対応を強化していくとしています。

改正法は、5日の参議院本会議で討論のあと採決が行われた結果、自民・公明両党などの賛成多数で可決・成立しました。

立憲民主党、日本維新の会、共産党、国民民主党、れいわ新選組などは反対しました。

改正法をめぐっては、支援金の効果を検証し、適切に見直しを行うことなどを求める付帯決議が衆参両院の委員会で可決されています。

改正法 新たな少子化対策は

改正法には、政府が去年12月に策定した「こども未来戦略」に基づく新たな少子化対策が盛り込まれています。

この中では
▽児童手当について、ことし12月の支給分から所得制限を撤廃し、対象を18歳まで広げるとともに、第3子以降は月額3万円に増額するとしています。

そして
▽ひとり親世帯を対象にした児童扶養手当については、子どもが3人以上いる世帯で加算部分の支給額が引き上げられます。

また
▽妊娠・出産した際に10万円相当を給付し
▽子どもが1歳になるまでの親の国民年金保険料を免除するとしています。

このほか
▽「こども誰でも通園制度」を創設し、親が働いていなくても、3歳未満の子どもを保育所などに預けられるようにします。

さらに
▽両親がともに14日以上育児休業を取得すれば、最長28日間は、育児休業給付を拡充し、実質的な手取り収入が減らないようにするとともに
▽2歳未満の子どもの親が時短勤務をする場合、賃金の10%にあたる額を支給する新たな制度の創設も盛り込まれています。

政府は、少子化に歯止めをかけるには、若年人口が急激に減少する2030年までがラストチャンスだとしていて、一連の施策を着実に進めていきたい考えです。

少子化対策強化の財源は

政府は少子化対策の強化に年間3兆6000億円が必要としていて、当面は一部を国債で賄いながら、2028年度までに安定的な財源を確保するとしています。

内訳は、すでにある予算の活用で1兆5000億円程度、歳出改革で1兆1000億円程度、企業や国民から集める「支援金制度」の創設によって1兆円程度を捻出するとしています。

「支援金制度」2026年度から徴収

このうち「支援金制度」は2026年度から公的医療保険を通じて徴収が始まり、初年度の2026年度は6000億円、2027年度は8000億円、制度が確立する2028年度以降は1兆円を集める計画です。

1人当たりの負担は?

政府の試算では、子どもなど扶養されている人を含めた医療保険の加入者全体では、1人当たりの平均月額が2026年度で250円、2027年度で350円、2028年度で450円としています。

保険の種類ごとでは、いずれも2028年度時点で、主に中小企業に勤める人などが加入する「協会けんぽ」が450円、大企業に勤める人などが加入する健康保険組合が500円、そして、公務員などが加入する共済組合で600円としています。

扶養されている人を除いた「被保険者」で試算すると「協会けんぽ」が700円、健康保険組合が850円、共済組合が950円となっています。

労使折半が前提で、事業主も同額を拠出するとしています。

このほか、自営業者などが加入する国民健康保険では、加入者1人当たり400円、1世帯当たりでは600円、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度は350円となっています。

政府“実質的負担生じない” 野党などは批判

政府は医療や介護などの歳出改革や賃上げによって社会保険負担の抑制を図り、「支援金」による実質的な負担は生じないとしています。

これに対し、野党などからは高齢化の進展で社会保障分野の歳出改革には限界があり、国民負担を招くのは明らかだなどといった批判が出ています。

また、歳出改革により、医療や介護の窓口負担が増えたり、サービスが削られたりする可能性もあり、関係者の理解を得ながらどのように歳出改革を進め、財源を確保していくかが課題となります。

さらに、政府は今回の対策の効果を検証し、2030年代初頭までに子ども・子育て予算の倍増を目指すとしていますが、必要な財源の確保に向け、少子化対策への国民の理解をどう得ていくのかも課題となります。

子育て支援などの団体 “海外と同水準の改革検討を”

子ども・子育て支援法などの改正法が5日、可決・成立したことを受け、子育て支援などにあたる団体が5日、共同で記者会見を開き、声明を発表しました。

この中で、子育て支援策の提言を続けてきた団体の榊原智子事務局長が「誰一人取り残さない子育て政策を求めてきた中、児童手当の所得制限の撤廃や子どものための財源確保など政府が進めようとする少子化対策の方向性を高く評価している」と述べました。

そのうえで、「今回の施策だけでは、少子化が進む状況を反転させるのは難しい」として、海外の先進国と同水準の改革を進めるための検討に入るよう求めました。

具体的には、妊娠、出産の無償化や、父親が育児参加できるよう過重な労働時間にペナルティを設けるなど、労働時間の短縮を進めること、また、子育て支援や少子化対策の財源を世代をまたいで負担するよう税制も含めた改革を検討することなどを求めています。

子どもの貧困対策にあたる公益財団法人あすのばの末富芳理事は、「少子化の要因のひとつは若い世代の非婚化があり、背景には経済不安がある。若者の負担を抜本的に軽減するなど、子どもを希望する人が安心して産めるよう社会としてさらなる投資を進めてほしい」と話していました。

専門家「改善の方向に向けた大きな第一歩」

子ども・子育て支援法などの改正法が成立したことについて、少子化の問題について経済学の視点から研究している東京大学大学院の山口慎太郎教授は「少子化自体は長く懸念されてきた問題だが、ほとんど実質的な策が打たれないできた中、予算の大幅な増額という大きい手が打たれるようになったこと自体は、前進と捉えて良いのではないか。これによって少子化やそれにまつまわる問題が劇的に改善するということはないと思うが、改善の方向に向けて大きな第一歩になると感じる」と一定の評価を示しました。

また、少子化対策の強化に向けて財源の確保が課題となるなか「支援金制度」の創設が盛り込まれたことについては「少子化対策は将来の日本経済などの改善につながるため、長期的には日本社会全体にメリットのある政策で、社会全体で薄く広く負担していくことが望ましいと考えている。ただ、成果が見えづらいなど難しい問題であるため、政府は丁寧に説明をし、理解を求めていくことが重要だ」と述べました。

そのうえで今後に向けては「今回の政策は子どもがいる家庭を中心に打ち出されているが、結婚率の低下も出生率の減少の原因になっているので、結婚前の若い世代への対策も必要だ。労働市場の状況を改善し将来の経済に対する見通しを良くするため、少子化対策だけでなく労働市場政策や景気対策も続けていく必要がある」と指摘しています。