4月の所定内給与 前年同月比2.3%増も 実質賃金はマイナス続く

ことし4月の働く人1人当たりの基本給などにあたる所定内給与は前の年と比べて2.3%増加し、およそ30年ぶりの高い伸び率となったことがわかりました。
一方で、物価を反映した実質賃金はマイナスが続いていて、厚生労働省は「春闘で賃上げの動きが広がったが、物価上昇の影響が強い状態が続いている」としています。
こうした中、賃上げの不足分を補おうと、ユニークな取り組みを進める企業を取材しました。

「現金給与の総額」前年同月比 2.1%増

厚生労働省は全国の従業員5人以上の事業所、3万余りを対象に「毎月勤労統計調査」を行っていて、ことし4月分の速報値を公表しました。

それによりますと、基本給や残業代などをあわせた現金給与の総額は1人当たり平均で29万6884円と、前の年の同じ月に比べて2.1%増加し、28か月連続のプラスとなりました。

このうち、基本給などにあたる所定内給与は26万4503円と2.3%増加し、1994年10月以来、およそ30年ぶりの高い伸び率となりました。

「実質賃金」前年同月比 0.7%減 25か月連続のマイナス

一方で、物価高騰の変動分を反映した実質賃金は、前の年の同じ月に比べて0.7%減少しました。

実質賃金がマイナスとなったのは25か月連続と過去最長を更新し、依然として物価の上昇に賃金の伸びが追いついていない状況が続いています。

厚生労働省は、「春闘で高い水準の賃上げの動きが広がったことが所定内給与の増加につながったとみられるが、物価上昇の影響が強い状態が続いている。5月以降に賃上げを行う企業もあるとみられるので、今後、実質賃金がプラスに転じるのか注視したい」としています。

専門家 “早ければ夏ごろ実質賃金プラス転換も…”

大和総研の神田慶司シニアエコノミストは、「ことしの春闘ではかなり高い賃上げ率が実現するという結果がいろいろな調査で明らかになっているが、その一部が反映された形だ。今後、春闘を受けた賃上げの結果がさらに反映されていくと、早ければ夏ごろにも実質賃金はプラスに転換していくと見ている」と話しました。

一方で、「中小企業でどれくらいベースアップが進むのか、まだ不透明感が強い。物価上昇率は少し低下してきているが、政府のエネルギー対策が終了する関係で電気代やガス代が上がっていく。人件費が増加する中で円安による原材料高を価格に転嫁する動きが広がり、物価高がかなり長く続く可能性がある」と指摘しました。

そのうえで、「給与が思ったほど上がらなかったり、物価上昇が予想以上に加速すれば、実質賃金がプラスに転換する時期が年末あるいは来年にずれ込む可能性はある。今後の賃金や物価の動向を注視していく必要がある」と述べました。

賃上げの不足分はチップで 専用アプリを開発

賃上げが物価上昇に追いついていない企業の中には、従業員の働きに報いたいと、独自の取り組みを進める企業もあります。

千葉県内で焼き肉店など3店舗を経営する会社では、円安などの影響で肉の仕入れ値がこの1年で3割以上あがっていますが、商品の値上げはその半分ほどしかできておらず、厳しい状況が続いています。

輸送費や光熱費なども上がっていることから、会社では配膳ロボットや人件費率などを見える化するシステムを導入して効率化を図り、経費の削減に取り組んでいます。

さらに、大型の冷凍施設を新たに設置することで一度に多くの肉を仕入れ、仕入れ値を抑える工夫も行っています。

こうした努力を積み重ねることで、ことしは
▽10人いる社員に対しては、ベースアップ相当分として1.5%、
▽50人のアルバイトには、時給で50円の賃上げを行いました。

しかし、ことしの春闘を受けた平均の賃上げ率には届いておらず、物価の上昇にも追いついていないのが現状です。

そこで会社では、従業員の働きに報いるため賃上げの不足分を少しでも補おうと、従業員が客からチップをもらえるアプリをIT企業と共同で開発し、6月から導入しました。

アプリでは、飲食代金に応じてたまるポイントを次の来店時に割り引きとして使うか、投げ銭ボタンを押して応援したい従業員にチップとして渡すか選択できます。

チップは月末に現金に換えられ、従業員の給料に上乗せされるということで、訪れた客は従業員から説明を受けて、早速アプリをダウンロードしていました。

初めて来店した女性客
「お店の人に直接お金を渡すのは恥ずかしいけど、アプリなら小さい金額からでも渡すことができていいと思います」

60歳の女性社員
「給料を上げてもらってうれしいが、物価上昇が激しいので生活が豊かになっている感覚は全然ありません。チップが給料に反映されるなら、いままでよりもまめに動こうとか、アルバイトにもそういう気持ちが出てきてくれるといいです」

焼き肉店を経営する会社の 菰岡 翼 専務取締役
「原材料費や輸送費のコストが上がっていて、原材料費に左右される焼き肉屋にとってはかなり厳しい現実です。それでも賃上げにつながるような仕組みをいかに作るかが大事で、作業の効率化や投げ銭の導入で、従業員の賃上げにつなげていきたい」