水原一平元通訳 起訴内容認める 量刑は10月25日に言い渡しへ

「多額の借金を背負い、思いついた唯一の手段は口座の金を使うことだった」

大リーグ、ドジャースの元通訳の水原一平被告はアメリカ・ロサンゼルス近郊の裁判所で、大谷翔平選手の口座から不正に送金を行ったとする銀行詐欺などの罪について起訴内容を認め、10月に量刑が言い渡されることになりました。

大谷選手や大リーグ機構などは一定の区切りがついたとする声明を相次いで発表しました。

水原元通訳はダークスーツに丸首の白いシャツ姿で裁判所に

水原元通訳は、現地時間4日の午前8時半過ぎ、ロサンゼルス近郊の裁判所に到着しました。ダークスーツに丸首の白いシャツ姿で、弁護士の後ろをゆっくりと歩いて入り口に向かいました。

大谷翔平選手の専属通訳だった水原一平被告は大谷選手の口座から1700万ドル近く=日本円でおよそ26億円を不正に送金したなどとして、銀行詐欺の罪とうその納税の申告をした罪でアメリカの検察から起訴されています。

現地時間の4日、日本時間5日未明、ロサンゼルス近郊の裁判所で罪状認否が行われました。

水原元通訳「有罪です」 起訴内容認める

この中で、水原元通訳は「ギャンブルで多額の借金を背負うことになってしまい、思いついた唯一の手段は私がアクセスできた口座の金を使うことだった」と述べたあと、2つの罪について「有罪です」と答えて起訴内容を認めました。

量刑は10月25日に言い渡されることになり、水原元通訳は検察との間で司法取引で合意していることから最も重い場合の33年の拘禁刑よりも軽くなる見込みです。

水原元通訳は、裁判官から名前と年齢に続いて「学校に通ったのは、何年間ですか」という質問を受けると、少し迷うように間を置いてから「13」と答えました。

さらに裁判官から「高校は卒業しましたか」と聞かれると、水原元通訳は「はい。少し大学にも」と答えましたが、それ以上の確認はありませんでした。

大リーグの公式ウェブサイトに掲載された記事などでは、水原元通訳はカリフォルニア大学リバーサイド校に通っていたと記載されていましたが、大学によると水原元通訳が在籍したという記録はないということです。

裁判所を出たあと無言のまま車に

水原元通訳は弁護士とともに裁判所を出たあと報道陣の質問には反応せずに無言のまま車に乗り込みました。弁護士は、水原元通訳がカメラの前で話す予定はあるかと問われると、「いいえ、きょうはコメントしない」とこたえました。

検察 「大谷選手は被害者」

検察は記者会見し「量刑のガイドラインによれば、収監されることになるだろう。その後、国外退去と日本への送還に直面することになる」と述べました。

その上で、「水原元通訳は大谷選手を利用し犠牲にした」と述べ、大谷選手は被害者だと改めて強調しました。

大谷選手が声明 「事件に終止符を打ち 前に進む時期」

大谷選手は水原元通訳が起訴内容を認めたことをうけて、代理人を通じて日本語と英語で声明を出しました。

「捜査が完了し、罪も全て認められた今、私および家族にとっても重要な終結を迎えることができました。すべての証拠を完全に明らかにしながら、これほど徹底的かつ効果的な調査を迅速に遂行してくれた当局の方々に心から感謝したいと思います。これは僕にとっても非常に複雑で困難な時期でした。

この間にずっと絶え間ない支援を続けてくれた僕のサポートチームに感謝しております。家族、代理人、エージェンシー、弁護士、そしてドジャースの組織全体に感謝しております。この事件に終止符を打ち、前に進む時期が来たと思っています。これからもこのチームの一員として少しでも勝利に貢献できるよう集中して行きたいと思っております。これからもよろしくお願い申し上げます」

ドジャース・ロバーツ監督「気にしていない」

(ドジャース・ロバーツ監督)
「すでに形式的なものであって正直に言うと気にしていなかった。終わりに近づいているならすばらしいことだ」
「翔平にとって気が散るようなものであったと思うが、彼は切り離せていた。すばらしい仕事をしていたと思う」

ドジャース「問題をすべて過去のものに」

ドジャースは水原元通訳が起訴内容を認めたことについて球団の公式SNSを通じて声明を出しました。

ドジャースは、「司法取引が成立し捜査が終結したことで、ドジャースは、大谷選手とチームがこの問題をすべて過去のものとし、ワールドシリーズ制覇に向けて前進できることを喜んでいる」としています。

また、大リーグ機構も「争われることなく解決したことをふまえ、大リーグ機構は大谷翔平選手を詐欺の被害者とみなし、この問題を終結した」とする声明を出し、調査を終結したことを発表しました。

水原元通訳 これまでの経緯

水原元通訳が違法賭博に関与し、大谷選手の資金を盗んだという疑惑が発覚したのは、ことし3月20日。

アメリカの複数のメディアが伝えたのがきっかけでした。

当時、韓国のソウルで開幕シリーズを戦っていたドジャースは翌日、水原元通訳を解雇したと明らかにしました。

それから3週間たった4月11日、アメリカの捜査当局は水原元通訳を、大谷選手の口座から1600万ドル以上を不正に送金したとして、銀行詐欺の疑いで訴追したと明らかにしました。

その翌日、水原元通訳は司法当局に出頭し拘束され、裁判所で訴追を受けた手続きが行われます。

このなかで被害者である大谷選手に一切、連絡をしないこと、ギャンブル依存症を克服するためのプログラムを受けることなどを条件に、保釈されます。

およそ1か月後の先月8日にはアメリカ司法省は、水原元通訳が検察との間で司法取引に合意したことを明らかにします。

さらに水原元通訳が違法賭博による借金を返済するため、銀行にうそをついて大谷選手の口座から無断で1700万ドル近くを不正に送金した銀行詐欺の罪に加え、新たにうその内容の納税に関する書類に署名した罪で、起訴されたとも発表します。

水原元通訳は先月14日にはロサンゼルスの裁判所に出廷し、形式的な手続きに臨みました。

そして翌日の15日、アメリカ司法省は今月4日に罪状認否が行われると発表し、この場で水原元通訳が起訴内容を認める見通しだとしています。

今後の裁判は

記者がわかりやすく解説

4日の審理で水原元通訳が起訴内容を認め、その答弁が裁判官によって受理されればこの事件で有罪となることが決まります。

これに伴い、一般の市民から選ばれた陪審員による裁判は行われず、冒頭陳述や最終弁論などの手続きは省略され、今後は量刑、つまり刑の重さを決める手続きに移行します。

量刑を決めるにあたって裁判官が参考にするのが、連邦法違反の犯罪について設けられているガイドラインです。

このガイドラインには犯罪の性質や被害の大きさ、犯罪歴などを考慮して量刑の範囲が定められています。

また今回、水原元通訳と検察側の司法取引では、量刑が57か月から71か月、つまり4年9か月から5年11か月の範囲であれば、互いに控訴しないことで合意していて、裁判官はこの合意も参考にしながら量刑を決めることになります。

また、司法取引の合意では水原元通訳に対して被害者に賠償するよう求めています。

支払う額は現時点では大谷選手に対して1697万5010ドル、日本円にしておよそ26億5000万円、また、2022年分の追徴課税として日本の国税庁にあたる内国歳入庁に対して、114万9400ドル、日本円にしておよそ1億8000万円とされています。

これを裁判官が量刑の判断を下す前に水原元通訳が支払った場合には、量刑が軽減される可能性もあります。

さらに検察によりますと裁判所に対して、大谷選手から事件によって自身が受けた影響などを説明する書面が提出される可能性もあり、量刑への影響が注目されます。

量刑はことし10月25日に言い渡されることになりました。

不服がある場合には、60日以内に控訴することが可能で、原告または被告のいずれかが控訴しなければ、刑務所に収監されます。

そして服役を終えたあと、日本への強制退去手続きが始まるとみられます。

アメリカで急拡大 合法スポーツ賭博

アメリカでスポーツ賭博が合法化された州など

アメリカでスポーツ賭博は一部の州を除いて原則、禁止されていましたが2018年に連邦最高裁判所が判断を覆し、合法化に踏み切った州はこれまでに38州に上ります。

合法化する州が急速に拡大した背景について、専門家は州政府にとって税収の増加が見込めることや合法的にスポーツ賭博を楽しみたいという利用者側のニーズの高さがあったとしています。

また、アメリカ国外に拠点を置く違法賭博ビジネスが巨額の利益を上げるなか、合法化することで賭博を管理できるようにする狙いもあったということです。

合法化をきっかけにスポーツ賭博の市場は急速に拡大し、アメリカ・ゲーミング協会によりますと2023年の合法なスポーツ賭博の収益は前の年の1.4倍となるおよそ110億ドル、日本円にしておよそ1兆7300億円で、1年間にかけられた金額は1210億ドル日本円でおよそ19兆円にのぼるということです。

ニューヨーク州にあるセント・ボナベンチャー大学などがことし2月に発表した調査によりますと、アメリカの成人のうちスポーツ賭博をしたことがある人の割合は39%にのぼるということです。

また、調査では15%がオンラインのスポーツ賭博で何らかの問題を抱えた人を知っていると回答していて、専門家はスポーツ賭博の拡大に伴って依存症など負の影響も深刻化していると指摘しています。

ギャンブル問題全国評議会は、依存症といった重度の問題を抱えた人はアメリカの成人男性の1%にあたる250万人と推定されるとしていて、アメリカのメディアによりますと、こうした人たちのための相談窓口に寄せられる電話の件数はスポーツ賭博が合法化されて以降、急増しているということです。

専門家「2018年以降 スポーツ賭博の依存症の人が増加」

ギャンブル依存症に詳しい、メンフィス大学のジェームズ・ウェーレン教授は、NHKの取材に対し、自身が携わるクリニックで、2018年以降、スポーツ賭博の依存症の人が訪れるようになったと話しています。

訪れる人は徐々に増加していて、▽男性が女性よりも多く▽年齢は25歳から35歳くらいと、これまでのギャンブル依存症の人より若い世代で▽仕事をしていて収入があり自由に使えるお金が多い人も目立つのが特徴だということです。

これについてウェーレン教授は、▽一般的に男性のほうがスポーツ観戦になじみが深く、賭けの対象になっているスポーツは若い世代の関心が高いことや▽スマートフォンを使って簡単に賭けられることなどが背景にあると見ています。

また、クリニックを訪れる人の中には、これまで別のギャンブルで依存症にならなかった人が、スポーツ賭博では依存症になったケースも見られたということで、賭けの対象になっている、なじみのあるスポーツに自分が詳しいと思い込み、のめり込んでしまうのではないかと分析しています。

ギャンブル依存症の人の行動の特徴としては、▽依存症であることを周囲に隠そうとしたり▽ギャンブルに使うお金を得るため違法なことも含めてこれまでしなかったことをしてしまったりする点を挙げました。

その上で、水原氏が仮にギャンブル依存症だとして、報じられているような行動をとったとしても驚く点はないとしています。さらに治療については、カウンセリングを通じて考え方や行動を変える「認知行動療法」が効果的だと指摘しました。