中国 天安門事件35年 北京は厳戒態勢 追悼や抗議活動を警戒

中国の首都・北京で民主化を求める学生らの運動が武力で鎮圧され、大勢の死傷者が出た天安門事件から4日で35年になりました。
現場となった天安門広場や犠牲者の一部が眠る墓地では厳重な警備態勢が敷かれ、追悼の動きや抗議活動を警戒しています。

35年前の1989年6月4日に起きた天安門事件では、民主化を求めて北京の天安門広場やその周辺に集まっていた学生や市民に対して軍が発砲するなどして鎮圧し、中国政府は319人が死亡したとしていますが、犠牲者の数ははるかに多いという指摘もあります。

天安門広場やその周辺 多くの警察官を配置

現場となった天安門広場やその周辺は、4日朝、ふだんどおり観光客でにぎわう一方で多くの警察官が配置され、犠牲者を追悼する動きや抗議活動を警戒していました。

このうち、事件で多くの犠牲者が出たとされる、大通り沿いの「木※せい地」と呼ばれる地区の交差点では耳にイヤホンをつけた私服警察官とみられる複数の男女が警戒にあたっていました。

NHKの記者が4日朝、この交差点から500メートルほど離れた場所で自転車を降りるとすぐに警察官に取り囲まれ「どこに向かうのか」とか「何をしに来たのか」などと質問されたあと、持っていた手荷物を調べられました。

その後、現場から離れるよう促され、記者が近くにある地下鉄の駅の改札口に入るまで、警察官が同行しました。

また犠牲者の一部が眠る北京郊外の共同墓地周辺にも多くの警察官が配置され、NHKの取材班が近づくと私服の警察官が「墓地周辺の秩序を守らなければならない」と警告しました。

そして取材班ひとりひとりのパスポートを写真に撮り、その場から離れるまで監視していました。

この共同墓地には犠牲者の遺族が毎年墓参りに訪れますが、門の前では、警察官らが訪れた人の本人証明書を1人ずつ確認し、連絡先を記録していました。

中国では、天安門事件に関する情報が厳しく規制されていて、NHKの海外向けテレビ放送「ワールド・プレミアム」で事件のニュースを伝えるたびに、カラーバーとともに「信号の異常」などの文字が表示され、放送が繰り返し中断しています。

中国政府は、当時の学生らの動きを「動乱」だと結論づけて対応は正しかったとする立場を崩しておらず、習近平指導部のもとで当局による統制が厳しくなる中、事件の真相究明を求める遺族の声や政府への批判は徹底的に封じ込められています。
(※せいは木へんに犀)

遺族のグループ 「YouTube」に声明も投稿

天安門事件から35年となるのを前に、事件の遺族でつくるグループ「天安門の母」は、中国当局の統制が及ばないとされる動画投稿サイト「YouTube」に動画による声明も投稿しました。

10分余りの動画には、事件で犠牲になったとする83人の遺影がうつされていて、女性の声で声明が読み上げられています。

この中では、「35年前の6月4日を忘れることはできない」としたうえで、事件当時について「銃弾で倒れた若い人たちを、市民は助けようとしたが軍人らはそれを許さないどころか、けが人に対してさらに銃剣を突き立てた」などと主張しています。

そのうえで「35年たった今も、政府は沈黙を続け、事実に反する言い逃れを繰り返しているのは到底受け入れられない」として遺族には当時の軍の対応など真相を知る権利があると訴えています。

さらに、「事件が起きて以来、政府は遺族の正当な要求を無視し、あらゆる手段を使って遺族の日常生活に絶えず干渉し続けてきた」として、政府は、事件の真相究明を求める遺族らを抑え込んできたと非難しています。

中国外務省「中国政府は明確な結論出している」

天安門事件からことしで35年となるのを前に、中国外務省の毛寧報道官は3日の記者会見で「1980年代末に起きたあの政治的な騒ぎについて、中国政府はとっくに明確な結論を出している」と述べ、事件の遺族らが求める真相の究明は必要ないというこれまでの立場を重ねて示しました。

香港でも犠牲者追悼難しく

天安門事件の犠牲者を追悼することは、中国本土だけでなく、香港でもますます難しくなっています。

中国本土で事件について公に語ることがタブー視される一方、香港では「一国二制度」のもと言論や集会の自由が認められ、およそ30年にわたり、犠牲者を追悼する集会が開かれてきました。

この集会は毎年6月4日の夜に開かれ、多い時には18万人が参加し、ろうそくに火をともして犠牲者を悼むとともに、中国政府に事件の真相究明を求めてきました。

しかし、4年前、反政府的な動きを取り締まる香港国家安全維持法が施行され、追悼集会を主催してきた市民団体の幹部らが相次いで逮捕・起訴されるなどしたため、集会は2019年を最後に開かれなくなりました。

さらに香港では、ことし3月、香港国家安全維持法を補完する「国家安全条例」も施行され、社会の統制が一段と強まっていて、3日までにSNSに天安門事件に関係する投稿をした8人が「中国政府などへの憎悪をあおった」として逮捕されました。

こうした状況について、ほぼ毎年、香港での追悼集会に参加してきたという、民主派の元区議会議員、朱江※イさん(47)は「香港で追悼するのが難しくなっても、私には、香港でまだ多くの人が事件を忘れていないと伝える責任がある」と話し、ことしも自分なりのやり方で犠牲者を追悼したいとしています。

※イ=王へんに韋

香港の公園で親中派主催のイベント

天安門事件の犠牲者を追悼する大規模な集会が、事件の起きたよくとしの1990年から2019年まで開かれてきた香港中心部の公園では、4日、親中派の団体が主催して中国各地の特産品や文化を紹介するイベントが行われています。

一方で、イベントの開かれている公園の周辺では、おおぜいの警察官がパトロールを行い、犠牲者を追悼する動きなどに目を光らせていました。

香港では、2020年に、新型コロナウイルスの感染防止対策を理由に、警察が追悼集会の開催を許可せず、その後、集会を開くことは困難となり、6月4日の現地の雰囲気は大きく様変わりしています。

中国外務省報道官「中国の内政に干渉することに一貫して反対」

天安門事件から35年になったことについて、中国外務省の毛寧報道官は4日の記者会見で「1980年代末に起きたあの政治的な騒ぎについて、中国政府はとっくに明確な結論を出している」と述べ、事件を再評価する必要はないというこれまでの立場を重ねて強調しました。
そのうえで「われわれは、いかなる人であれこれを口実に中国を中傷し、中国の内政に干渉することに一貫して反対する」と述べ、強く反発しました。

台湾 頼総統 SNSに投稿「六四の記憶 消え去ることはない」

台湾の頼清徳総統は4日、「六四(ろくよん)35周年を記念する」というメッセージをSNSに投稿しました。
「六四」は、1989年6月4日に起きた天安門事件を意味します。

この中で頼総統は「真に尊敬される国とは、人民が大きな声で話ができる国のことだ。いかなる政権も、人民の声、とりわけ若い世代の声に、勇敢に向き合うべきだ」としています。

そして「民主と自由があってこそ、真に人々を守ることができる」と強調し「六四の記憶が歴史の大きな流れの中で消え去ることはない。この歴史の記憶を長く人々の心に残し、中国の民主を気にかけるひとりひとりの心を動かせるよう、私たちは努力を続ける」と記しています。

また台湾について「先人たちの犠牲と貢献によって権威主義体制から民主化に進んだ」としたうえで「私たちは今後も、あらゆる力を結集して、台湾の民主主義を深化させるとともに、理念の近い国々と協力してよりよい世界をつくりあげていく」としています。

ドイツ大使館の窓に3本のろうそく

北京に駐在するドイツのパトリシア・フロア大使は4日、みずからのSNSに動画とともに「昨夜、私たちは大使館の窓にろうそくをともしました」と投稿しました。

動画には、北京にあるドイツ大使館の外観が写っていて、建物の最上階の3つの窓に3本の大きなろうそくが映し出されています。

投稿の返信には「亡くなった人たちを追悼してくれて本当にありがとう」などといった中国語のコメントも寄せられています。

天安門事件に関する追悼の動きが中国国内で厳しく規制される中、フロア大使の今回の投稿は天安門事件で亡くなった人たちへの哀悼の意を表したものとみられます。

林官房長官「中国の人権状況に関する懸念を表明してきている」

林官房長官は記者会見で「日本政府としては、自由と基本的人権の尊重、法の支配は国際社会における普遍的価値であり、中国でも保障されることが重要だと考えており、こうした立場を一貫して中国政府に直接、伝達してきている。国連の場も含め中国の人権状況に関する懸念を表明してきており、引き続き国際社会と緊密に連携して中国側に強く働きかけていく」と述べました。