国交省 トヨタ本社に立ち入り検査 車の性能試験で不正

自動車などの大量生産に必要な「型式指定」の取得に関して自動車メーカーなど5社が不正を行っていた問題で、国土交通省は4日、愛知県豊田市にあるトヨタ自動車本社に対して立ち入り検査を始めました。

国交省が立ち入り検査に

自動車などの型式指定をめぐっては、おととし以降、ダイハツ工業などによる不正が相次いで明らかになり、国土交通省が各社に調査を指示した結果、3日、トヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの5社で車の性能試験での不正が明らかになりました。

この問題で国土交通省は4日午前、愛知県豊田市にあるトヨタ自動車の本社に職員5人を派遣し、立ち入り検査を始めました。

トヨタでは過去に生産していた車種も含めあわせて7車種で不正行為が見つかり、このうち生産中の3車種については出荷と販売を停止しています。

また、この3車種については6日から生産も停止する方針です。

国土交通省は今回の立ち入り検査で、不正が行われた試験のデータや関連する社内ルールを確認するほか、担当者や幹部への聞き取りを行い、詳しい事実関係を調べることにしています。

今後の国の対応は?

国土交通省によりますと、立ち入り検査は数日間行われる予定で、結果によってさらに立ち入り検査が必要かどうか、対応を検討するということです。

ほかに不正が確認されたマツダ、ヤマハ発動機、ホンダ、スズキの4社についても、今後、立ち入り検査を行うとしています。

また、国土交通省は、不正のあった5社・38車種について、型式指定の取得に関する国の基準に適合しているかどうか確認を行うということです。

そのうえで、立ち入り検査の結果や、基準への適合の確認の結果によっては、行政処分の検討も含め厳正に対処するとしています。

専門家「効率性が追及された結果」

自動車業界に詳しい、東海東京インテリジェンス・ラボの杉浦誠司シニアアナリストは、今回、各社で不正が発覚した背景について、「昨今の自動車業界ではスピード重視ということがかなり言われているが、日々の開発の忙しさもあるなかで認証に対する取り組みがおろそかになった側面があったのではないか。また、企画や開発、生産のところで効率性が追及された結果でもあると思う」と述べました。

そのうえで、「今回、不正が表に出たのは国から社内調査の徹底の通達があったからで、内部告発があったためではない。組織的なチェック体制に問題があったと思う」と指摘しました。

一方で、「国の定める型式指定制度のルールと自動車メーカーの開発の現場との間でずれが生じてきたということだと思う。各社の不正防止の対策と同時に、制度自体が時代に即したものかどうかというチェックも、一方では取られるべきということではないか」と述べました。

「型式指定」とは

自動車メーカーなどが新型車の生産や販売を行う前に国の審査を受ける認証の制度。国土交通省によると、新型車で衝突や排ガスの試験を行い、その結果が国の基準に適合していれば型式指定を受けられ、指定を受けると1台ごとの国の新規検査が省略されて同じモデルの大量生産を行いやすくなる。
型式指定をめぐっては、2017年の法改正で不正な取得が発覚した場合、国は指定を取り消すことができるようになり、2022年以降、日野自動車や豊田自動織機、ダイハツ工業で相次いで不正が明らかになり、自動車やエンジンの型式指定が取り消されている。

ダイハツ工業のケースでは?

ダイハツ工業による国の認証取得の不正問題では、去年12月、国内にある4つすべての自動車工場で稼働が停止しました。国内で生産していた台数は、2022年度で92万台あまりにのぼります。

会社は、国土交通省が基準への適合を確認した車種から生産と出荷を順次再開していますが、国内のすべての車種の生産再開は7月17日の予定で、稼働の停止から半年以上かかる見通しです。

この間、部品メーカーなどの取引先はダイハツの稼働停止によって売り上げが減るなどの影響を受けることになり、会社は1次下請けだけでなく2次下請けなど間接的な取引先も含めて5000社以上を対象に補償を行う方針です。

一方、トヨタ自動車では、6日から「ヤリス クロス」などの3車種について、宮城県と岩手県の工場での生産を停止する方針です。3車種をあわせた2023年度の生産台数はおよそ13万台となっています。

また、マツダも「MAZDA2」などの2車種について、広島県と山口県の工場での生産を6日から停止する方針です。2車種の2023年度の生産台数はあわせておよそ1万5000台だということです。

トヨタとマツダの生産が停止する車種をあわせると、2023年度の生産台数はおよそ14万5000台で、ダイハツと比べると台数は少なくなっていますが、生産の停止によって取引先の中小企業をはじめ地域経済への影響が懸念されます。

国交相「各社に立ち入り検査 実施」

斉藤国土交通大臣は4日の閣議のあとの会見で、「自動車ユーザーの信頼を損ない、自動車認証制度の根幹を揺るがす行為であり、極めて遺憾だ。各社に立ち入り検査を実施し、結果を踏まえ厳正に対処してまいりたい」と述べました。

また、斉藤大臣は日本経済への影響を問われたのに対し、「現時点で確認されている限りでは、ダイハツ工業の不正事案に比べ、対象の車種や生産台数は限定的だと認識している」と述べました。

そのうえで「経済への影響を低減する観点からも、出荷を停止する車種が国の基準に適合するかどうかの確認試験を速やかに行う。国民の安全、安心の確保を大前提とするのはもちろんだが、経済への影響を最小限に抑える観点からも、努めてまいりたい」と述べました。

経産相「生産停止で取引先への影響調査」

今回の不正をめぐって、国土交通省はトヨタ自動車、マツダ、ヤマハ発動機の3社については基準への適合が確認できるまで、あわせて6車種の出荷を停止するよう指示しています。

トヨタ自動車などが出荷停止の指示を受けた車種で生産を停止する方針を決めたことを受けて、齋藤経済産業大臣は4日の閣議のあとの記者会見で、「サプライヤーなどへの影響を速やかに調査し、その結果を踏まえて必要な対策を検討したい」と述べて、取引先に対する資金繰り支援など必要な対策を検討していく考えを示しました。

日本自動車工業会「業界全体で再発防止に全力で」

大手自動車メーカーなどが会員となっている日本自動車工業会は、今回の不正を受け、コメントを発表しました。

この中では「お客様の安全・安心にかかわる自動車製造の根幹の問題として大変重く受け止めるとともに、自動車業界が社会に与える影響を考慮すると、あってはならない事案と認識しております」としています。

そのうえで、「業界全体で再発防止に全力で取り組むべく、当局からの指導に従い、認証申請における不正問題の解決を徹底的に推進してまいります。未然防止対策に業界全体で取り組むことを通じて信頼を回復することに努めてまいります」としています。

経済団体からも非難の声

経済同友会の新浪代表幹事は4日の記者会見で各社の対応を非難したうえで、立ち入り検査の結果によっては、自動車業界全体に影響が広がるという認識を示しました。

この中で、新浪代表幹事は「改ざんが本当にあったということであれば、ゆゆしき事態で、大変遺憾だと思う。消費者や社会の信頼を失う行為になった」と述べ、各社の対応を非難しました。

そのうえで、「今後の立ち入り検査で新たな事実として、実はメーカーが言っているように安全ではないことがわかってくると別だが、そういうことはないだろうと思っている。仮に安全ではないとなれば、自動車業界全体に影響が出てくる」と述べ、国土交通省による立ち入り検査の結果によっては自動車業界全体に影響が広がるという認識を示しました。