オッペンハイマーの孫 来日「原爆含む爆弾 使ってはならない」

アメリカで原爆の開発を指揮したロバート・オッペンハイマーの孫のチャールズ・オッペンハイマーさんが3日都内で記者会見し、「国際連帯の必要性を訴えた祖父の助言から今こそ学ぶべきだ」と訴えました。

チャールズ・オッペンハイマーさんは第2次世界大戦中のアメリカで原爆の開発を指揮した理論物理学者、ロバート・オッペンハイマーの孫で、現在、アメリカで核不拡散や気候変動に取り組むプロジェクトを立ち上げて活動しています。

チャールズさんは5月末から日本を訪れていて、3日都内の日本記者クラブで記者会見しました。

チャールズさんは、祖父のオッペンハイマーが原爆投下による惨状を知り水爆開発や核拡散に反対したことを踏まえて、「大国間の緊張が高まり軍備競争が続く今こそ、国際連帯の必要性を訴えた祖父の助言から学び世界平和について考えるべきだ」と訴えました。

そのうえで、日本が果たす役割について「アメリカやロシア、中国といった超大国の間でコミュニケーションがとれず、緊張関係がエスカレートしていくという危険な時代において、国家間の協力を呼びかける最適な立場にいるのが日本だ」と期待を寄せ、兵器ではなく原子力エネルギーをテーマに日本が中心になって各国の対話の機会を作っていくことが必要だと訴えました。

また、今回の来日中に訪れた広島で被爆者と面会し被爆体験を聞き取ったことを明かしたうえで、「広島への訪問は過去を探求する場となり、そこでの対話を通じて原爆投下の影響を知り、人類として原爆を含めてあらゆる爆弾を使ってはならないと感じた」と話しました。

そして映画「オッペンハイマー」がことしのアカデミー賞で作品賞など7部門を受賞し、世界的に注目が集まっていることについて、「今回の映画をきっかけに当時、十分に理解されなかった『核を拡散させるべきではなかった』という祖父のメッセージを正しく発信していくことが自分の義務だと思っている」と話していました。

ロバート・オッペンハイマーとは

ロバート・オッペンハイマーは第2次世界大戦中のアメリカで原爆の開発計画=「マンハッタン計画」の科学部門を指揮した理論物理学者です。

1945年7月に人類初の核実験「トリニティ実験」を成功させ、戦争の終結を早めたとしてアメリカで脚光を浴びましたが、その後、広島と長崎への原爆投下の惨状を知り苦悩を深めていったと言われています。

戦後は核開発競争の加速を懸念して水素爆弾=水爆の開発に反対の立場に立ちましたが、共産主義者との内通が疑われ、1954年には公職を追放されました。

1967年に62歳で亡くなり、それから50年あまりがたった2022年になって処分は撤回されました。

映画化されアカデミー賞受賞で話題に

日本では3月末に公開された映画「オッペンハイマー」。

アメリカの映画界で最高の栄誉とされるアカデミー賞で、ことし、作品賞や監督賞など最多の7部門を受賞し話題となりました。

作品の舞台は第二次世界大戦中のアメリカ。オッペンハイマーが、広島と長崎への原爆投下とその後の惨状を知り、苦悩を深めていく様子が描かれています。

ただ、作品では、原爆投下後の被爆地の描写がなく「被爆の実相が描かれていない」と指摘する意見もありました。

64年前本人を取材したNHK元ディレクターは

1960年にオッペンハイマーが来日した際、取材を担当したNHKの元職員が当時の様子について語りました。

NHKの元ディレクターの宇佐美昇三さん(89)は、1960年9月、羽田空港の通路で来日したオッペンハイマーに取材することができたということです。

当時の映像

当時の映像には宇佐美さんが歩いてきたオッペンハイマーに話しかけ、録音機のマイクを向けてインタビューをする様子が残されています。

インタビューは、通路を歩きながらの短い時間だったということで、宇佐美さんによりますと「オッペンハイマー氏は、ジャケットの肘にパッチを当てた大学教授のような風貌が印象的だった」ということです。

「原爆で多くの民間人が亡くなったことをどう思うか」聞いた

宇佐美さんは、子どもだった戦後間もない頃、引っ越しの途中に広島を通りがかったり、親類がいた長崎を訪れたりしたことがあり、原爆で大きな被害を受けた町並みが強く印象に残っていたということで、「『原爆で多くの民間人が亡くなったことをどう思うか』と聞くことを心に決めていたので質問した。オッペンハイマー氏はことばを濁しながら、『多くの方が亡くなったのは残念だが、科学者としては開発をし尽くさないといけなかった』といった趣旨の話をしたことを覚えている」と話していました。

宇佐美さんによりますと、このインタビューは当時、ラジオで放送され、現在は残っていないということです。

大学で原子力の平和利用をテーマに講演

アメリカで原爆の開発を指揮したロバート・オッペンハイマーの孫のチャールズ・オッペンハイマーさんは、3日午前、都内の大学で原子力エネルギーの平和利用をテーマに講演しました。

この中でチャールズさんは、広島や長崎で多くの被爆者を生み出したことを踏まえて核兵器が使用されないように各国が協力して核不拡散に取り組むことが重要だと訴えた一方で、気候変動の問題が深刻化する中で二酸化炭素を排出しない原子力エネルギーの活用の必要性についても指摘しました。

学生「核兵器の非人道性を伝えようと推し進めている」

講演を聞いた学生は「チャールズさんには被爆地や被爆者への配慮があり、アメリカから核兵器の非人道性を伝えようと推し進められていることを心強く感じました。一方で、核兵器は廃絶すべきだけれど気候変動の問題を考えると原子力エネルギーは必要だという考えも知ることができ、よい機会になりました」と話していました。

「若者たちの積極的な発言 とても印象的だった」

講演のあとチャールズさんは「未来のことを考えるうえで最も影響力を持ち開かれた考えを持った日本の若者たちの声を聞きたいと思っていた。英語での長い講演だったが若者たちが積極的に発言してくれた姿がとても印象的だった」と話していました。