ゴルフ全米女子オープン 笹生優花 2回目の優勝 男女通じ初快挙

女子ゴルフの海外メジャー、全米女子オープンは、最終ラウンドが行われ、首位と3打差の5位から出た22歳の笹生優花選手が、スコアを2つ伸ばし、通算4アンダーで、3年ぶり2回目の優勝を果たしました。
海外メジャー2勝目は、日本選手では男女を通じて初の快挙です。

来月に開幕が迫ったパリオリンピックに向けては女子は有望な選手が多く、代表争いが激しくなっています。記事後半で詳しくお伝えしています。

笹生優花 逆転で3年ぶり2回目の優勝

全米女子オープンは6月2日、ペンシルベニア州で最終ラウンドが行われました。

首位と3打差の5位から出た笹生選手は、序盤はショットとパットが好調で、2番パー4では距離のあるバーディーパットを決めました。

6番パー3では長い距離のパットが残り、ダブルボギーをたたきましたが、12番パー3と13番パー5で連続バーディーを奪って盛り返し、スコアを通算3アンダーとして、ここで単独トップに立ちました。

厳しいコースセッティングで上位選手がスコアを落とすなか、笹生選手は終盤も集中力を保って安定したプレーを続け、バーディー5つ、ボギー1つ、ダブルボギー1つとスコアを2つ伸ばして、通算4アンダーで3年ぶり2回目の優勝を果たしました。

海外メジャー2勝目は、日本選手では男女を通じて初の快挙です。

笹生優花「チャレンジ楽しむことができた」

笹生優花選手は会場での優勝インタビューで「家族の支えなしにはここにはいられなかった。ファンの方々にも感謝している」と涙を浮かべて話しました。
メジャー大会特有の難しいコースセッティングを攻略できた要因については「とにかく我慢強くプレーすることに集中していた。メジャーで勝ちたいと思っていて難しいチャレンジを楽しむことができた」と振り返りました。

一方で、パット4回でダブルボギーをたたいた6番のパー3については「ピンポジションがすごく難しかった。そのおかげであのホールのことをよく知ることができた。もう二度としないようにと願っています」と笑顔を見せながら答え会場をわかせていました。
また、日本メディアの取材に対し今後に向けた抱負について「しっかりと休んで今後もいつもと一緒でやることに集中して楽しんでゴルフをしたい」と話していました。

樋口久子さん「覚醒したかのようなすばらしいプレー」

1977年の全米女子プロ選手権で日本の女子選手として初めて海外メジャーを制した樋口久子さんは「持ち前の飛距離、集中力、パッティング技術などすべてが際立っていた。2021年の全米女子オープン制覇の偉業を達成してから勢いがついて、もっとタイトルを獲得するだろうと大きな期待をしながら見守っていた。なかなか2勝目に手が届かなかったが、今回は厳しいコンディションが大きな刺激となって、覚醒したかのようなすばらしいプレーを存分に拝見することができた。本当に強かった」と日本女子プロゴルフ協会を通じてコメントを出しました。

小林浩美 会長「いろんな強さを身につけた結果」

日本女子プロゴルフ協会の小林浩美会長は「笹生さんのもともと持っているすばらしいショット力がさく裂し、後半の集中力はまさにゾーンに入っていた。メジャー2勝目はアメリカツアーでもまれ、結果が出ずに苦労してきた中で、いろんな強さを身につけた結果だと感じる。一緒に出場していた日本選手も大きく感化されたに違いない。今後ますますメジャー含め勝ち星を重ねてほしい」と協会を通じてコメントを出しました。

パリ五輪 代表コーチ 服部道子さん“勝因は『飛距離と高さ』”

女子ゴルフの解説者で、パリオリンピックでは日本代表のコーチを務める服部道子さんは笹生選手の優勝について「世界中から選手が集まる大会で2勝目を挙げたことは大快挙だと思う。アメリカツアーでの2勝がメジャー大会であることに大舞台に強いというのを改めて感じた」と話しました。

勝因についてはショットの抜群の飛距離と高さをあげ「硬くて傾斜がある難しいグリーンもセカンドショットで正確にねらえる。パワーのあるショットでチャンスにつけバーディーが取れたのが一番大きかった。ベストショットはワンオンに成功した16番パー4の第1打で、グリーンが小さくて周りは全部バンカーと深いラフだが、それをスピンをかけて止めた。“これぞ笹生優花”というショットだった」とたたえていました。

そして「これまではドライすぎる部分があったが、自分の心の向き合い方、ボギーを打ってもどう立て直すかというメンタル面でもすごく成長した」と評価していました。

今後に向けては「パリオリンピックの代表になれば4年に1回の特別な大会で思う存分、強さを見せてほしい。また若い選手が彼女を目指すと思うので引っ張っていってほしい」と期待を寄せていました。

高校時代訪れていた三重県のゴルフ場でも歓喜

笹生選手が高校時代、合宿で訪れていた、三重県志摩市のゴルフ場では、日本選手初の快挙達成を喜ぶ声が聞かれました。笹生選手は高校時代、志摩市に本校がある通信制高校のゴルフ部に所属していて、年に1回、合宿で志摩市のゴルフ場を訪れていたということで、当時からボールをよく飛ばして周囲を驚かせていたということです。

近鉄賢島カンツリークラブの形部康支配人は「テレビの中継を見ていて、笹生選手がトップに立ったときは、思わずガッツポーズをして喜びました。このゴルフ場で練習した選手が世界で活躍してくれて、とてもうれしいです。後輩もこのゴルフ場で練習しているので、笹生選手に続いてどんどん活躍してほしい」と話していました。

渋野日向子が2位に入る

一方、首位と2打差の4位で出た25歳の渋野日向子選手は、序盤にスコアを落としましたが、その後は粘りのプレーを続け、12番のパー3では右に大きく曲がるラインを読み切ってバーディーを奪い、ガッツポーズを見せました。

渋野選手はバーディー2つ、ボギー4つと通算1アンダーで2位に入りました。

このほかの日本選手では
▽古江彩佳選手がスコアを2つ伸ばして通算2オーバーで6位
▽竹田麗央選手と小祝さくら選手が通算3オーバーで9位
▽山下美夢有選手が通算4オーバーで12位でした。

渋野日向子「ここから新しい章がスタート」

2位に入った渋野日向子選手は「結果的には4日間をアンダーパーで回れたのはよかった。なんとか耐えながら楽しんでできた」と振り返りました。
12番パー3のバーディーパットについては「あれが入るとは思わなくて、もうちょっと簡単なのが入って欲しかった。すごく盛り上がるパッティングになったので自分でもガッツポーズしてしまった」と笑顔を見せていました。

そのうえで今シーズン、予選落ちが多いことを踏まえ「めちゃくちゃしんどい4日間だったが、ここまでの自分のゴルフの内容や結果だったらありえない結果。自分ではびっくりだが、ここから新しい章がスタートできるなという感覚なので、すごく前向きな気持ちだ」と今後への手応えを感じているようでした。

都内で新聞の号外も「すばらしいのひと言」

JR新橋駅前では、笹生優花選手の快挙を伝える新聞の号外も配られました。

号外を受け取った70代の女性は「途中でスコアを落としたので、ほかの選手が優勝すると思っていました。久しぶりにいいニュースを聞いたと思います」と話していました。

40代の会社員の男性は「すばらしいのひと言です。笹生選手は海外で頑張っていたので、いずれまた優勝すると思い注目していました」と話していました。

《パリ五輪 代表争いが激化》

来月に開幕が迫ったパリオリンピックに向けては女子は有望な選手が多く、代表争いが激しくなっています。

ゴルフの出場枠は60人で、各国と地域ごとの枠は、ことし6月24日時点の国内外のツアー大会の成績によるランキングに基づいて振り分けられ、15位以内であれば最大4人が内定します。また、15位以内の選手が1人、もしくはゼロの場合は16位以下の選手を含めて最大2人が内定します。

【日本勢 女子:5月27日時点のランキング】

▽18位:海外ツアーで6勝を挙げている25歳の畑岡奈紗選手
▽23位:国内ツアー11勝の山下美夢有選手
▽25位:海外ツアー1勝の古江彩佳選手
▽30位:今回の全米女子オープンで優勝した笹生選手

各大会ごとに獲得できるポイントが異なり、海外メジャーを制した笹生選手はランキングを大幅に上げることが予想されます。今月20日からはやはり獲得ポイントの高い海外メジャー大会の全米女子プロ選手権が開催され日本勢も笹生選手を含めて多くの出場が見込まれます。

今大会は笹生選手が優勝、渋野選手が2位に入ったほか、10位以内に日本勢が5人入っただけに、オリンピックの代表争いは最後まで目が離せない状況です。

一方、男子は女子と同じ条件で今月17日時点のランキングで決まります。

【日本勢 男子:5月27日時点のランキング】

▽15位:松山英樹選手
▽84位:中島啓太選手
▽87位:久常涼選手

◇笹生優花(さそう・ゆうか)全米女子OP史上最年少で優勝

笹生優花選手は東京都出身の22歳。日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれ、8歳のころ、世界の舞台で活躍する宮里藍さんらに憧れて競技を始め、練習環境を求めてフィリピンに渡りました。父の正和さんとともに親子でプロを目指すなかで、反復横跳びや野球のノックなど厳しいトレーニングを重ね、ゴルフの技術だけでなく体力面も鍛えてきました。

持ち味は体幹の強さを生かした力強いショットで、今シーズンのドライバーの平均飛距離は日本勢トップの265ヤードで、アメリカツアーのメンバーの中でも上位に入っています。

さらに子どものころから多くの国のゴルフ場でプレー経験を積んだことで、状況に応じて使い分ける巧みなショットも身につけるなど、技術の高さにも定評があります。

アマチュアでは、フィリピン代表として出場した2018年のアジア大会で優勝し、2019年には男子の海外メジャー大会「マスターズ・トーナメント」と同じ会場で行われる世界大会で3位に入るなど、頭角をあらわしました。

日本では、2020年、19歳でプロデビューして、2戦目でツアー初優勝を果たすと、3戦目も勝って2連勝するなど、一気にトップ選手として活躍し始めました。そして2021年には、女子ゴルフの世界最高峰、海外メジャーの「全米女子オープン」でプレーオフを制して、史上最年少の19歳で初優勝する快挙を成し遂げました。

同じ年に行われた東京オリンピックにはフィリピン代表として出場し、9位に入りました。その後は日本国籍を選択し、アメリカを拠点に海外ツアーに本格参戦するなかで安定した成績を残し続けてきました。

◆日本選手と海外メジャー大会

女子ゴルフの日本選手で初めて海外メジャーを制したのは、1977年の全米女子プロ選手権で優勝した樋口久子さんでした。

その後は、日本選手として初めてアメリカツアーの賞金女王になった岡本綾子さんが1980年代から90年代にかけて、たびたび優勝を争いました。

2000年代に入ると、アメリカツアーで通算9勝した宮里藍さんが全米女子プロ選手権や全英女子オープンで3位に入りましたが、優勝はなりませんでした。

渋野日向子選手 全英女子OP優勝(2019年)

そして、樋口さん以来42年ぶりに海外メジャーの壁を破ったのが、2019年の全英女子オープンを制した渋野日向子選手でした。
プロテスト合格後、わずか1年の渋野選手が、海外メジャーのしれつな優勝争いのなかでもトレードマークの笑顔を絶やさず、歴史的な快挙を果たした姿は、海外メディアから「スマイリング・シンデレラ」と呼ばれました。

2021年の全米女子オープンでは、笹生優花選手と畑岡奈紗選手が激しく競り合った末、笹生選手がプレーオフを制して19歳の史上最年少で初優勝し、日本の女子選手では3人目となるメジャー制覇を果たしました。

同じ年には男子で松山英樹選手が「マスターズ・トーナメント」で優勝し、日本の男子選手として初めて海外メジャー大会を制しました。

その後は、2023年の全米女子プロ選手権で笹生選手が2位に入り、日本選手初の海外メジャー2勝目にあと一歩まで迫っていました。