トランプ前大統領 有罪の評決「不正で恥ずべき裁判」控訴か

アメリカのトランプ前大統領が不倫の口止め料をめぐって業務記録を改ざんした罪に問われた裁判で、ニューヨーク州の裁判所の陪審員は大統領経験者としては初めてとなる有罪の評決を下し、量刑を決める審理が7月に開かれることになりました。
評決後、トランプ氏は「不正で恥ずべき裁判だ」と主張し、控訴するとみられます。

この裁判でトランプ氏は、2016年の大統領選挙で不利にならないよう不倫の口止め料を支払い、その支出を隠すために弁護士費用と偽り不正に処理したとして、帳簿などの業務記録を改ざんした罪に問われました。

一般の市民から選ばれた12人の陪審員は、29日から有罪か無罪かを判断するための評議と呼ばれる話し合いに入り、2日目の30日、全員の一致した判断としてトランプ氏に有罪の評決を下しました。

アメリカの大統領経験者が刑事事件で有罪の評決を受けるのは史上初めてです。

評決後トランプ氏は「不正で恥ずべき裁判だ」と述べるとともに、バイデン政権が政治的な意図を持って司法を利用したという従来の主張を繰り返しました。

量刑は裁判官が決めることになっていて、その審理は7月11日に開かれる予定ですが、秋の大統領選挙で返り咲きをねらうトランプ氏は裁判の結果を不服として控訴するとみられています。

今回の裁判が大統領選挙にどのような影響を与えるかが今後、大きな焦点となります。

急きょ評決 法廷内からは小さなどよめき

裁判所の建物の15階にある法廷の傍聴席にはおよそ70人の報道関係者が集まり、裁判の行方を見守りました。

この日の裁判は現地時間の午後4時半には終了し評決は翌日以降に持ち越されるという見方もあったため、法廷内で待機していたトランプ氏は弁護士と会話して時折、笑顔を見せるなどしていました。

その後、急きょ、評決が言い渡されることになると法廷内に集まった人たちからは小さなどよめきがおきました。

今回、トランプ氏は伝票や小切手の改ざんであわせて34件の罪に問われていて現地時間の午後5時すぎから陪審員の代表がそのすべてについて「ギルティ=有罪」とこたえていきました。

その瞬間、トランプ氏はほとんど体を動かさずじっと聞いていましたが、時折、首をかしげるようなしぐさをしていました。

法廷内の傍聴席では携帯電話での通話や録音が禁じられていますが、パソコンを使うことは認められているため、報道関係者たちは法廷内の様子をメールなどで伝えていました。

トランプ氏は、裁判が終わり法廷から立ち去る際、いつもとかわらずゆっくりとした歩調で傍聴席を見渡すようにして法廷から出ましたが、それまでに比べて厳しい表情をしているように見えました。

検察側「証拠と法律に従って有罪の結論に」

評決のあと、検察側は記者会見を開き、今回の裁判について「12人の陪審員が証拠と法律だけに従って結論を出すことを誓い、トランプ被告は有罪という結論にたどりついた。今回の被告は、アメリカの歴史上、ほかの誰ともおそらく異なるが、裁判では同じように、証拠と法律に従って、最終的に有罪という結論にたどりついた」と振り返りました。

そのうえで「われわれは自分の仕事をしただけだ。多くの声があったが、重要なのは陪審員の声だけであり、陪審員が評決を出したのだ」と話していました。

量刑について「実刑を求めるのか」と記者団から質問されたのに対しては「量刑を決める審理が開かれる7月11日に法廷で話しをする」と述べるにとどめました。

トランプ前大統領「不正で恥ずべき裁判」

トランプ前大統領は有罪の評決が出たあと法廷の外で記者団に対し「これは不正で恥ずべき裁判だ。本当の評決は、大統領選挙の投票日の11月5日に国民によって下される」と述べて不当な評決だと主張しました。

その上で「私は無実だ。私たちの国では今、不正が行われている。これはバイデン政権が政敵を傷つけるためにやったことだ」と述べてバイデン政権が政治的な意図を持って司法を利用したという主張を繰り返しました。

そして「私たちは最後まで戦い、そして勝つ。これは長い戦いになる」と強調しました。

このあとトランプ氏は自身のSNSに「11月5日に勝利しよう。アメリカを救おう」と投稿し、11月5日に投票日を迎える大統領選挙に向けて自身への支持を呼びかけました。

トランプ陣営「不当な評決」 選挙活動の資金集めに利用

トランプ陣営はトランプ氏が有罪の評決を受けたあと、「不当な評決だ」として早速、選挙活動の資金集めに利用しています。

トランプ氏の選挙資金を集めるためのウェブサイトは、有罪の評決が言い渡されたあと更新されました。

トップページに、トランプ氏が拘置所に出頭した際に撮影された顔写真とともに「私は政治犯だ。たった今、不当な魔女狩り裁判で有罪の評決を受けた。私は何も間違ったことはしていない」とするメッセージを掲載しました。

そして「われわれの抵抗は歴史に残るような大きなものでなければならない。ジョー・バイデンにわれわれを追ったことを後悔させなければならない」として、寄付を呼びかけています。

また、アメリカのメディアは、トランプ氏が有罪の評決を受けた直後、ウェブサイトのサーバーに一時、障害が起きたと伝えています。

これについて、トランプ陣営はSNSで「多くの国民がトランプ氏の選挙キャンペーンに寄付したいと心を動かされ、サイトがダウンした」と説明しています。

トランプ前大統領 日本時間1日0時に会見へ

アメリカのトランプ前大統領は31日午前11時、日本時間1日0時からニューヨーク・マンハッタン中心部にある「トランプタワー」で、記者会見を行うことを自身のSNSで明らかにしました。

有罪の評決を受け、法廷を後にしてからトランプ氏はSNSに「本当の審判は、国民によって大統領選挙投票日の11月5日に示される」などと繰り返し投稿していて、記者会見でも不当な評決だとするみずからの主張を改めて訴えるものとみられます。

バイデン大統領 自身への投票と寄付呼びかけ

バイデン大統領はトランプ前大統領に有罪の評決が出たあと、SNSに「トランプ氏を大統領の職に就かせない方法はただ一つ、投票箱にある」と投稿し、11月の大統領選挙での自身への投票と寄付を呼びかけました。

バイデン大統領陣営「法律を超越する者はいない」

トランプ前大統領への有罪評決を受けてバイデン大統領の陣営は声明を出し「トランプ氏は自分の利益のために法律を破っても影響は受けないと誤った考えを持ってきたが、きょうの評決によって法律を超越する者はいないということが示された」と指摘しました。

そのうえで「一方で評決によってアメリカ国民が直面する現実が変わるわけではない。トランプ氏を大統領の職に就かせないための唯一の方法は選挙での投票だ。トランプ氏がわれわれの民主主義にもたらす脅威はかつてなく大きくなっている」として11月の大統領選挙でバイデン氏に投票するよう訴えました。

与野党で大きく分かれる反応

トランプ前大統領への有罪評決をめぐって、与野党の反応は大きく分かれています。

共和党のジョンソン下院議長はSNSに声明を投稿し「民主党は対立する政党のリーダーをばかげた罪状で有罪にして喜んでいる。きょうの評決は民主党が反対意見を封じ込め、政敵を潰すためなら手段を選ばないという証拠だ。トランプ氏は控訴し、勝利するだろう」として民主党が司法を政治的に利用したものだと批判しました。

一方、民主党の議会下院トップのジェフリーズ院内総務はSNSに投稿し「アメリカは法の支配の上に築かれた国だ。陪審員は意見を述べ、慎重に判断を下した」として司法の判断は尊重されるべきだと訴えました。

裁判所周辺に集まった人たちから大きな歓声や叫び声

陪審員が有罪の判決を言い渡したと伝えられた瞬間、裁判所周辺に集まった人たちからは大きな歓声や叫び声が上がりました。

民主党を支持しているという女性は「ほっとした。司法制度がきちんと機能している証拠だと思う。次の大統領選挙は民主主義にとって大事な選挙だと思っている。ただ、今回の評決が大きく影響するとは思えない」と話していました。

一方、トランプ前大統領を支持する男性は「今回の評決は恥ずべきものだ。政治的な意図のある裁判で、彼は無実だ。私は彼に投票するし、彼が次の大統領になると思っている」と話していました。

林官房長官「動向は注視している」

林官房長官は閣議のあとの記者会見で「他国の司法手続きに関わる事項にコメントすることや、大統領選挙への影響について予断を持って答えることは差し控えたい。いずれにしても関連動向は注視しており、引き続き情報収集を行っていきたい」と述べました。

専門家「影響大きくない 一部有権者の投票行動の変化注視」

トランプ氏への有罪の評決が大統領選挙に与える影響について、専門家は有権者の候補者に対する評価はすでに固まっていて、有罪の評決を受けても大きくは変わらないという見方を示す一方で、接戦が予想される中では一部の有権者の投票行動の変化にも注視する必要があるとしています。

アメリカン・エンタープライズ研究所のカーリン・ボウマン名誉上級研究員は「ほとんどのアメリカ人はこの選挙で誰に投票するかをすでに決めている。これまでの世論調査ではトランプ氏が有罪の場合でもおよそ3分の2の人たちは投票行動は変わることはないと答えていて、その数字は選挙戦中、驚くほど一貫していた。残りの人たちについてもトランプ氏に投票する可能性が低くなると答えた人と高まるとした人で二分している」と指摘しました。

そのうえで「今回の有罪評決が有権者全体の声に大きく影響を与えることはないし、大統領選挙が接戦になるという事実も変わらないだろう」と述べて、今回の評決が有権者全体の投票行動には大きくは影響しないという見方を示しました。

一方で、7月15日から共和党の大統領候補としてトランプ氏を正式に指名する党大会が始まるのに対し、量刑を決める審理がその4日前に開かれるというスケジュールについて「トランプ氏は共和党の全国党大会の直前に再び裁判官の前に連れてこられ、量刑について審理される。有権者に再び裁判のことを思い出させるだろう。こうしたことが投票行動を決めていないごく一部の有権者に影響を与える可能性もある」と述べ、接戦が予想される中では一部の有権者の投票行動の変化にも注視する必要があるとしています。