iPS細胞関連特許 開発研究者 企業と和解 一部治療で利用可能に

iPS細胞から網膜の組織を作る技術の特許をめぐり、技術を開発した研究者が、特許権を持つ企業などに対して利用を認めるよう求めていたことについて、研究者側は30日、企業との間で和解が成立し、一部の治療について特許が利用できるようになったと発表しました。

理化学研究所の元研究者の高橋政代さんらは、視界がゆがんだり視力が低下したりする重い目の病気「加齢黄斑変性」の治療を目指して、iPS細胞から網膜の組織を作る技術を開発し、2014年に世界で初めて患者に移植する手術を行いました。

高橋さんらが開発した技術の特許権は理化学研究所や東京のベンチャー企業などが持っていますが、高橋さんによりますと、当初の予定どおり治験が始まらなかったため、独自に治験を進めようとみずから会社を立ち上げて特許の利用を認めるよう求めたものの、企業側との交渉が進まなかったということです。

このため高橋さん側は3年前に特許権を持つ人の同意無しに国が第三者に利用を認める「裁定」を特許庁に請求していました。

特許庁ではおよそ2年半にわたり審議が行われましたが、高橋さんによりますと、30日、高橋さんの会社とベンチャー企業などの間で和解が成立し、患者本人のiPS細胞を使った治療30例に限定して、特許の利用が認められたということです。

高橋さんは会見で「われわれが開発した再生医療を実現するために、必要な技術だったので一部でも使えるようになったのは本当にうれしい。契約だからしかたないと泣き寝入りしている研究者を勇気づけることができる成果だ」と話していました。

企業「治験進め早期の実用化を目指します」

今回の請求の相手となった東京のベンチャー企業「ヘリオス」は、大阪市の製薬会社「住友ファーマ」とともに、重い目の病気の患者に、他人のiPS細胞から作った網膜の細胞を移植する治験を、去年から行っています。

和解について、ヘリオスと住友ファーマはそれぞれコメントを発表し、両社が進めている治験についての影響はわずかだとした上で、「この特許の技術を用いて治験を進め、早期の実用化を目指します」などとコメントしています。