旧優生保護法が憲法に違反 国に賠償命令 福岡地裁

旧優生保護法のもとで不妊手術を強制させられたとして聴覚に障害がある福岡県の夫婦が国に賠償を求めた裁判で、福岡地方裁判所はこの法律は憲法に違反するとして国に賠償を命じる判決を言い渡しました。

福岡県内に住むいずれも聴覚に障害のある夫婦は、旧優生保護法のもと、結婚の1週間ほど前の1967年に夫が何の説明も受けないまま病院に連れていかれ、不妊手術を強制されたなどとして国におよそ4400万円の賠償を求める訴えを起こしました。

夫は3年前の2021年、裁判の途中で83歳で亡くなり、妻などが裁判を引き継ぎました。

30日の判決で福岡地方裁判所の上田洋幸 裁判長は、夫に残る傷を確認した状況などから不妊手術を受けていたことを認めたうえで、旧優生保護法は憲法に違反すると判断しました。

そのうえで、手術から20年以上がたち、賠償を求められる「除斥期間」が過ぎたなどと国が主張したことについては「国が法律を推進する施策で極めて強度の人権侵害を行い、その後も態度を是正しなかったため、夫婦は裁判を起こすための情報へのアクセスが困難な環境にあった。除斥期間を適用することは著しく正義・公平の理念に反する」として、国の賠償責任を認め1600万円余りを支払うよう命じました。

全国の同様の裁判で、国の賠償責任を認める司法判断は12件目です。

旧優生保護法をめぐっては、最高裁判所大法廷が上告されている5件について、29日、当事者の主張を聞く弁論を開いており、この夏にも判決で統一判断を示す見通しです。

弁護団「実情を率直に評価してくれた」

判決のあと、夫婦で裁判を起こした妻の朝倉典子さん(仮名・80代)と弁護団が会見を開きました。

朝倉さんは、裁判の途中で夫を亡くし、これまでの審理で「あるべき未来を奪われた。障害のために自分の被害を十分に語れなかった」と、子どもを持つ夢を奪われた夫婦の悔しさや、夫が感じていた怒りや無念の思いを訴えてきました。

そして、30日の会見で手話で「私たちは子どもがほしかった。一番悔しいのは天国にいる主人です。家に帰って『勝ちましたよ』と報告したい」と語りました。

弁護団の松浦恭子 弁護士は、30日の判決について「それぞれの被害者が置かれてきた実情を率直に評価してくれた。権利の行使が困難だった責任は国にあり、憲法上の権利を民法で制限するのはおかしいという、ごく当たり前の常識的な感覚をくみ取って除斥期間の適用を判断した」と評価しました。

そのうえで、最高裁判所の大法廷で審理が進められ、29日に弁論が行われた同様の5件の訴えについて、ことしの夏にも統一判断が示される見通しであることについて「全国民の当たり前の感覚にのっとって除斥期間について判断してほしい」と述べました。

こども家庭庁「判決内容を精査し適切に対応」

こども家庭庁は「今後の対応については判決内容を精査し関係省庁と協議した上で適切に対応してまいります」とコメントしています。