将棋「叡王戦」きょう第4局 藤井八冠 1勝2敗 八冠維持できるか

将棋の八大タイトルの1つ、「叡王戦」五番勝負の第4局が31日千葉県で行われ、タイトルを持つ藤井聡太八冠(21)に伊藤匠七段(21)が挑みます。藤井八冠はここまで1勝2敗とあとがない状況で、八冠を維持できるか注目の対局となっています。

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「叡王戦」五番勝負は、ここまで伊藤七段が2勝、藤井八冠が1勝で、伊藤七段がタイトル奪取に王手をかけています。

30日は千葉県柏市に設けられた対局室を2人が訪れ、「検分」を行って駒や室内の照明などを確認しました。

続いて行われた前夜祭で藤井八冠は、「スコア的には追い込まれて苦しい状況ではありますが、しっかり集中して最後まで楽しんでいただける熱戦にできるよう全力を尽くしたい」とあいさつし、伊藤七段は、「シリーズとしては佳境と言える1局かなと思いますが、自分としては久々の大きい舞台での対局です。熱戦をお見せしたい」と意気込みを語りました。

去年、史上初の八大タイトル独占を果たした藤井八冠はこれまで臨んだタイトル戦をいずれも制し、ことしに入っても「王将」、「棋王」、「名人」を相次いで防衛していますが、「叡王戦」では初めて先に「角番」に追い込まれています。

一方、伊藤七段は藤井八冠と同い年で、2020年にプロ棋士となりました。

去年は竜王戦、ことしは棋王戦で藤井八冠に挑戦しましたがいずれも白星を挙げられずに敗れ、今回初めてのタイトル獲得を目指します。

第4局は31日午前9時に伊藤七段の先手で始まり、夜に勝敗が決まる見通しです。

藤井八冠の師匠 杉本昌隆八段「真価が問われる戦い」

藤井八冠の師匠、杉本昌隆八段は、ここまで1勝2敗と、八冠の維持にあとがない状況で迎える31日の第4局について「追い込まれた藤井八冠がどんな将棋を指すか、真価が問われる戦いだ」と話しています。

杉本八段はここまでの戦いについて、「どの将棋も非常にきわどい勝負でした。第2局・第3局はいずれも終盤のねじりあいでしたが、伊藤七段が、藤井八冠の終盤力に決して引けを取らず、むしろ競り勝っていたような印象を受けました。伊藤さんが非常に充実している状態だと感じました」と振り返りました。

最近の藤井八冠の調子については、「現時点で、今年度の勝敗は5勝3敗で、すべてがタイトル戦という中で、決して悪くない成績です。ただ、今までがあまりにも勝っていたので、勝ち越しでも『調子が悪いのではないか』と思われてしまうかもしれません。今回、追い込まれたことで逆に注目されているのは師匠の私からすると複雑ですが、それくらい藤井八冠の実力を皆さんが認めてくれているのだと思います」と述べました。

今回、先に角番に追い込まれ、八冠の維持にあとがない状況となっていることについては、「同じ相手に2連敗することはほとんどなかったので、かなり珍しい状況です。ただ、実はこの状態はある意味で楽しみなところもあります。藤井八冠は今まで、自分だけが一方的に追い込まれたことがなかったはずなので、そうなった藤井八冠がどんな将棋を指すのか。追い込まれたときの真価が本当に問われています。そういう意味で、次の対局が非常に楽しみです」と話していました。

また、同い年の伊藤七段との関係性について、「感想戦でも2人はすごく楽しそうです。これは年が近いからじゃないかなと思います。勝負を度外視しても、伊藤七段とのタイトル戦は充実しているのだと思います」と述べ、31日の第4局に向けては、「両者、平常心で対戦してほしいです。タイトル戦にかかる重圧は追い込まれた藤井八冠もそうですが、伊藤七段にとっても同じだと思います。あと1勝でタイトルという場面を迎えて今までどおりの指し回しができるか。そこを伊藤七段には期待したいです。藤井八冠は、1局1局、返していくしかないですから、何としてもフルセットに持ち込んでほしいです」と期待していました。

藤井八冠の今年度の成績

藤井聡太八冠の今年度の成績はここまで5勝3敗、勝率は6割2分5厘となっています。

今月27日に行われた「名人」防衛後の記者会見では、「あまり対局の結果も内容もよくなくて、2か月ほどはミスが少なからず出てしまっています」としたうえで、「要因ははっきりと分からないですが、少し読みの精度が下がってしまっていることがあって、それがミスにつながっています。これまで経験の少ない局面での判断力がまだ十分ではないのかなと思います」と話していました。

谷川浩司十七世名人は、ここ数年、AIの活用が進むなどして、戦いが盤面全体に広がり、最善手を導き出すことが難しくなってきているとして、「平成の時代は、勝ちやすい形に持っていくとか、読みやすい形を作るということが、プロ棋士にとっての課題でしたが、とてもそういうことを言ってられない時代になってきました。序盤から一気に終盤戦になってお互いの『玉』が危険にさらされる変化をクリアしながら少しずつ進んでいく。中盤、終盤もどちらかの『玉』が安全ということがなく、お互いの『玉』が危険になって選択肢が広がっています。最善手を導き出すための読む量、質について、高度なものが要求されるようになってきていると思います」と話し、近年の将棋の変化も背景にあると指摘していました。

三浦九段「伊藤さんは藤井さんの強さを吸収」

伊藤匠七段がプロになる前からおよそ5年にわたり練習将棋を指しているという、三浦弘行九段は、ここ最近の伊藤七段の変化を指摘し「伊藤さんは序盤の研究が深く、そのまま押し切るという勝ち方を得意とされていて、練習対局で私が負けるパターンが主にそうでした。逆に私が勝つときは、序盤と中盤で食らいついて終盤で逆転勝ち、もしくは互角のまま推移して終盤を乗り切るというパターンでしたが、藤井さんとタイトル戦を指すようになってから、私が逆転負けをすることが多くなりました」と、終盤の力が向上していると明かしました。

そのうえで「伊藤さんはマイペースで自分の独自の勉強を貫く方なので、特に何かを変えたということもないと思います。タイトル戦を藤井さんと指しながら、藤井さんの終盤の切れ味を吸収していったのだと思います。特に2日制のタイトル戦では長い間対じするので、こんな深い読みがあったのか、こんな手があったのかということを学び、藤井さんの強さを吸収して、それが叡王戦の第3局の逆転勝ちにもつながったのではないか」と話していました。

三浦九段は、28年前、当時の七大タイトルを独占していた羽生善治九段から「棋聖」を奪取しました。

羽生九段に挑戦した時の心境について「タイトル奪取した前年にも羽生さんに挑戦しましたが、当時は羽生さんが七冠になる前で、羽生さんの全冠制覇に周りの方々も期待している空気はやはり感じました。私自身も初めての挑戦でプレッシャーは相当なものがありましたし、単純に実力不足で敗れました。その次の年は、2回目の挑戦ということで、和服での対局などタイトル戦の空気にも慣れてきて、タイトル独占を終わらせることを期待されていたような空気も感じました。全冠制覇している棋士からタイトルを奪うというのは、今回の伊藤さんの立場と一緒だと思います」と語りました。

そして、注目の第4局について「伊藤さんが若干有利とされる先手番なので、しっかりと勝ち切れるかがすごく大きいです。第5局までいくと改めて振り駒で先後を決めるので、いくら序盤に詳しく、後手番を苦にしない伊藤さんと言っても、藤井さんが有利かと思います。藤井さんは星の上でも危なげなく防衛、あるいは奪取し続けているので、まずは誰が最終局まで持ち込めるのだろうかという空気はありましたが、先に追い込まれるという状況を想定していた棋士はあまりいないと思います。伊藤さんがタイトルを獲得するとなると、私が当時の羽生七冠から奪取した以上の衝撃ではないかと思います」と話していました。

伊藤七段とは

伊藤匠七段は、5歳のころから棋士養成機関の「奨励会」に入るまでの間、東京 世田谷区の三軒茶屋にある将棋教室に通っていました。

師匠の宮田利男八段は伊藤七段について「顔はかわいらしい少年でしたが態度は子どもらしくなく、しっかりしてて、普通の子どもとははっきり違っていました」当時の印象を語りました。

そして、伊藤七段の将棋については「小さい子どもだったら自分のやりたい手や、攻め手を中心に指しますが、そこら辺ははっきり攻めと守りのバランスが取れていて、どっちか言うと『おじさん』っぽい将棋でした」と振り返っていました。

いま、宮田八段の教室には伊藤七段が大会などで活躍したときの写真が飾られていて、通っている小学4年生の女の子は「同じ教室でうれしく思います。自分も伊藤さんのように強くなりたいです。タイトルを取ってほしいし、ほかのタイトルもたくさん取ってほしい」と話していました。

また、別の小学4年生の女の子は「優しそうで、将棋もとても強くてかっこいいなという印象があります。藤井さんのようなすごく強い人からタイトルを取れたら大スターになると思うので、頑張ってほしいです」と話していました。

宮田八段は「タイトル戦への挑戦は3回目で、少しずつ勝てるようになるのだろうと思っていましたが、あと1勝にまで迫るのはびっくりしました。今の将棋界で研究熱心ということでは1番か2番だと思います。AIや対人での研究量もずばぬけていて、期待しています。1将棋ファンとしてドキドキしながら見るしかないですが、自分の思ったとおり好きに指してほしいです」と話していました。