お米で花粉症対策!? “スギ花粉米”開発へ

お米で花粉症対策!?

花粉症の原因物質を人工的に含むようにしたコメ、「スギ花粉米」が新たな花粉症対策として期待されています。

このコメを原料にした医薬品の開発など、実用化に向けた方針が農林水産省の専門家の検討会で30日示されました。

どのような仕組みで花粉症の症状が緩和されるのか、実用化には課題もあるようです。

「スギ花粉米」とは

「スギ花粉米」は、花粉症の症状の緩和を目指して、茨城県つくば市にある農研機構=農業・食品産業技術総合研究機構が2000年に開発を始めました。

スギによる花粉症の原因物質の一部を作る遺伝子をイネに組み込み、コメの「PBー1」というたんぱく質のなかにその原因物質を蓄積させます。

このたんぱく質は、胃液などに消化されにくい性質があることから、口から摂取しても花粉症の原因物質が分解されずに、多くの免疫細胞が働く腸に届けられるという利点があるということです。

継続して摂取し腸で吸収されると体が慣れて免疫が過剰に働かなくなるようになり、実際にスギ花粉を取り込んでも強いアレルギー反応が起きにくくなる効果が期待されています。

これまで花粉症の免疫療法としては、スギ花粉から抽出したエキスを原料にした薬を舌の下に投与する方法などが行われてきましたが、今回の「スギ花粉米」は腸で吸収されたあとに効果を発揮することを目指した新しいアプローチです。

専門家「有望な治療薬になるのではと期待」

「スギ花粉米」をめぐっては、これまでにもスギによる花粉症の患者に症状を緩和する効果があるかを確かめる小規模な臨床研究が行われています。

このコメを花粉が飛散する前から半年にわたって毎日少しずつ食べ続けてもらったところ、治療薬としての明確な効果は示されませんでしたが、原因物質への免疫の反応が低下することなどは確認されたということです。

臨床研究を行った東京共済病院耳鼻咽喉科の遠藤朝則部長は「スギ花粉米」の可能性について、次のように述べました。

東京共済病院耳鼻咽喉科 遠藤朝則部長
「はっきりとした症状の改善効果は得られなかったが、免疫細胞の反応が抑えられたり、薬を使う量が減ったりするなど有意な改善も確認できた。少ない人数に対する研究ではあったが、有望な治療薬になるのではないかと期待している」

「スギ花粉米」開発方針とりまとめへ

政府は「スギ花粉米」の開発を花粉症対策の1つに位置づけていて、30日、農林水産省で医療や農業などの専門家による検討会が開かれ、実用化に向けた開発方針のとりまとめの案が示されました。

▽まずは医薬品の原料として

それによりますと、「スギ花粉米」は摂取する量の管理を厳格にするため、まずは医薬品の原料として実用化を目指すことになり、量の調整や服用のしやすさを考慮して粉末状で活用する方向で開発を進めることにしています。

一方、安全性や有効性などのデータが不足していることから、アレルギーの専門医や製薬会社などと連携しながら、臨床試験などを行って医薬品としての可能性を検証するとしています。

▽露地ではなく植物工場で栽培を

また生産量や品質を安定させるため、露地栽培ではなく、年に3、4回の収穫ができる植物工場での栽培を目指すことにしていて、安全性などの情報について正確でわかりやすく発信するとしています。

農林水産省では、30日の議論も踏まえて方針をまとめ、近く公表することにしています。

開発うまくいっても5年10年

「スギ花粉米」の実用化に向けて、開発には時間がかかると専門家は指摘します。

東京共済病院耳鼻咽喉科 遠藤朝則部長
「今後、医薬品としての実現を目指すのであれば、大規模な臨床研究を行い、症状の改善など効果が1年以上続くような明確な結果を示す必要がある。さらに、効果が得られる投与の方法や期間なども明らかにしないと、治療薬としての承認は難しく、うまくいったとしても5年10年という期間がかかることはおかしくない」