イギリス議会が解散 7月の総選挙へ選挙戦が本格的に開始

イギリスで7月4日に行われる総選挙を前に30日、議会が解散し、選挙戦が本格的に始まりました。支持率で大きくリードする最大野党・労働党に対し、スナク首相率いる与党・保守党が巻き返せるかが焦点です。

イギリスではスナク首相が7月4日に総選挙を行うと発表したことに伴い、30日、議会が解散し、650の選挙区で選挙戦が本格的に始まりました。

大手調査会社「ユーガブ」が29日に発表した政党支持率は
▽与党・保守党の20%に対し
▽最大野党・労働党が47%と大きくリードし、14年ぶりの政権交代が現実味を帯びています。

巻き返しを図るスナク首相は、これまでに北アイルランドや西部ウェールズを訪れ、インフレ率の低下などを政権の実績として強調したほか
▽18歳の国民に1年間の兵役または社会奉仕活動を義務づけることや
▽年金制度の充実などを公約として掲げています。

一方、労働党のスターマー党首は北部スコットランドなどを訪れ、保守党政権は混乱と分断をもたらしたとして批判した上で、公的医療制度を利用する際の待ち時間の短縮など、変革を実現するとしています。

6月4日には両党首によるテレビ討論会が行われることも決まり、選挙戦の行方を左右する可能性があるとして注目されています。

首都ロンドンに住む40代の男性は「生活費など物価を下げてほしい。政治家たちはこれまで多くの約束をしたが実現しておらず、各党の政策を見極めたい」と話していました。

過去14年は保守党政権

イギリスでは2010年以降、保守党が14年間、政権を担っています。

労働党から政権を奪還したのは2010年で、13年ぶりの政権交代となりました。

首相に就任したキャメロン氏は2016年にEU=ヨーロッパ連合からの離脱の賛否を問う国民投票に踏み切りました。

国民投票では離脱派が勝利し、残留を呼びかけていたキャメロン氏は辞任しました。

2016年にキャメロン氏の後任として就任したのがサッチャー氏以来、2人目となる女性の首相となったメイ氏です。

離脱に向けてEUとの難しい交渉にあたり離脱の条件などで合意を得ましたが、主要閣僚が相次いで辞任するなどして孤立し、辞任に追い込まれました。

2019年7月からは元新聞記者のジョンソン氏が首相に就任しました。

EUの離脱が最大の争点となったその年の総選挙で、圧勝し、2020年1月には、イギリスのEU離脱を実現しました。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中で、首相官邸でパーティーが繰り返されていた問題など不祥事が相次ぎました。

政治専門サイト「ポリティコ」の世論調査によりますと、2021年12月には保守党と労働党の支持率が逆転します。

党内外の批判を受け続けたジョンソン氏は2022年9月、辞任に追い込まれました。

その後任となったトラス前首相は女性として3人目の首相となりました。

経済成長を促すためとして大型減税策などを打ち出しましたが、財政悪化への懸念から市場の混乱を招いて求心力が低下し、およそ1か月半で辞任しました。

そしてスナク首相は、2022年10月から首相を務めています。

20世紀以降、イギリスでは最も若く、アジア系としては初めての首相で、インフレ対策などに力をいれてきましたが、保守党の支持率は労働党を下回ったままとなっています。

専門家「保守党 いかに負け幅を小さくするか」

イギリス政治に詳しい東京外国語大学の若松邦弘教授は、スナク首相が7月の総選挙に踏み切った理由として、秋までインフレ率などの経済指標の改善が続くか、不透明なことなどが背景にあるという見方を示しました。

さらに「負けることが見込まれて今回の選挙に出ないことや、極端な場合には離党するというような動きが出て、足元がぐらついていて、長く放置するとスナク首相としても体力が奪われると考えた」と述べ、保守党内の離反の動きも後押ししたと分析しています。

その上で「今回の選挙では明らかに労働党の方がかなり差をあけて保守党に勝つと思う。保守党にとってはいかに負け幅を小さくするかがポイントだと思う」と述べました。

そして、スナク首相が18歳の国民に1年間の兵役、または社会奉仕活動を義務づけるという公約を新たに掲げたのは、保守層の支持を確実に固めたいためだと指摘しました。

また、最大野党・労働党が14年ぶりに政権を担う可能性については「労働党を中心とした政権が構築されるということについてはほぼ間違いない」と述べる一方で、労働党が過半数の議席を獲得できるかどうかは現時点では不透明だとしています。