売上至上主義を変える 不祥事直面のSOMPO新トップが語ったのは

売上至上主義を変える 不祥事直面のSOMPO新トップが語ったのは
「保険料が減ってしまうことへの恐怖心があった」

4月にSOMPOホールディングスの経営トップに就任した奥村幹夫グループCEOが、NHKのインタビューに応じ、不祥事の背景をこう総括した。

子会社の損害保険ジャパンとの“親密な関係”が指摘されたビッグモーター(当時)による保険金不正請求問題を受け、会社は昨年度、10年以上経営トップにつき、大きな影響力をもっていた櫻田謙悟グループCEOが事実上の辞任に追い込まれた。

あとを継いだ新CEOは、一連の問題の本質をどのように捉え、グループを改革していこうとしているのか。話を聞いた。

(経済部記者 篠田彩)

新CEO プロフィール

奥村幹夫氏(おくむら・みきお)
埼玉県出身 58歳
1989年 安田火災海上保険入社(現・損害保険ジャパン)
ブラジル、アメリカに駐在 介護事業子会社社長 海外事業子会社CEOなど歴任
座右の銘は「前進あるのみ」
幼少期から大学時代までサッカーに打ち込み ブラジル留学も経験

SOMPOホールディングスをめぐる不祥事

相次いだ不祥事

インタビューは、CEO就任から1か月あまり経った5月14日に行われた。

企業の経営トップのインタビューとなれば、広報担当者から事前にどんな質問をするかを詳細に尋ねられることもあるが、今回会社は「どんな質問でも受ける」と話し、インタビューは不祥事の内容に多くの時間を割くことになった。

Q. 不祥事が相次いだ 何が問題だったと分析しているか

奥村CEO
「変わってきた外部環境に対して、タイムリーに・十分に、われわれ自身が変わることができていなかった。その長年の金属疲労みたいなものが、昨年度ああいう形で露呈した。真にお客様に向かってビジネスモデル、組織風土、ガバナンスの仕組みをもっと早く変えていかなければならなかった。それが私自身、現状維持バイアスがあって、十分に変わりきれなかった。これが真の原因だと分析している。

例えばトップラインを重視するモデル=売上至上主義。これは経済が伸び人口が伸びた昭和の時代、規制マーケットだった保険業界で続いてきた。培った仕組みやメンタリティ、ビジネスモデルみたいなものが自由化(1996年)になったあとも変わることができなかった。規模を拡大することがわれわれにとって重要なのだと。それがトップライン文化だと。

その結果、現場では『いや、それはおかしい』と思う社員がいたにもかかわらず、保険料が減ってしまうことに対する恐怖心が企業の中、もしくは組織の中にあって、そして、大きな代理店さんに対する忖度があって、それが蓄積されて出てきたのが、俗に言うビッグモーター問題だと私自身は総括している」
ビッグモーター問題でたびたび指摘されたトップライン重視の企業文化。
自動車保険を販売してくれる中古車大手に忖度し、不正の可能性を知りながらも、損保ジャパンの社長みずから取り引きの再開を促していた。

奥村CEO自身、当時グループのCOO=最高執行責任者としての立場にあったため、今回の就任の打診に「自分自身も責任があるのに本当に良いのかという思いがあった」と話した。

さらに昨年度、損保業界では、業界全体の信頼を揺るがす別の問題も発覚した。
損保ジャパンを含む大手4社が、企業向け保険で事前に保険料を価格調整する行為が常態化していたことがわかり、金融庁が業務改善命令を下した。

Q. 2つの不祥事は似て非なるモノなのか 同じなのか

奥村CEO
「当然、非なるモノではあるが、根っこにあるものは、これは私は同じものなのだと思う。やはり人口がこれから減っていく、その結果、車の数や火災保険を契約する家の数が減っていく中で、経済の規模や人口が増えるときに作ってしまったモデルをそのまま引きずってしまった。

われわれの価値基準が十分変わってこなかった。それが、企業文化として、なかなか上にモノが言えなかったとか、自分たちのロジックが正しいとか、世間の常識では非常識的なことをずっとやってきてしまったのだと思う」

Q. トップラインを重視してきた営業現場の変革 どう取り組む

奥村CEO
「トップラインが大事かどうかというより、私はやはりお客さまに評価される、お客さまに提供するバリューが認められることが大事だと思っている。

本来であれば、お客さまの信頼やサービスの品質、提供するバリューが大事であって、その結果、お客さまの数やトップラインが増えていくことだったが、そのプロセスをはしょったとまでは言わないが、あまり重視せず、トップラインにいったために、トップラインを達成することから逆算して不適切な行為が行われてしまった。

なぜ品質は大事なのか、そのためにどうして信頼回復が大事なのか、なぜわれわれは信頼を失ったのか、自分の反省を踏まえて現場の方々と話をしている。

もちろん、一朝一夕に急にこれまで正しいと思っていたことを変えられるとは思っていないが、これはもう諦めることなく、ずっとトップの人間も現場の人間も、双方向のコミュニケーションを通じて言い続けていくことが必要だと思う」

Q. 企業や業界の風土は変えられるのだろうか

奥村CEO
「われわれ“損保村”=損害保険業界の中だけで議論をしたり、もしくは意思決定をすると多分ズレてしまう。今回のことが、まさにそういうことだったのだと思う。

従って、国籍、人種、年齢、性別を超えて、普通に世の中から見たときに、われわれの意思決定が本当にお客さまのためになっているのか。われわれの意思決定が正しいのかどうなのか。その観点から行くと、ガバナンスをもっと進化させていく必要がある。

信頼はなぜ失われたのかとずっと考えたときに、やはり期待されたものを裏切ったのだと。社会の多くの方がわれわれに期待していたことと違うことをやってしまった。

なので、まず最初にやらなくてはいけないのは『言行一致』。言ったことをちゃんとやっていく。率先垂範のリーダーシップを私自身も、(損害保険ジャパンの)石川社長も、言ったことをちゃんとやっていく。それを継続してやっていくことが、結果として信頼回復の早道というか、信頼回復への道筋だと思っている」

Q. 今後の経営にどう取り組むか

奥村CEO
「国内事業については信頼の回復を一丁目一番地にする。もう1つはウェルビーイング(=人々の人生の豊かさに貢献)。人にフォーカスをして、その人生の伴走者として健康寿命を延伸をする、もしくは高齢社会に向かっていったときの不安を取り除く、これらの事業全体で社会に貢献していきたいと思っている。

海外事業については着実な成長があって、少なくとも、利益ベースではグループの成長エンジンとして確固たる地位をしめている。これから数年間という時間軸を見れば、海外事業が成長ドライバーになっていくのは間違いない。国内外の多くの方々に損害保険サービスを通じて安心安全を提供していきたい」

問われるリーダーシップ

インタビューの冒頭「現状維持バイアスがあり、外部環境の変化に合わせて十分に変わりきれなかった」と強調した奥村CEO。

その反省を踏まえ、ビッグモーター問題の温床となったトップライン重視の文化や、競合他社との事前調整といった長年の慣習の見直しに取りかかる。

ただ、トップライン重視の文化を見直すとひと言で言っても、売上やシェアといった成績を競い続けてきた営業マンたちはどう変わっていけば良いのか。

人口減少を背景にした市場の縮小で、ただでさえ顧客の奪い合いの様相を見せる中、ガバナンスを高めながらどうやって利益を出していくのか。

経営陣が明確な指針を示せなければ、そのしわ寄せは現場に及ぶ。

長年続いてきた企業風土や慣習を変えることは、決して容易ではなく、気づけばまた、変化を避けようとする“現状維持バイアス”に引き戻される可能性もある。

顧客本位の本質と向き合い、組織を変革していけるのか。

リーダーシップの真価が問われている。

(5月29日「おはよう日本」で放送)
経済部記者
篠田 彩
福井局、名古屋局を経て経済部
金融分野を担当
損保業界を重点的に取材している