インド総選挙 終盤へ 首都ニューデリーなどで投票行われる

インドで1か月余りにわたって続いている総選挙は終盤にさしかかり、25日、首都ニューデリーなどで投票が行われました。

インドの総選挙は3期目を目指すモディ首相率いる与党、インド人民党と最大野党、国民会議派を中心とする野党連合が全国543の議席を争う構図となっています。

投票は先月19日から来月1日まで7回に分けて行われ、25日は首都ニューデリーなどで6回目の投票が行われました。

ニューデリー市内の投票所には、朝から有権者が次々に訪れ、一票を投じていました。

ニューデリーは、経済成長などを背景に大気汚染や交通渋滞などさまざまな課題を抱えています。

また、現地はここのところ熱波に見舞われ、連日のように40度を超える厳しい暑さが続くなか、水道が通っていない貧しい地域などでは水不足の問題も深刻化しています。

ニューデリーの議席を与野党のどちらがおさえるかは政権の維持を図りたい与党、政権交代をねらう野党連合のいずれにとっても重要で、有権者がこうした課題に対する両者の対応をどう評価するかが焦点です。

投票を終えた32歳の男性は「大気汚染が深刻で政府は十分に対応できていない。ごみ問題などとともに解決が必要だ」と話していました。

また、25歳の女性は「交通渋滞がひどく、時間内に目的地に着けず、改善が必要だ。衛生面の問題や女性の安全確保も重要だ」と話していました。

開票は来月4日に一斉に行われます。

ニューデリーでは7選挙区 1500万人の有権者が登録

ニューデリーでは、1500万人の有権者が登録され、7つの選挙区にわかれています。

前回2019年の総選挙ではいずれの選挙区でもモディ首相率いる与党インド人民党が勝利し、議席を独占しました。

今回の総選挙でも与党は、モディ首相の個人的な人気を前面に出し、すべての議席の獲得を目指しています。

今月18日に行った選挙集会では、1万人を超える支持者が集まり、モディ首相の演説に歓声をあげていました。

支持者の中には涙を流している人さえいました。

モディ首相は「インドの首都を世界中から注目を集める中心地にしなければならない」と演説し、国際社会でインドの存在感をさらに高めていくと支持を訴えていました。

また首相としてのこれまでの10年間、首都でさまざまなインフラ整備を進めてきた実績を強調し、市民の都市生活をさらに充実させていくと公約を掲げていました。

これに対し、打倒モディを呼びかけ、最大野党「国民会議派」の実質的リーダー、ラフル・ガンジー氏とともに野党連合の急先ぽうに立っているのが、ニューデリーを管轄する地方政府の首相、ケジリワル氏です。

ケジリワル氏は、モディ首相を厳しく批判する政治家として知られ、与党に対抗する有力な政党、「庶民党」の党首でもありますが、総選挙直前に酒類の販売にからむ汚職事件に関与した疑いで逮捕されました。

野党側は選挙を前にした野党への締めつけで、不当な逮捕だとして反発を強めていましたが、今月に入ってケジリワル氏は裁判所から暫定的に保釈を認められました。

ケジリワル氏は、ニューデリーなどの各地で連日、選挙集会を開き「モディ首相は、物価上昇や若者の失業を放置し、野党議員などをすべて逮捕することばかり考えている」などと政権への批判を強めていました。

ニューデリーが抱える都市問題

ニューデリーは、去年9月、G20サミット=主要20か国の首脳会議が開催され、各国首脳が集まる華々しい舞台となりましたが、その一方で経済成長や人口増などを背景にさまざまな都市問題を抱えています。

このうち大気汚染については、インド各地で重大な環境問題となっていますが、とりわけ、ニューデリーでは毎年11月から2月にかけて大気汚染物質のPM2.5の濃度がインド政府の指標で最も深刻なレベルとなる日もあるなど、市民生活に大きな影響が出ます。

また自動車の交通量が急増するなか、慢性的な渋滞や多発する事故も大きな社会課題となっています。

そして、貧困地区などでは、水道が通っていないところも少なくなく、特に水不足が深刻化する5月から6月にかけては、給水車を増やして飲料水の供給のために各地をまわります。

現地は、ここのところ熱波に見舞われ、連日のように40度を超える厳しい暑さが続いていて、給水車が到着すると、大勢の住民が集まって給水を受けていました。

女性の1人は「私たちは水不足にいつも悩まされている。水が入った容器は重たく、それを運ばなければならない。水をめぐってケンカまで起きてしまっている」と話していました。

また別の住民は「政治家は、選挙のときだけ来て、水道を作ると言うが、選挙が終わると誰も来なくなる」と話していました。

さらに若者の失業問題も深刻となっています。

モディ首相を支持する若者の1人は「雇用確保は重要だ。インドがもっと成長し、多くの企業が進出して雇用を創出してほしい」と話していました。

また、野党側を支持する別の男性は「失業問題があるけどどうしようもない。政府はもっと雇用のために対策をしなければならない」と述べていました。

モディ首相 ヒンドゥー至上主義的な政策

モディ首相は、国民のおよそ8割を占めるヒンドゥー教徒を重視する姿勢を示しヒンドゥー至上主義的な政策を推し進めてきたと指摘されています。

5年前には、イスラム教徒が多数を占めるジャム・カシミール州で特別に認められてきた自治権を撤廃し、イスラム教徒から反発の声があがる中、インド政府による統治の強化を進めてきました。

さらに、近隣の国から迫害を逃れてきたヒンドゥー教徒などに市民権を与える法律から、イスラム教徒を除外するなど、野党側からは、少数派のイスラム教徒に差別的な政策をとっていると批判を招いてきました。

そして、総選挙が進むなかでモディ首相は、反イスラム的だととられかねない発言が目立っていると指摘されています。

ニューデリーで18日に開かれた選挙集会でも、モディ首相は「野党連合のマニフェストを見てください。イスラム教徒の政党の圧力を受けて作ったのではないか」などと発言しました。

これについて、地元のジャーナリストは「ヒンドゥー教徒の支持基盤を固めるねらいもあるのではないか」という見方を示しています。ニューデリー市内のモスクに礼拝に訪れていたイスラム教徒の1人は「政治と宗教は切り離さなければならない」などと話し、モディ首相のこうした発言は、国民の分断を招くおそれがあると懸念を示していました。