イラン大統領ヘリ墜落事故 現場近くの町で葬儀 大統領選は6/28

イランでヘリコプターが墜落し、ライシ大統領など搭乗していた全員が死亡した事故で、現場近くの町では21日、葬儀が行われ、集まった大勢の国民が祈りをささげました。一方、新しい大統領を選ぶ選挙は来月28日に行われることが決まり、混迷が深まる中東情勢にも影響するだけに選挙戦の行方が注目されます。

イラン北西部の東アゼルバイジャン州で19日、ヘリコプターが墜落し、ライシ大統領やアブドラヒアン外相など搭乗していた8人全員が死亡しました。

事故を受けて、東アゼルバイジャン州の主要都市タブリーズでは21日、犠牲者の葬儀が行われました。

中心部の広場などを埋め尽くした人たちは、ライシ大統領をはじめ亡くなった人たちの写真を掲げて通りを歩くとともに、遺体をおさめたひつぎを囲んで追悼し、祈りをささげました。

イランではこのあとも23日まで3日間かけて、首都テヘランやライシ大統領の出身地である北東部のマシュハドなど、国内各地で葬儀が行われる予定です。

一方、新しい大統領を選ぶ選挙は来月28日に行われることが決まり、今月30日には立候補の届け出が始まる予定で今後、政治的な駆け引きが活発化する見込みです。

今のところ立候補に向けた各勢力の具体的な動きは明らかになっていませんが、イランの外交政策は混迷が深まる中東情勢にも影響するだけに選挙戦の行方が注目されます。

イラン大統領選 事前審査の仕組み

イランの大統領選挙では、立候補者が政治を担うのに適切かどうかを事前に審査する仕組みがあります。

審査を行う「護憲評議会」と呼ばれる組織はイスラム法学者などで構成され、その人選は最高指導者のハメネイ師らが決めるため、その意向が大きく反映されます。

前回2021年の大統領選挙では、欧米との対話を重視する「穏健派」や「改革派」と呼ばれる勢力の有力候補が、この事前審査で相次いで失格となり、保守強硬派のライシ政権が誕生することになりました。

このため、次の大統領がどのような人物になるかは、ハメネイ師の意向も鍵となります。

ライシ大統領 “女性の権利などを抑圧”批判も

保守強硬派として知られるライシ大統領は任期中、女性が公共の場で義務づけられている「ヘジャブ」と呼ばれるスカーフの着用を徹底させようとするなど、イスラム教の価値観を重視する政策を強く打ち出しました。

こうした姿勢に対しては、女性の権利などを抑圧していると批判する声も国内外から出ていました。

おととし9月、このヘジャブのかぶり方が不適切だとして逮捕された女性が死亡し、大規模なデモがイラン各地に広がると、ライシ大統領は「デモと暴動は違う。社会の治安を乱すことは許されない」として、強い態度で取締り、デモを封じ込めようとしました。

デモ隊と治安当局の衝突も起き、ノルウェーに拠点を置く人権団体「イラン・ヒューマン・ライツ」は、デモの参加者550人以上が死亡したと指摘していて、国際社会からも厳しい非難の声が上がりました。

使用ヘリは1960年代に開発 経済制裁の影響で購入難しく

イランのライシ大統領などが搭乗していたヘリコプターが墜落し全員が死亡した事故で、複数の欧米メディアによりますと、使用されていたヘリコプターは1960年代に開発されたアメリカの当時のベルヘリコプターのモデルだということです。

アメリカのメディアブルームバーグはこのモデルのヘリコプターは1998年に製造を終えていると伝えています。

イランでは1979年のイスラム革命で、親米の王政が打倒されて反米を掲げる現在の体制が樹立され、経済制裁の影響で欧米諸国から新しい機体や部品を購入することが難しくなりました。

ブルームバーグは「イランは最も古く、簡易的なヘリコプターをいまだに使用していて、新しい部品の入手が限られるなかで、飛行を続けるために技術者のスキルに頼っていた」とも指摘しています。

今回の事故を受けてイランのザリーフ元外相は20日、国営テレビの取材に対して「昨日の大惨事の犯人の1人はイランに対して航空機や部品の販売を禁じたアメリカだ」と述べ、アメリカによる制裁を非難しました。

一方、アメリカ・ホワイトハウスのカービー大統領補佐官は20日、「アメリカの制裁に責任があるという主張については全く根拠がない」と反論しました。

上川外相「深甚なるお悔やみ」「大統領選の状況注視」

上川外務大臣は記者会見で「イラン政府およびイラン国民の皆様、ご遺族に対し、深甚なるお悔やみを申し上げる。わが国は中東地域の平和と安定を重視していて、今後もイランを含む中東各国と築いてきた良好な関係を生かし関係国とも連携しつつ、中東の緊張緩和と情勢の安定化に向け、積極的な外交努力を展開していく」と述べました。

また来月28日に行われる大統領選挙については「選挙をめぐる動きを含め引き続き状況を注視していく」と述べました。