中国 ウクライナ侵攻後 ロシアへ軍事転用可能物資の輸出急増

ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、アメリカは、中国が軍事転用可能な物資をロシアに提供しているとして懸念を強めています。その1つで弾薬の製造にも使われる「ニトロセルロース」という物資のロシアへの輸出がウクライナ侵攻が始まったおととし以降、急増していたことが中国当局の公表データの分析で明らかになりました。専門家は、ロシアに対する軍事支援と考えられるとしています。

「ニトロセルロース」は、塗料やインクなど民生用として使われる一方、激しく燃焼する性質から弾薬の材料にもなり、軍事転用が可能な物資の1つです。

「ニトロセルロース」について、中国の税関当局が公表しているデータをNHKが分析したところ、ロシアへの輸出は、公表されているデータのうち最も古い2015年から2021年まではほとんどありませんでしたが、ロシアがウクライナ侵攻を始めて3か月後のおととし5月以降、急増していることが分かりました。

年間の輸出量は、おととしは700トン余り、去年は、その2倍近い1300トン余りとなっていて、ことしも3月までにおよそ110トンが輸出されています。

「ニトロセルロース」について、中国は、これまでアメリカやフランスなど欧米を含め各国に輸出してきましたが、アメリカのブリンケン国務長官は先月中国を訪れた際、習近平国家主席らに対し、軍事転用可能な物資だとしてロシアへの輸出に強い懸念を示していました。

これに対し、中国外務省の汪文斌報道官は16日の記者会見で「中国は軍事転用可能な物資について厳格に輸出管理を行っている。アメリカが中国側に責任をなすりつけようとすることは受け入れられない」と反発しました。

中国の軍事に詳しい笹川平和財団の山本勝也特任グループ長は「ウクライナ戦争に使用する弾薬を増産するためにロシアが輸入していると考えるのが自然だ。侵攻が始まってから輸出が格段に増えているということは、明らかに中国のロシアに対する軍事支援と考えられる」と話しています。

「ニトロセルロース」とは

「ニトロセルロース」は、綿の繊維を硝酸などで処理して作られる物質で、「硝化綿」とも呼ばれています。

塗料やインクなど民生用として使われる一方、着火すると激しく燃焼するため、火薬やロケット弾の推進剤などにも使われ、弾薬の材料となるため、軍民両用で活用できる「デュアルユース」物資の1つです。

アメリカ政府は、ウクライナ侵攻を続けるロシアは弾薬を製造するため、「ニトロセルロース」を外国からの供給に頼っているとしています。

軍事転用可能物資 米側の言及

アメリカのブリンケン国務長官は先月、訪問先の中国で、習近平国家主席や王毅外相と会談したあとの記者会見で「会談では、中国が、ロシアのウクライナ侵攻を支援するために物資を提供していることについて、深刻な懸念を強調した」と述べました。

そのうえで、中国は「軍事転用可能な物資の最大の供給国だ」と批判し、そうした物資の1つとして、ニトロセルロースを挙げました。

また、アメリカの情報機関を統括するヘインズ国家情報長官も今月、議会上院の軍事委員会での証言で中国によるロシアへの支援に関連して「中国は、殺傷能力があるとみなされる兵器の支援を避け、ニトロセルロースのような実質的に軍事転用可能な物資を提供してきた」と述べ、ニトロセルロースを軍事転用可能な物資の支援の代表例として言及しています。

こうした中、アメリカ政府は、ロシアの軍需産業を支援したとして、今月、新たに300近い個人や企業に対し、資産凍結などの制裁措置を発表しました。

この中には、中国 河北省にある2つの企業も含まれていて、ニトロセルロースをロシア企業に大量に輸出したなどとしています。

中国「厳格に輸出管理」 米側を非難も

中国が軍事転用可能な物資をロシアに輸出しているとアメリカが非難していることについて、中国外務省の汪文斌報道官は16日の記者会見で「中国は軍需品の輸出については、常に慎重かつ責任ある対応をとっており、軍事転用可能な物資についても厳格に輸出管理を行っている。アメリカが中国側に責任をなすりつけようとすることは受け入れられない」と反発しました。

そのうえで「アメリカは、ウクライナに対して、かつてないほどの軍事支援を行う一方で、中ロ間の正常な貿易に対し、根拠のない非難をするのは、典型的なダブルスタンダードであり、極めて偽善的で、無責任だ」と述べ、アメリカ側を非難しました。

専門家「単純な軍事支援ではない」

中国の軍事に詳しい笹川平和財団安全保障研究グループの山本勝也特任グループ長は、中国からロシアへのニトロセルロースの輸出がウクライナ侵攻後、急増していることについて「ウクライナ戦争に使用する弾薬を増産するために、材料としてロシアが輸入していると考えるのが自然だ」と指摘しました。

そして「ニトロセルロースを作っている中国企業の主力は、軍需産業だということをしっかりと考えておかなければならない。ウクライナ戦争が始まってからニトロセルロースの中国からロシアへの輸出が格段に増えているということは明らかに中国のロシアに対する軍事支援と考えられる」と分析しています。

また今回のNHKの分析では、中国が欧米向けにニトロセルロースを輸出する際、1キロ当たりの価格がおおむね2ドル台から3ドル台であるのに対し、ロシア向けへの輸出では4ドル台と、高くなっていることも分かりました。

これについて、山本氏は「欧米から厳しい経済制裁を受けているロシアに言い値で売って、利益を取っている。これは、単純な軍事支援ではない。ロシアの弱い部分につけ込んでいる。これからは中国が主で、ロシアが従だという中国の立場をロシアに知らしめようとしているともみることができる」と述べました。

さらに、中国が欧米にもニトロセルロースを輸出していることについて「中国からアメリカやヨーロッパに対する輸出が制限されることになれば、欧米の弾薬の製造に影響が及ぶかもしれない。そうなれば、今ですら欧米からウクライナへの弾薬支援が限定的である中、より一層制約されるのではという危惧を持ってしかるべきだ」と述べ、中国側の対応によっては、欧米のウクライナ支援に影響を与える可能性もあるという認識を示しました。