1~3月GDP 年率 2期ぶりのマイナス 消費に影響の円安 見通しは

ことし1月から3月までのGDP=国内総生産は、前の3か月と比べた実質の伸び率が年率に換算してマイナス2.0%と、2期ぶりにマイナスとなりました。
自動車メーカーが、認証取得をめぐる不正で車の生産や出荷を停止した影響などで個人消費や輸出が落ち込みました。

今後の経済はどうなるのか。「賃上げ」による景気回復に期待する声もありますが、急速に進んできた「円安」が影響を及ぼしそうです。

「個人消費」「輸出」「設備投資」いずれもマイナスに

内閣府が16日発表したことし1月から3月までのGDPの速報値は、物価の変動を除いた実質の伸び率が前の3か月と比べてマイナス0.5%となりました。

これが1年間続いた場合の年率に換算するとマイナス2.0%で、2期ぶりのマイナスです。

主な項目をみますと、「個人消費」は、前の3か月と比べてマイナス0.7%でした。

自動車メーカーが、認証取得をめぐる不正で車の生産や出荷を停止したことなどが消費に影響しました。

「個人消費」のマイナスは4期連続となり、リーマンショックの前後の2008年から2009年にかけてマイナスが4期続いたとき以来となります。

「輸出」も5.0%のマイナスでした。

統計上、輸出に計上される外国人旅行者の日本国内での消費は増えましたが、認証取得の不正などを受けて自動車の輸出も落ち込みました。

企業の「設備投資」もマイナス0.8%でした。

一方、政府による「公共投資」は昨年度の補正予算の執行が進んだことでプラス3.1%、「住宅投資」はマイナス2.5%でした。

物価の変動を加味した名目GDPは、ものやサービスの値上がりが続いていることを反映し、前の3か月に比べてプラス0.1%、年率に換算してプラス0.4%となりました。

また、昨年度1年間のGDPは、(2023年度)前の年度と比べた伸び率が実質でプラス1.2%、名目もプラス5.3%とともに3年連続のプラスとなりました。

林官房長官「定額減税などの効果で回復期待」

林官房長官は午前の記者会見で「景気の動きによるものとは言えない特殊要因の影響もあり、実質成長率はマイナスとなったが、今後は33年ぶりの高水準となった春闘の賃上げや、来月から実施される定額減税などの効果が見込まれ、雇用・所得環境の改善のもと、緩やかな回復が続くことが期待される」と述べました。

一方「資源価格や為替の変動が物価を押し上げるリスクなどに十分注意する必要がある。力強い賃上げの動きを中小企業や地方にまで広げ、定着できるよう取り組みを進めるとともに、定額減税などで家計所得の伸びが物価上昇を上回る状況を確実に作り出し、消費を下支えしていく」と述べました。

新藤経済再生担当相「特殊要因の影響もあり回復が期待」

今回のGDPの結果について、新藤経済再生担当大臣は「景気の動きによるものとは言えない各種の特殊要因の影響もあって実質の成長率はマイナスとなったが、33年ぶりの高水準となった春闘の賃上げなど雇用・所得環境が改善するもとで景気は緩やかな回復が続くことが期待される。

力強い賃上げの流れを中小企業や地方にまで広げ、来月からの定額減税などにより消費を下支えしていく」という談話を発表しました。

専門家「個人消費 特殊要因なくても弱かった」

明治安田総合研究所の小玉祐一チーフエコノミストは、
「予想どおり弱い結果だった。個人消費は物価高の影響を受けて賃金に物価の変動を反映した実質賃金のマイナスが続いているので、認証不正の問題による自動車の落ち込みという特殊要因がなくても弱かったとみている」と話しています。

物価の上昇に賃上げが追いつかず

個人消費が振るわない背景には物価の上昇に賃上げが追いついていないことが挙げられます。

厚生労働省の毎月勤労統計調査によりますと、ことし3月の1人あたりの現金給与総額は去年の同じ月から0.6%増え27か月連続のプラスでしたが、物価の上昇分を反映させた「実質賃金」は2.5%減り、過去最長の24か月連続のマイナスとなっています。

また、総務省の家計調査では、昨年度1年間に2人以上の世帯が消費に使った金額は実質で前の年度に比べ3.2%減少し、物価上昇による節約志向の強まりがうかがえる結果となっています。

今後は、33年ぶりの高い水準となったことしの春闘での賃上げの効果や来月からの「定額減税」によって実質賃金や可処分所得が増え、消費が拡大していくという見方が多くなっていますが、歴史的な水準が続く円安が水を差すおそれもあるという指摘も出ています。

民間のシンクタンク「みずほリサーチ&テクノロジーズ」は、ことし4月から6月の間、円相場が1ドル=154円程度で推移した場合、その後、円高方向に動いて1ドル=140円台に戻ったとしても原油高の影響もあって、今年度は昨年度に比べて1世帯あたりの食料やエネルギーなどの負担が平均で10万5000円余り増えると試算しています。

円安の影響 浮き彫りに 仕入れ価格が1.5倍に

アメリカ産の牛肉を使っている仙台名物の牛タン専門店からは円安の影響で仕入れ価格のさらなる値上がりを心配する声が聞かれています。

宮城県富谷市に本社がある牛タン専門店ではアメリカやオーストラリアなどから毎月、40トンから50トンの牛タンを仕入れています。

このうちことし3月のアメリカ産の1キロあたりの仕入れ価格は1年前のおよそ1.5倍に値上がりしているということです。

仕入れコストが上昇したため大型連休の売り上げは去年よりも伸びましたが利益は減少したということです。

この専門店では原材料価格の高騰を受けて去年5月に定番の牛タン定食について税抜き価格を1800円から1980円に値上げした一方で定番以外のメニューの充実に努めてきました。

ただ記録的な円安が続いた場合には仕入れコストがさらに上昇すると見込まれるため将来的には再び値上げすることも検討せざるをえないとしています。

牛タン専門店「喜助」の小野博康社長室長は「料理の品質は変えないのが大前提なので、原価が上がっている今は収益が落ちる構造になっているのが現実だ。同じことをやっていれば経営はどんどん圧迫されていくと思うので、品質がよりよく、より安いものを仕入れる努力も続けていきたい」と話しています。

値上げか、サービス縮小か…

円安などを背景にしたコストの上昇で経営が圧迫される企業が出ています。

こうした中、利用者にアンケートを行って、料金の値上げか、サービスを縮小してでも料金を据え置くかを聞くことで今後の方針を決めようという動きもあります。

高松市に本社があり香川県内に30の店舗を展開するクリーニングチェーン「さかえドライ」では、去年10月にクリーニング料金を平均で5%程度値上げしたほか、店舗の営業時間を短くしたり、時間帯によって店員を減らしたりするなどコストの削減に取り組んできました。

しかし、クリーニングに使う洗剤や包装資材などが値上がりし、コストが3年前より15%ほど増えていて、一部の仕入れ先からは6月の注文分からさらに3%ほど値上げするという通知が届いているといいます。

今年度も最低賃金が大幅に引き上げられれば、9割を占めるパート従業員の人件費も増えることなどからさらなるクリーニング料金の値上げを視野に検討を進めています。

ただ、料金の値上げは利用の減少につながる懸念があるため利用者の理解を得ることが重要だとして、現状を説明したうえで意見を聞くアンケートをことし3月下旬から行っています。

アンケートは会計の際にレシートとともに渡され、値上げをする代わりに定期的な割引きセールを継続するのがいいのか、セールの割引き率が下がったり営業時間の短縮など利便性が損なわれたりしてもいいので料金据え置きがいいのかなどの中から選んでもらい店舗で回収しています。

アンケートを続けた上で、ことし8月にもいったん結果をとりまとめ、今後の対応を決める判断の材料にしたいとしています。

営業本部の瀧一宏部長は「利用者にも現状の厳しさを理解してもらいたいと、アンケートをとることにしました。会社で一方的に対応を決めるのでなくアンケートの結果も踏まえて料金やサービスをトータルで考えていきたい」と話しています。

記録的な円安水準が長引くと商品の値上げ検討せざるをえない

記録的な円安は、福岡土産として知名度の高い菓子を作っている中小企業にも影響を及ぼしています。

福岡市に本社を置く創業110年余りの老舗の食品会社は、めんたいこなどの魚介類を使ったせんべいが主力商品です。

定番のプレーン味のほか、ねぎ味やマヨネーズ味などの幅広いラインナップがあり、福岡空港や博多駅といった各地の売店で販売されています。

コロナ禍を経て売り上げは回復傾向にありますが、収益を圧迫しているのが記録的な円安だと言います。

国産だけでは賄いきれない原材料を海外産に頼る中、商社を通じて輸入しているイカの価格は1年前よりおよそ20%上昇しているということです。

また、食感を出すための原材料で、ドル建てで取り引きしているタピオカでんぷんも、1年前と比べた値上がり幅がおよそ20%に上っているということです。

この食品メーカー「山口油屋福太郎」の樋口元信社長は「為替の影響は本当に避けられないです。1ドルが150円を超えるとちょっとまずいなというのがあります」と話しています。

会社では、仕入れ価格をより安くできる取引先を探すなどのコスト削減策に取り組んでいます。しかし、記録的な円安水準がさらに長引くようだと、2023年11月に続く商品の値上げも検討せざるをえないと言います。

樋口社長は「これから人件費も上げなければならないので販売価格に反映させたいのですが、他社との競争もあり悩んでいるところです」と話していました。

中小企業 賃上げの機運に水を差しかねない現状も

福岡市に本社を置く1960年創業の「九州電化」は、社員数90人余りの金属加工会社です。

素材の表面にめっき処理を施し、さびを防いだり、電気を通しやすくしたりする技術を磨いてきました。

年間の顧客数はおよそ700社、売上高は10億円程度ですが、記録的な円安が経営の重荷になっています。

めっき処理に使う銀やニッケル、それに塩酸などはほとんどが輸入品で、商社を通じた仕入れ価格が1年前に比べて3割から4割上昇しているということです。

山田登三雄会長は「扱っている材料や金属が大幅に値上がりしていて、非常にダメージが大きい」と話しています。

円安が利益を押し下げる中、山田会長が悩んでいるのが社員の賃上げです。

会社では当初、ことし7月にベースアップを行う方向で検討してきました。

ただ、原材料の値上がり分を取引価格に十分転嫁できない状況も続いていて、最終的な賃上げの幅はまだ決めかねていると言います。

半導体関連の企業とも取り引きがあるこの会社。将来の需要の増加を見越して福岡県内に新工場の建設計画を進める一方、記録的な円安がいつまで続くのか、その先行きを注視しています。

山田会長は「お客さんがいてそこから仕事を請け負うという業界なので、価格転嫁の難しさを感じます。仕入れの金額が大きくなって売り上げが増えないと、わが社にとって厳しい状況が続くことになると心配しています」と話していました。

外国人観光客の購入 40%増加のところも

茶わんやどんぶりなどの食器を販売する都内の専門店では、円安を背景に外国人観光客の購入が増えていて売り上げは去年の同じ時期と比べておよそ40%増加しています。

東京 台東区にある「かっぱ橋道具街」にある、創業100年以上の食器専門店では、ラーメンや天丼用のどんぶりや湯飲み、それに茶わんなど、およそ3000種類の日本ならではの食器を販売しています。

店によりますとこれまでは飲食店関係の客が多かったということですが、去年の冬ごろからは外国人観光客が増え始め、いまでは客の半数以上がヨーロッパやアメリカなどから訪れた観光客だといいます。

一日平均で200人以上の外国人観光客が訪れていて、売り上げは去年の同じ時期と比べておよそ40%増えているといいます。

外国人観光客には、墨絵が描かれた食器やお茶をたてる時に使う抹茶わんをはじめ、価格帯が高めの5000円ほどのものも売れ行きがいいということです。

家族へのお土産として10種類近くの食器を購入する人も多く、アクセサリーなどを入れる小物入れとして使われるケースもあるということです。

店は、外国人観光客の増加にあわせて商品の種類を増やすなどの対応をしているということです。

アメリカから訪れた60代の女性は「娘のためにしょうゆやわさびなどを入れられるきれいなお皿を買いました。円安の影響でたくさん買い物ができるので、日本ではもう10万円ほど使いました」と話していました。

専門店の本健太郎代表は「値段を気にせずに買う人が多く、円安の効果はすごいと思います。インバウンドで活況なのはうれしいかぎりで、今後さらに増えるようなら従業員を増やすなどの対応も考えなければいけない」と話しています。

物価上昇どうなる?

「明治安田総合研究所」では、春闘での賃上げが給料に徐々に反映されることで、実質賃金は7月から9月の間にプラスになると見込んでいます。

しかし、この春に1ドル=170円まで円安が加速すると、輸入物価の上昇の影響がおよそ半年かけてあらわれ、10月から12月の間に消費者物価がプラス3.4%にまで上昇し、実質賃金がマイナスに転じる可能性があるとしています。

「賃上げでしっかりと家計に還元するかが鍵に」

明治安田総合研究所の小玉祐一チーフエコノミストは、今後の景気については「先行きの見通しは逆に改善しつつあるのではないか。ことしの春闘で高めの賃上げが実現しており、給料に4月以降反映され始めるので消費マインドが上向いて個人消費が伸びる展開が期待できる」とみています。

円安の影響については、「家計にとっては輸入物価の上昇を通じて円安はマイナスに働く。地方の中小企業は物価の上昇という形でデメリットを感じやすく、景況感の回復が遅れる可能性もある」と話しています。

そして「先行きの日本経済は賃金の動向が鍵を握っているので賃金のプラス基調が維持できないと再び景気がマイナスに戻ってしまうリスクが考えられる。利益を上げた企業が賃上げという形でしっかりと家計に還元するかどうかが鍵を握っている」と指摘しています。