AIが災害発生監視やインフラ劣化診断 新たな防災減災対策とは

AIが災害発生監視やインフラ劣化診断 新たな防災減災対策とは
毎年のように各地で起きる災害。

能登半島地震では、土砂崩れや地割れによって道路が寸断されたほか、水道管の破損で断水が長く続くなどライフラインにも大きな影響がでました。

こうした中、防災や減災にAIの技術を取り入れる動きが広がっています。

(社会部記者 伊沢浩志・科学文化部記者 植田祐・前橋放送局記者 渡辺毅)

「土砂崩れ」も常時監視

私たちが訪れたこの会社では、衛星写真などのデータをAIで解析し、土砂災害が発生した場所を自動で検出するシステムの開発に取り組んでいます。
この会社は、過去と現在の衛星写真をAIで比較し、変化があった部分を瞬時に検出する技術を開発しました。
上の画像は同じ地域を2010年代と現在で比較した衛星写真です。さら地だった場所に住宅地が建設されていることがわかります。

もともと住宅地図の更新で利用するために開発し、国土地理院や地図の販売事業者などに検出した結果を提供してきましたが、その技術を災害に応用する取り組みが進められています。
こちらはことし1月の能登半島地震が発生した直後の山間部の画像です。

AIが土砂崩れが発生した場所を赤色で示し、青色で示した河川が通っていた場所を土砂が覆っていて、このあと河川をせき止め、水があふれ出す恐れがある可能性を示しています。
畠山 湧 リードエンジニア
「我々のAIには、過去に発生した土砂崩れのデータを大規模にインプットしています。それを用いてAIが土砂崩れが起きた場所の特徴を学習し、それをもとに今回であれば能登半島であったり、災害が起きたか所、土砂崩れを検出することができます」
画像からは、災害時に人が確認に立ち入ることが難しい山間部の被害状況を把握することができるほか、川がせき止められるなどして、この先被害が広がりそうな地域を把握することができます。

現状では、土木などの専門知識を持つ人が、衛星写真を確認した上で、1日単位の時間をかけて解析して危険性を予測していますが、AIの解析にかかる時間はわずか数分。時間を大幅に短縮することができます。

このAIによる解析結果は、過去の災害で、国土交通省の災害対策検討会でも活用されました。
この会社では、能登半島地震によって発生した土砂崩れの場所を39か所検出し、二次災害のおそれがないか3日おきにモニタリングを続けています。異常を見つけたときには石川県の担当者に伝えることにしています。
畠山さん
「災害対応は迅速性が重要ですので、すぐに土砂崩れが発生した場所を特定をして、自治体などに活用していただくことで、災害の活動プランや復旧プランをたてることができるようになります」
会社では、画像解析の技術に加えて今、生成AIの「ChatGPT」を組み合わせて、誰でも土砂崩れの危険性を調べられるシステムの開発も進めています。
例えば「2024年1月の石川県の土砂崩れの場所を把握したい」などと検索すると、AIが膨大な衛星写真のデータの中から解析した結果を表示します。
これまでの時間短縮に加え、“誰でも”“簡単に”土砂災害が発生した場所を把握するという、いわゆる「ユーザーインターフェース化」=「誰でも使いやすくする」ことを目指しています。

社長でエンジニアの柳原尚史さんは、AI技術の進化を、災害発生時に対応に追われる自治体の職員にも使ってもらい、その負担軽減につなげ、1人でも多くの命を救ってほしいと考えています。
柳原 尚史社長
「災害対応時に衛星画像を受け取ったとしてもそれを解析する人がいない、大変な現場に人を送っているので精いっぱいの状況だという悩みを自治体職員から実際に聞いた。AIの技術を提供することで人手が足りない部分の解消につなげることは、大きなニーズがあると考えている。AIの技術によって『実際に災害が防げた』という事例が作られ『このAIがあったことで助かった』という声が聞けるところまで技術を高めていきたい」

水道管老朽化もAIで迅速調査 耐震強化も

劣化したインフラの早期発見にAIを活用し、災害に強い街づくりを進める動きも出ています。

人口およそ33万人の前橋市。法律で耐用年数とされる40年を超えた水道管がこの5年間で2倍近くに急増しています。老朽化によって年間1000件以上の漏水が起き、日々対応に追われています。
ことし4月、前橋市の職員に同行し、市民から漏水の連絡があった現場に向かいました。場所は、市内中心部の県道です。64年前に設置された水道管に亀裂が入り、水が激しく噴き出していました。
前橋市水道整備課の職員
「やはり水道管の老朽化がかなり進行していると思います。1日平均4、5件は市民からの連絡を受けて修理や交換の対応にあたっています」
地下の漏水を見つけるために、市の担当者が深夜の静かな時間帯を中心に、地中の音を聞いて異常を確認する地道な作業を続けてきました。しかし、このやり方で見つかる漏水は年間100件程度で、人手もぎりぎりの状態でした。
前橋市の水道管の耐震化の割合は去年3月末の時点で50.9%。ここ数年、年間1%あまり更新を続けてはいるものの、国が5年後(2029年3月末)の目標としている60%の到達は、厳しい状況です。

AI×人工衛星でリスク予測

そこで現状を打開しようと前橋市が今年度本格的に導入したのが「AI」と「人工衛星」を組み合わせた対策です。
JAXAの職員が設立したベンチャー企業と連携して導入したもので、人工衛星から「前橋市内の気温」「一定期間に起きた地表面の隆起」などの詳細なデータを取得します。その上で「どんな材質の水道管がいつ整備されたか」「過去に起きた漏水の事例」をAIに覚え込ませます。人工衛星の情報と水道管に関する情報を組み合わせることで、AIが漏水のリスクが高い場所を予測するというものです。
AIが予測した漏水のリスクが高い場所のデータです。
リスクは5段階で色分けして表示。地表面が高温になったり、寒暖差が激しくなったりするところを中心に最もリスクが高い「赤」で示されています。
一方こちらは、前橋市の設置から40年を過ぎた水道管の場所を示したマップです。
市は老朽化が進んだ水道管を中心に、人手をかけて調査していました。

AIが漏水リスクが高いと予測した「赤」や「オレンジ」の色の地点を重ね合わせると、必ずしも水道管の老朽化の場所と一致しませんでした。
設置から40年を過ぎても、それほど漏水リスクが高くないと分析された地点もあった一方で、40年に満たなくてもリスクが指摘された場所もありました。

前橋市ではAIデータの活用により、リスクが高い水道管を効率的に調査できると期待しています。
前橋市水道整備課 根岸雅博さん
「蛇口をひねれば水が出るのが当たり前になっていますが、その当たり前を守るためにAIを駆使して更新・耐震化を進める必要がある」

被害を最小限に抑える“減災”にもAIを

都市防災が専門で、災害に強い街づくりを研究している関東学院大学理工学部の鳥澤一晃教授は、地震が起きた際、道路が地割れや陥没などによって、通行止めのリスクがある場所をAIで予測する研究をしています。
これまでは、道路の長さと震度で通行止めが起きる確率を地域単位で予測していたことから、ピンポイントで通行止めの場所を特定することは難しいという課題がありました。
そこにAIを導入して、国土交通省が公開している「道路の交通量」や「通行する車両の種類」など複数のデータを組み合わせることが可能になり、より細かい地点での通行止めの予測ができるようになったということです。

鳥澤教授はこの技術が完成すれば、大規模災害の時の通行止めを最小限に抑えることができると期待感を示しています。
関東学院大学理工学部 鳥澤一晃教授
「能登半島地震のように、道路の寸断によって孤立地域が発生したが、特に山間部や過疎地域でどの道路を事前に優先的に対策すべきなのか予測できる」

“これまでにない防災施策や都市整備の新たな選択肢となるかも”

鳥澤教授は、AIを防災分野に活用する動きが広がっていることについてはこれまでの知見とAIの組み合わせることが重要だと話しています。
鳥澤一晃教授
「従来から行われている経験に基づく知見を踏まえた防災や都市整備の進め方はこれからも重要だと考えている。AIはさまざまなデータを学習してアウトプットすることができるため、これまで考えられていなかった防災の施策や都市整備の新たな選択肢を提案できる可能性がある。AIから得られる新たな選択肢を加えながら、より適切な対策を進めることが重要だ。多くの災害を経験してきた日本はほかの国に比べて防災に関する知見の蓄積がある。それをAIに学習させて活用し、いかにアウトプットできるかは、防災の現場をよく知る日本が国際的に主導権を握ることができる分野ではないか」
「災害列島」とも呼ばれる日本。人手不足が進む中でAIの技術を取り入れ、より効率よく災害に備えるための取り組みが各地で進んでいます。

(5月24日「おはよう日本」で放送予定)
社会部記者
伊沢浩志
2013年入局
福井局を経て2018年から社会部
警視庁捜査1課や裁判担当を経験し、現在は遊軍として事件事故や司法のほかAI分野も取材
科学文化部記者
植田祐
2012年入局
2022年から科学・文化部
福島局、福井局で原発取材を経験し、現在は消費者問題やフェイク、AIの分野を担当
前橋放送局記者
渡辺毅
2004年入局
旭川局や長崎局などを経て、2023年から前橋局
企業の再生や事故、原爆関連の取材を経験 現在は、遊軍として防災やインフラの問題を継続して取材