シャープ テレビ向け液晶パネル 大阪の工場での生産停止を発表

「シャープ」は、不振が続いているテレビ向けの大型液晶パネルについて、大阪 堺市の工場での生産を、ことし9月末までに停止することを明らかにしました。スマートフォン向けなどの中小型の液晶パネルの生産も縮小し、業績の立て直しを急ぐ考えです。

シャープは14日、今後の経営方針について発表し、大阪 堺市にある子会社、SDP=「堺ディスプレイプロダクト」の工場で手がけているテレビ向けの大型液晶パネルの生産を、ことし9月末までに終了するとしています。

SDPをめぐっては、シャープが株式の一部を親会社のホンハイ側に売却したものの、2022年に再び株式を取得し、完全子会社化していました。

ただ、中国や韓国のメーカーとの競争の激化に加え、コロナ禍での買い替え需要の一巡などを背景に業績の不振が続く中、会社は、原材料価格や人件費の上昇などで損失がさらに拡大するおそれもあるとして、生産停止に踏み切った形です。

また、パソコンやスマートフォン向けの中小型の液晶パネル事業についても、足元で業績が急激に悪化していることから、三重県の工場の生産能力の縮小などによって固定費の削減を進めるとしています。

合わせて、シャープが発表した昨年度1年間の決算では、中小型の液晶パネル事業の採算悪化を踏まえて多額の損失を計上したことなどから、1499億円の最終赤字となりました。最終赤字となるのは2期連続です。

一方、今年度の業績については、最終損益が50億円の黒字になるという見通しを示しました。

シャープの呉柏勲社長兼CEOは、決算会見で「SDPは連結子会社化後の市場の変化により、当初の再生計画の遂行が困難になったことから、今年度上期中に大型ディスプレイの生産を停止することを決定した」と述べました。

「生産に関する人員は早期退職を募集」

呉社長兼CEOは、14日の会見で、SDPの工場をAIデータセンターなどに転用することを明らかにした上で、「生産に関する人員については早期退職を募集することになる。一方で、将来のトランスフォーメーションに必要な人材は配置転換を検討している」と述べました。

シャープによりますと、SDPではおよそ800人の従業員が働いています。

「『負のサイクル』からの脱却を図り 黒字化成し遂げたい」

また、呉社長兼CEOは「液晶パネルなどの『デバイス事業』では、工場への投資などが十分に行えず、徐々に競争力が低下して業績が低迷してきた。その一方、堅実に業績を上げている家電などの『ブランド事業』も、将来の成長に向けて十分な手を打つことができないという『負のサイクル』に陥っている。ブランド事業を中心とした事業構造を確立して、この『負のサイクル』からの脱却を図り、今年度こそ黒字化を成し遂げたい」と述べました。

シャープの液晶事業 2004年~「世界の亀山モデル」ブランド確立

シャープの液晶事業が注目を集めたのが、2004年に三重県の亀山工場で初めて出荷された液晶テレビでした。

亀山工場を前面に出す販売戦略で、「世界の亀山モデル」としてのブランドを確立しました。

シャープはその後も液晶パネル工場への大規模な投資を続け、2009年には大阪 堺市に4300億円を投じた、当時としては世界最大の液晶パネル工場が稼働します。

これが今のSDP=堺ディスプレイプロダクトが運営する工場で、当初は雇用の確保や地元企業との取り引きなど、地域経済の活性化への貢献が大きく期待されました。

しかし、韓国メーカーなどとの競争が激しくなり、採算が悪化していきます。

2016年~ 経営不振 ホンハイ精密工業の買収受け入れ再建へ

巨額投資が裏目に出た形で、会社は経営不振に陥り、2016年に台湾の大手電子機器メーカー「ホンハイ精密工業」による買収を受け入れた上で、再建に踏み切ることを決断します。

再建策の一環として会社は、テレビ向けなどの大型液晶パネルを生産するSDPの株式の一部をホンハイ側に売却しましたが、2022年、一転してSDPの株式を再び取得し、完全子会社化に踏み切ります。

大型液晶パネルを事業の柱に位置づけるも…

シャープは、テレビ向けの大型液晶パネルを事業の柱のひとつに位置づけましたが、市況の低迷が続き、2022年度の決算で2608億円の最終赤字を計上し、2016年度以来の赤字に陥っていました。

シャープの代名詞とされてきた液晶事業ですが、競争の激化や需要の低迷などを背景に、会社の経営を大きく左右してきました。

液晶に代わる柱をどう育てるか 課題に

大型の液晶パネル事業の再建を断念した形のシャープは、今後、液晶に代わる事業の柱をどう育てるかという課題に直面することになります。

会社は、家電やパソコンなどの「ブランド事業」を主軸とした事業構造への転換を目指していて、創業111周年となった2023年、自社単独の展示会を東京都内で初めて開き、技術力をアピールしました。

合わせて会社は、事業グループを再編した上で、それぞれのグループに新規事業を専門に担う組織を設置しました。

会社は、次世代型の太陽電池やヘルスケアなどの分野で研究開発を進めていますが、早期に事業を軌道に乗せられるかが焦点となりそうです。

日本が切り開いたテレビ用液晶パネル産業 事実上 幕を下ろす

液晶テレビに代表される液晶パネル産業は、日本の電機メーカーが市場を切り開いてきた歴史があります。

その後、韓国メーカーなどとの激しい競争に巻き込まれ、日本企業は次々と事業から撤退。現在は中国メーカーが台頭しています。

1970年代にシャープが世界で初めて電卓の表示用に液晶パネルを採用し、パソコン用からテレビ用に大型化技術を開発。その後、松下電器産業=いまのパナソニックや、東芝、日立製作所、それにソニーなども液晶パネルを手がけ、日本の液晶パネル産業は世界の中で大きな存在感を獲得しました。

しかし、2000年代に入ると、液晶パネルの生産は、大型工場による生産コストの効率化が競争力を大きく左右するようになります。
韓国のサムスンやLG、それに台湾メーカーとの巨額投資の競争に巻き込まれるなか、2004年には日立、松下電器、東芝が合弁会社を設立することで合意。一方、ソニーはサムスンと提携するなど、業界再編を繰り返す構図となりました。

しかし、中国メーカーの参入でさらに競争が激しさを増すなか、ソニーは2012年にサムスンとの提携を解消し、同じ年にシャープの堺工場への出資も解消して、テレビ用液晶パネル事業からの撤退を決めました。
また、日立、松下電器、東芝の合弁会社を引き継いだパナソニックは、2016年にテレビ用の液晶パネルの生産から撤退しました。

調査会社DSCCによりますと、2023年のテレビ用液晶パネルの売上額の世界シェアは、上位3社を中国メーカーが占めるなど高いシェアとなっています。これに対して日本メーカーで唯一のシャープは5位となっています。

さらに、テレビ用のディスプレーは、液晶パネルから、より高精細の有機ELパネルに主軸が移りました。
有機ELパネルでも、これまで高いシェアを確保していた韓国メーカーに対して、中国メーカーが猛追する状況となっています。

日本の電機メーカーが市場を切り開いてきたテレビ用の液晶パネル産業は、最後に残されたシャープの生産終了によって、事実上、幕を下ろすことになります。