イラン革命防衛隊 ミサイル関連施設ルポ 記者が見たものとは

イラン革命防衛隊 ミサイル関連施設ルポ 記者が見たものとは
「撮影を許可してもよい」
突然1本の電話がかかってきて、そう告げられた。電話の声はイランの「革命防衛隊」の関係者だった。

革命防衛隊はイランでは正規軍よりも圧倒的な存在感を持つ軍事精鋭部隊で、4月に歴史上初めてとなるイランからイスラエルへの直接攻撃を実行した組織だ。

いったい何が撮影できるのか、誰が取材に応じるのか・・・。
ニュースになる確信も持てないまま、撮影が認められた“公園”とされる場所に向かった。

(テヘラン支局長 土屋悠志)

“航空宇宙公園”って何?

そもそものきっかけは、たまたま見かけたイランメディアの記事だった。

記事では「航空宇宙公園」という施設が紹介されていた。しかし「公園」という言葉から連想される、家族連れがのんびり楽しむような場所ではないのはすぐにわかった。記事に掲載されていたのは、誇らしげに並べられたイラン国産兵器の写真だったからだ。

この「公園」は、イランの革命防衛隊が管理するもので、外国人はおろか、一般のイランの国民も許可がなければ入ることは認められていない。

そもそもイランでは、軍事関連施設の撮影はなかなか認められない。ただ、イスラエルとの間で緊張が高まるさなかだ。何かの取材のきっかけになるかもしれない、そう思い、「だめもと」で“公園”に連絡を取り、取材を申し込んだ。

イランとイスラエルの関係は、ことし4月、過去にないほど緊迫していた。発端となったのは、シリアにあるイラン大使館が攻撃され、革命防衛隊の司令官らが殺害されたことだった。
イランはイスラエルによる攻撃だとして反発し、史上初めて、イランからイスラエルへ直接攻撃に踏み切った。その5日後の19日には、イラン中部のイスファハンで、イスラエル側によるとみられる爆発が起きていた。
私のところに“公園”の撮影を許可するという連絡があったのは4月21日。一連の“応酬”からわずか2日後のことだった。

陳列された“イスラエル攻撃ミサイル” 記者「これ本物?」

その“公園”はテヘラン郊外にあった。
革命防衛隊の教育機関など、軍事関連施設が集まった一角に位置していた。

現れたのは、施設のトップで、ミサイル開発に長年かかわってきたという革命防衛隊の高官だった。
案内されたのは、巨大な体育館のような施設だった。
「これらの兵器を使ってイスラエルを攻撃した」
その言葉とともに、高官が私に見せたのは、つい10日ほど前、まさにイランがイスラエルへの攻撃で使ったとする兵器の数々だった。

現在の中東情勢に直結するものを見せられると思っていなかった私は、正直、驚いた。

そして、思わず「これ、本物ですか?」と聞いてしまった。高官はそれに怒るでもあきれるでもなく、落ち着いた口調で「弾薬や燃料は入っていないが、本物だ」と答えた。

その場に並んでいたのは、2015年に配備された射程1700キロとされる弾道ミサイルの「エマド」。
2022年に公開され、最新型では射程1800キロになるとされる弾道ミサイルの「ヘイバルシェカン」。
2023年に公開された射程1650キロの巡航ミサイル「パベ」。
そして、国際的にも名前が知られるようになった自爆型無人機「シャヘド136」。2000キロ以上の飛行が可能だとされている。この無人機、イランは否定しているが、ウクライナで軍事侵攻を続けるロシアに供与されていると欧米から指摘されている。「悪名」を世界にとどろかせているが、私はその実物を見たのは初めてだった。
その性能について、案内をしていた高官からは、次のように説明を受けた。
バラリ准将
「ルートは事前に設定され、GPSやINS=慣性航法装置※などを使い、そのルートを修正しながら標的に到達することができる。費用をかければ(レーダーに)捕捉されないステルス性能を持たせることもできるが、今のところわれわれは低コストで運用することを重視している」
※慣性航法装置:外部からの信号に頼らずに、速度や移動方向、位置などを算出する装置

攻撃に使わなかった“イラン最強”ミサイルも展示

「あえて使わなかった兵器もある」
ひととおりの兵器の説明を終えたあと、高官がそう言いながら私に見せたのが、射程2000キロの弾道ミサイル「ホラムシャハル」だ。

3.5トンの弾頭を備え、イランが持つ最も強力なミサイルの1つで、イスラエルを攻撃するためだけに開発されたという。
なぜ、それを使わなかったのか。高官は、軍事衝突のエスカレートを避けるため、今回は限定的な作戦にとどめたと主張。その一方で、イスラエルが再びイランへの攻撃を繰り返さないよう、けん制する言葉を続けた。
「今回の作戦で重要なのは、利用可能な兵器の中でも最新鋭のミサイルや極超音速ミサイルは使わず、低いレベルのミサイルだけで行ったことだ。より高度な力は温存しており、イスラエルが過ちを犯したときに使われるだろう。仮に全面戦争となれば、想像もできないまったく異なる光景を見ることになる」

兵器公開の狙いは? その後、CNNにも案内

イラン側はなぜ施設を公開したのか。

実は、私たちが取材を終えて6日後、アメリカのCNNテレビを見ていたら、この“公園”をリポーターが訪問している様子が放送されていた。同じ軍の高官が、同じ兵器を見せて説明していた。

イランの軍事力を誇示することが目的の1つであることは確かだ。イランによるイスラエルへの攻撃では、300以上の無人機やミサイルが発射されたとイスラエル側は発表しているが、死者は出ていない。
NHKの取材中、高官は「ネット空間では、イランの軍事的成果はすべて編集ソフトで加工されたものだと言われている」と不満を漏らしていた。みずからの軍事力はそんなものではないと言いたかったのだろう。

メディアを通じて実物の兵器を世界に見せつけることで、イスラエルに対して「イランはさらに激しい攻撃を加えることができる。挑発するな」というメッセージを送る狙いがあったのではないだろうか。

ミサイル開発の生き証人? 北朝鮮との協力も

そもそも、私たちへの説明にあたったこの高官は何者なのか。

彼の名前は、施設のトップのアリ・バラリ准将。取材を進めると、実はイランのミサイル開発の歴史を語る上で「生き証人」かのような経歴を持っていることがわかった。
話は40年以上前にさかのぼる。1980年から88年まで続いたイラン・イラク戦争で、イランはフセイン政権下のイラクによる激しい攻撃にさらされた。
当時、イラク側が使ったのが、旧ソビエト製のスカッドミサイルだった。
バラリ准将
「イラクのフセインが攻撃に使ったミサイルにイランは手を焼いた。
われわれもミサイル開発を強化する必要性を強く感じた」
そこで1984年、ミサイルに関する知識を一から学ぶため、革命防衛隊の中から選抜された13人の隊員が同盟関係にあるシリアに派遣された。その1人がバラリ准将で、以来、さまざまな形でミサイル開発に関わってきたという。

隊員たちがシリアから帰国すると、イランはスカッドミサイルを北アフリカのリビアから30発輸入。そのうち2発を研究に利用するとともに、北朝鮮の協力を得て技術開発を進めたと説明した。
「ミサイル産業の初期の段階では北朝鮮の協力を得たが、今はわれわれは、彼らを助けることができるほどの成熟したレベルに達した」
一方、無人機の開発についても説明があった。連れていかれたのは、イランが国内などで回収したアメリカ製やイスラエル製の無人機だとするものを展示しているスペース。
バラリ准将は無人機を前に、イランの兵器開発能力の高さを次のように誇示した。
「こうした無人機から知見を得て研究し、部品を1つ1つ作り、イランは今や無人機の分野では、地域ですぐれた地位を築いている」

「撃ちたいのか、撃ちたくないのか」 本音はどっち?

取材中、バラリ准将は、イスラエルをけん制する発言を繰り返したほか、イスラエルの後ろ盾であり、中東各地に部隊を駐留させるアメリカへも釘をさすことも忘れなかった。
バラリ准将
「我々が地下に隠しているミサイルは、どことは言えないが、この地域にあるアメリカ軍の基地に常に向けてある」
相変わらず強気の姿勢を見せているが、実際のところどうなのか。

取材の最後、気になっていたことを聞いてみた。
記者
「あなたは、ミサイル開発に関わってきた立場として、イスラエルにミサイルを命中させたいのか、それとも、そのミサイルを撃たないで済ませたいのか。どちらが好ましいのか」
バラリ准将
「われわれが一発のミサイルも撃たずに、抑止力によってイスラエルが過ちを犯すのを 防ぐことが理想だ。今回、その目的は達成され、われわれはもう撃つ必要はない」
世界は、イランとイスラエルが攻撃の応酬を続けたり、アメリカとの戦闘に拡大したりすることを懸念していた。しかし、イラン側は、中部イスファハンでの爆発が起きたあと、「被害はない」と強調し「反撃に値しない」という姿勢を見せた。これ以上の緊張の悪化を望まないという考えがあったのは確かだろう。

ただ、これはイランの「現在地」に過ぎず、その姿勢は情勢次第で変化しうる。予断は許さない。
(4月26日 おはよう日本、国際報道2024で放送)
テヘラン支局長
土屋 悠志
2005年入局 函館局 福岡局
カイロ支局 松江局などを経て現所属