高知にアニメ産業を 地元信金が異色の挑戦

高知にアニメ産業を 地元信金が異色の挑戦
「自由は土佐の山間より」

自由民権運動の発祥の地、土佐を象徴することばだ。

そんな自由な心意気を重んじる高知県にある信用金庫が、異色の取り組みを進めている。率いるのは、全国の信用金庫で初めてとなる女性の理事長。

地方の経済が縮小する中、産業そのものの創出を目指すという。その産業とはアニメだ。
(高知放送局記者 中川聖太)

アニメのイベント 仕掛けたのは地元信金

ことし4月下旬、高知市で行われていたのはアニメのイベント。

コスプレを披露したい人、アニメの制作体験を楽しむ子どもなどで会場は熱気に帯びていた。
「もう展示とか入った瞬間にめちゃめちゃ感動しました。高知で開いてもらえてすごい来やすかったです」
「アニメーターとか、絵を描く仕事というのもやってみたいなと思ってます」

高知をアニメの一大産業に

このイベントを仕掛けたのが、高知市に本店がある大正12年(1923年)創業の「高知信用金庫」だ。
『アンパンマン』で知られるやなせたかしさんや、『ぼくんち』など数多くの話題作を手がけてきた西原理恵子さんなど、著名な漫画家を数多く輩出してきた高知県をアニメの一大産業にしようと、山崎久留美理事長みずから企画した。
山崎理事長
「高知はアニメや漫画というのが大好きな県ですから、かなりの方が集まっていただけると思っています」
そのことば通り、2日間の日程で1万6000人以上のファンが集まり、盛況のうちにイベントは幕を閉じた。
イベントの実現には出版社の「集英社」や、おもちゃメーカーの「タカラトミー」なども協力。これだけの大手企業が地方に集まるのかと記者を驚かせた。

独自サービスを打ち出す信金

山崎理事長は、郷土が生んだ幕末の志士、坂本龍馬像がそびえ立つ高知市で生まれ育った。
地元の高校を卒業後、高知信用金庫に就職。窓口業務の職員からキャリアを重ね、2011年、全国の信用金庫で初の女性トップとなった。

山崎理事長は、顔と手だけで操作できる全国初のATMや独自のスマホ決済の仕組みを導入するなど、次々と新たなサービスを打ち出してきた。
融資だけでなく、有価証券の運用にも力を入れ、黒字を確保するなど経営も特徴的だ。

そして今、組織を挙げて取り組んでいるのがアニメ産業の創出だ。自分たちが旗振り役になって新たな産業を興さないと、地域の衰退が避けられないという危機感があったと言う。
山崎理事長
「一人ひとりの悩みを聞いて融資だけではない解決方法があると思っています。新しいプロジェクトを立案して物事を推進していく力を押し上げていくことが、これからの信用金庫の仕事だと考えています」

高知から新しい才能を発掘

今回のイベントでは、才能のある若手クリエーターの発掘を目指してコンペも開催。グランプリには賞金300万円を用意し、国内外から122の作品の応募があった。
グランプリ受賞者
「自分自身がこのアワードを通して高知という地域を知るようになったので、これからもいろんな地域でコンペが生まれてほしいと思ってます」

高知で起業する企業現る 好循環へ

こうした取り組みが実を結び、高知に進出する企業も現れている。

フィギュアなどを制作する会社。経営者の吉本大輝さんは1年前、高知県への進出を決めた。
4月からは従業員の雇用も始め、今後、事業をさらに拡大していく計画だ。

決め手になったのは、信用金庫が持つネットワークの魅力だと言う。
吉本さん
「僕みたいな小さい会社では会えなかったような、決裁権を持った出版社の方たちと直接つないでもらえて、それがまた新たな仕事につながっています。それをもとに高知で雇用を増やすという好循環が生まれています」
信金では、今回のプロジェクトを通じて若者が高知県に移り住むようになれば、人口減少の対策だけでなく、慢性的な人手不足に悩むアニメ産業の新たな受け皿になると確かな手応えを感じている。
山崎理事長
「高知県というものの地面がしっかりしてこそ、私たちが営業したり、皆さんに貢献できたりする素地になります。若い方が高知にとどまっていただけるようなところからしっかり地域をサポートしていくことが、信用金庫の新しい役割になると考えています」

地方経済の未来 「土佐の山間より」生まれるか?

総務省が発表した人口推計によると、高知県の人口は66万6000人(去年10月1日現在)と全国で3番目に少ない。周囲は海と山に囲まれ、大都市圏からも離れている。

そうした不利な状況のなか、地方に新たな産業を興そうという今回の取り組み。

近代日本の歴史に大きな役割を果たしたのと同じように、地方経済の未来が「土佐の山間より」生まれるのか。

独自のアイデアを繰り出す信用金庫の取り組みを、これからも取材していきたい。

(5月15日 おはよう日本「おはBiz」で放送)
高知放送局記者
中川聖太
2020年入局
名古屋局を経て現所属
現在、高知市政や経済分野の取材を担当