東証で決算発表ピーク 円安など背景に業績伸ばす企業目立つ

東京証券取引所では10日、上場企業の昨年度1年間の決算発表がピークを迎えました。円安や商品などの価格転嫁で、最終利益が前の年度よりも増加した企業が目立っています。

全体の66%が増益

きょう行われた各社の決算発表の様子

SMBC日興証券は、旧東証1部に上場していた3月期決算の企業などのうち、9日までに発表を終えた487社の決算を分析しました。

それによりますと、最終利益が前の年度より増えて増益となったのは323社と、全体の66%でした。

円安の進行で輸出関連の企業の利益が増えたことや、企業の間で原材料の上昇分を価格に転嫁する動きが広がったこと、コロナ禍からの経済の回復が進んだことが主な要因だということです。

業種別でみると、インバウンド需要を取り込んだ「空運業」、自動車などの「輸送用機器」、「建設業」などで増益が目立ちました。

また、最終利益の合計は27兆6757億円と、前の年度より14.8%増え、3年連続で過去最高を更新する見込みだとしています。

自動車メーカー各社 円安など背景に業績伸ばす

輸出される自動車

自動車メーカー各社の昨年度1年間のグループ全体の決算は、ホンダの営業利益が過去最高の1兆3800億円あまりとなるなど、好調な販売や円安などを背景に業績を伸ばしています。

ホンダが10日に発表した昨年度1年間のグループ全体の決算は、売り上げが前の年度から20.8%増えて20兆4288億円、営業利益は77%増えて1兆3819億円となり、いずれも過去最高となりました。

北米などで車の販売が好調だったことに加え、円安の影響で利益が押し上げられたことが主な要因です。

三部敏宏社長は、オンラインで開いた会見で、「二輪も四輪も体質的に大きく改善できたと考えている。EV事業を強力に進めていく基盤ができた」と述べました。

マツダの昨年度1年間のグループ全体の決算は、営業利益が前の年度から76.4%増えて2505億円と過去最高となりました。

そのほか、9日までに発表した各社のグループの決算の営業利益は、トヨタ自動車が5兆3529億円と日本の上場企業で初めて5兆円を超えたのをはじめ、日産自動車は前の年度から50.8%増えて5687億円となったほか、三菱自動車工業は過去最高の1909億円となるなど好調な販売や円安などを背景に業績を伸ばしています。

円安影響で利益減少の企業も

円安による海外からの調達コストの上昇で利益が減少するなど影響を受ける企業が出ています。

大手日用品メーカーの「エステー」は、暖冬の影響でカイロや防虫剤の売り上げが落ち込んだことに加えて、円安が進んだことなどで、昨年度の最終的な利益は12億円と、前の年度と比べて30%あまり減少しました。

円安によって、台湾や東南アジアの委託先から完成品として仕入れている主力の芳香剤やゴム手袋の調達コストや、海外産の樹脂を原料としているプラスチック容器や包装用資材の仕入れ値が上がっています。

海外からの調達コストは、前の年度と比べて15%から20%ほど上昇したといいます。

販売はほぼ国内向けですが、生産の15%程度は海外企業に委託しているほか、国内で生産する製品についても、調達先が海外から原材料を輸入するため、円安によるコスト増加の影響を受けやすいといいます。

ドルに対して1円、円安が進むと、年間の経常利益が1000万円あまり押し下げられるということです。

会社では、ことし1月に事業計画の前提とする為替レートを1ドル=140円と想定していました。

その後の円安進行を受けて、4月に148円に見直しましたが、その水準をさらに超えて円安が進んでいます。

会社では、仕入れ先の見直しなどでコストの削減を進める一方で、一部の商品をことし9月に5%程度値上げする予定です。

製造本部の徳井亜喜夫本部長は、「これ以上、円安が進むと、原価を維持していくことはかなり厳しい。コスト削減をいろいろな手法で進めているが、どうしても対応しきれないところは一部価格の改定、値上げを検討せざるをえない」と話しています。

専門家 “物価上昇に賃上げ追いつくかが焦点”

円安による企業業績や消費への影響、日本経済の今後の見通しについて、みずほ証券の小林俊介チーフエコノミストに聞きました。

Q.企業の好調な業績の要因は?

A.最高益をたたき出した企業の共通点は輸出企業、多国籍企業ということで、基本的に今回の好調な決算は円安と好調な世界経済に支えられたものだ。

昨年度はコロナの5類移行による経済再開が進んだことや外国人旅行者の増加などほかにも追い風があり、内需系企業も業績が回復して非常にすそ野の広い回復が見られた。

Q.恩恵を受ける輸出企業からは円安に懸念の声も出ているが?

A.円安は企業業績にとっては大きなプラスがある一方で家計にとっては厳しいという現実がある。
賃金が上がらないと家計はどんどん苦しくなってしまう。

Q.今の円安水準が続くとした場合、内需系の企業も含めて経営戦略に与える影響は?

A.内需企業の経営戦略は厳しくなってきていると思う。

輸入のコストが上昇し、このコストを販売価格に転嫁できればいいが、円安で家計の実質所得が毀損されるととても値上げを受け入れる余裕がなくなってしまう。

今のところはある程度価格転嫁はできていると思うが、いわゆるコロナ禍の強制貯蓄が残っていない状況になるとこれから先は十分に賃金が上がってくれないと価格転嫁がしにくい状況になる。

Q.個人消費に対して、今の円安水準はどの程度のインパクトがあるか?

A.ことしの春闘の賃上げは、労働組合に入っている正社員の非管理職の方が対象で、そのほかの日本で働いているおよそ5000万人は対象ではない。

こうした人たちの賃金の上昇率を踏まえると、今年度の全体の賃上げ率は、おそらく3%前後になってくるとみている。

仮に1ドル=155円、160円という円安水準が今後も続く、あるいはさらに円安が進むということになると、24年度の物価上昇率も3%前後になってくる。

実質所得の減少が続く中、今年度ようやくプラスに戻れるかが問われてきたが、それが実現せず、消費の落ち込みにつながるリスクがある。

Q.日本経済の今後のポイントは?

A.日本経済の強みは輸出企業を中心とした企業部門だが、引き続き海外事業や輸出で利益を維持できるかが1つのポイントだ。
為替の水準によるところもあるが、世界経済の拡大がどこまで続くかも関わってくる。

また、内需企業については日本の中で限られたサービスを提供していくだけでなく、従来と違うサービスを生み出す、あるいは日本で売れないのであればより高い値段で売れる海外で展開をしていくことが求められるようになるのではないか。

いまの日本経済は内需、家計の消費が明確に弱い。背景には当然、物価の上昇に賃金が追いつけていないことがあるが、これが反転していけるかが焦点だ。物価上昇が収まるか、来年にかけてことしの春闘以上の高い賃上げが実現できるかが重要なポイントになる。