認知症の高齢者 2040年に推計584万人余 どう支えるか課題

認知症の高齢者は団塊ジュニアの世代が65歳以上になる2040年には584万人あまりにのぼるという推計を厚生労働省の研究班がまとめました。これは高齢者のおよそ15%、6.7人に1人にあたり、専門家は「今後1人暮らしの認知症の人が増えるとみられ、家族の支援が限られる中、地域でどう支えるかが課題だ」としています。

認知症の高齢者 2040年に推計584万2000人

厚生労働省の研究班は全国から4つの自治体を抽出して医師などが65歳以上の高齢者について認知症の診断を行い、それぞれの自治体の有病率から将来の全国の認知症の人の数を推計しました。

それによりますと、認知症の高齢者は、来年2025年には471万6000人となり、団塊ジュニアの世代が65歳以上になる2040年には584万2000人にのぼると推計しています。2040年には高齢者のおよそ15%、6.7人に1人が認知症と推計されます。

1人暮らしの高齢者が認知症に 家族も不安

2年前に認知症と診断された、「要介護2」の86歳の女性は50年以上過ごしてきた都内の自宅で1人で暮らしています。

物忘れのほか、理解力や判断力の低下などの症状はあるものの、食事など日常生活は1人でできていると言います。

1人暮らしの女性(86)
「頭の中がカラになっちゃったと言えばおかしいけど、ふわーっとなって、また我に返って、おかしくなることがあります。体が動かなくなってしまったらしかたがないけど、よその家には行きたくないし、できるかぎりどこにも引っ越さず気に入ったこの場所に住み続けたいです」

女性には離れて暮らす50代の長女がいます。

週に2回、仕事が休みの日に母親の様子を見に実家を訪ねています。

訪ねられない日も朝昼晩の3回、職場への通勤途中や昼の休憩時間に母親に電話をかけ、ごはんを食べたかどうかや、薬を飲み忘れていないかなど確認するようにしています。

今はなんとか1人で生活できているため、母親が望む、自宅での生活をできるかぎり続けさせてあげたいと考えていますが、実家に通えない日は母親のことが頭から離れることはなく、心配だと言います。

また認知症は人によって症状や進行のスピードが異なるため、さきざきを予測することが難しく今後症状が進行した場合、仕事を続けられるのかなど毎日のように考えるものの結論が出せないと言います。

離れて暮らす長女(50代)
「母の状態があすどうなるか、次どうなるのかも分からず、経験も無いのでどうしたらよいのか今も悩んでいます。自分の生活や将来のこと、子どもの教育ローンも考えると介護のために仕事を辞めるわけにはいきません。いろいろと決めないといけないことが山積みですが、正直疲れてしまっていて決められない状態です」

認知症の高齢者支える地域のセンターでは”相談者増加”

東京 練馬区では区内を27の地域に分け、それぞれに設けられた地域包括支援センターが物忘れが出始めたといった高齢者などの相談を受け付け、必要があれば病院やケアマネージャーなど関係機関につなげています。

このうち、北町地域包括支援センターでは認知症に関する相談が年々増えていて、昨年度には少なくとも、およそ350件にのぼりました。

管轄する地域には7880人の高齢者がいますが、10人の職員で対応している状態だということです。

さらに見守りが必要な高齢者の自宅も訪ねています。

今月1日には、最近介護サービスの利用を始めたという認知症の疑いがある男性の自宅を訪ね、体調や薬を飲み忘れていないかなどを確認していました。

「8050問題」「ヤングケアラー」など問題複雑化も

センターによりますと寄せられる相談内容は、最近では認知症に関するものに加え、1人暮らしの不安や自宅にひきこもる50代の子どもを80代の親が支えるいわゆる「8050問題」それに子どもが家族の介護を担う「ヤングケアラー」の問題など複雑化していて、ひとつひとつの対応に時間がかかるようになっているということです。

センターでは現状でも人手がぎりぎりの状態だということで、今後、相談がさらに増えた場合、どこまで対応できるか不安を感じていると言います。

北町地域包括支援センター 杉浦康センター長
「この先、高齢者が増えどこまで対応できるのか限界が来るかもしれません。業務がかなり多岐にわたるので相談者が増えるのであればそれに対応して職員体制も増えてほしいと思います」

地域で手助け「認知症サポーター」養成する取り組みも

認知症の人の増加に対応するため国は認知症の人やその家族を地域で手助けする「認知症サポーター」を養成する取り組みを進めてきました。

「認知症サポーター」は、自治体などの講習を受けて認知症に関する知識を身につければ、誰でもなることができます。

東京 日野市の「認知症サポーターカード」

国は2005年から養成を始め、現在、全国に1534万人あまりと人口の1割以上いるということです。サポーターはできる範囲で周りの認知症の人やその家族を手助けすることが期待されていますが、現在、その多くは認知症の当事者たちが集まる会の支援など活動の場が限られているのが現状だということです。

中にはもっと認知症の人の力になりたいという人もいるということですが、どのように活動してよいか分からず、行動に移せていないという人もいるとみられ、サポーターを活用しきれていないという指摘もあります。

また、国はサポーターがチームを組み認知症の人やその家族の生活面の支援を早期の段階から行う「チームオレンジ」と呼ばれる施策を進めていて、来年、2025年までにすべての市町村でチームが活動を始めることを目標にしています。

しかし、実際にチームを立ち上げて活動している自治体は全国で339自治体と全体の2割にも満たないのが現状です。

専門家 ”市民の力を借りるスタイルが必要”

認知症をめぐる現状について、介護の問題に詳しい東洋大学の高野龍昭教授は次のように指摘しています。

高野教授
「老後に1人暮らしをする認知症の人は今後間違いなく増えますが、家族は離れて暮らすなどしているため支援を期待するわけにはいきません。一方、増えていく認知症の人を制度や施策、専門職の力だけで支えていくのも当然不可能で、今後は専門職ではない一般の人たちの力を借りざるを得ない状況です」

そして、認知症の人たちは社会とつながることによって一定程度、症状の進行スピードが抑制されるとしたうえで、次のように話しています。

「専門的な関わりだけが必要なわけではなく、地域の顔なじみの人たちが、声をかけたり一緒になんらかの活動をしたりするということが重要です。日常的な関わりや、何らかの見守りといったことについては、一般の方が十分に活躍できます。行政や専門的な団体が市民の力を借りられるような仕組みをまずは公的な力で作り、そこに市民の方、『認知症サポーター』の方などに参加してもらい、行政や専門職がその力を借りていくというスタイルでやっていくことが必要になってくる」

認知症の人を支える新たな取り組みも

さいたま市では今後も増え続ける認知症の人がこれまでどおり地域で安心して暮らせるよう、「認知症サポーター」や協力的な企業などを巻き込んで認知症の人を支える新たな取り組みを始めています。

さいたま市はこれまで養成してきた「認知症サポーター」などの地域の人たちがより効果的に活動できるよう「認知症フレンドリーまちづくりセンター」をことし7月にも開設する計画で、先月からさいたま市中央区の事務所で準備を始めています。

センターでは認知症の人たちが参加している地域の集まりなどをサポーターに紹介し、認知症の人とサポーターが一緒に過ごせる機会や場所を増やします。

そうした場で認知症の人の生きがいなどへの理解を深め、どのような支援ができるかを認知症の本人とサポーター、それにセンターの職員などで考えていくということです。将来的には例えば体を動かす体操がしたいとか、趣味の活動をしたいという認知症の人がいた場合には、サポーターがその実現を自発的に支援していくような仕組みを目指したいとしています。

さいたま市では、これまで介護保険サービスの充実などに重点を置いた施策を進めてきましたが、今後、増え続ける認知症の人を支えるためには地域の人や企業などを少しでも多く巻き込む必要があると考えたということです。

特に「認知症サポーター」の中には意欲がありもっと活動したいという人もいるということで、さいたま市いきいき長寿推進課の松尾真二係長は「介護人材の不足が叫ばれる中でどうしても介護サービスだけでは支えられない局面が将来訪れるかもしれず、対策が必要だと考えました。地域の力を借りながら、認知症の人とサポーターそれぞれの要望がうまくマッチングしていければよいと考えています」と話していました。

「軽度認知障害」の将来推計を初公表

厚生労働省の9年前の調査では、2040年に認知症の人が802万人にのぼると推計していましたが、今回の推計値がそれよりも低くなりました。

生活習慣病の改善や健康意識の変化などによって認知機能の低下が抑制された可能性があるとしています。

また、今回の調査では物忘れなどの症状はあるものの、生活に支障がなく、認知症と診断されるまでには至らない「軽度認知障害」の人の将来の推計を初めて公表し、2040年には612万8000人にのぼるとしています。

「軽度認知障害」の人は認知症に移行することが多い一方で、運動や栄養状態の改善によって症状の進行スピードを抑制できる可能性もあるということです。

厚生労働省の研究班が新たに公表した認知症の高齢者の数の推計値について、認知症の予防に詳しい神戸大学大学院保健学研究科の古和久朋教授に聞きました。

古和教授
「これまでの推計で示されていた認知症の人の数の増え方と比べると今回のデータは下回っているが、認知症の人と軽度認知障害の人を足した数はこれまでの想定と大きくは変わっていない。認知症が減ったというよりも軽度認知障害の方にシフトしていると理解するのが正しく、こうした推計は世界共通の傾向となっている。高血圧や糖尿病などは認知症のリスクを高めるといわれているが、これらの病気の治療が積極的に行われるようになったことなどで認知機能の維持や進行の抑制につながっている可能性がある」

軽度認知障害の人の将来の推計も初めて示されたことについて、こう指摘しています。

古和教授
「去年12月以来、アルツハイマー病による軽度認知障害の人には、症状の進行を遅らせる薬が国内で使えるようになったが、まだ医療に結びついていなかったり、自分が軽度認知障害だと思っていなかったりする高齢者が多くいる。いかに軽度認知障害の人を医療へ導くのか、地域ぐるみで健診のような形で早めに気付いてもらえるかが今後重要になっていく」