アメリカ住宅市場 23年ぶりの高金利で異例の事態

アメリカ住宅市場 23年ぶりの高金利で異例の事態
歴史的な円安ドル高と日本政府・日銀による市場介入の臆測が広がり、円相場は荒い値動きを繰り返しています。

要因の1つが、経済が堅調でインフレが続くアメリカで長期化する高い金利水準。約23年ぶりという異例の水準に達している高金利が、いま、アメリカの住宅市場に異変を引き起こしています。

住宅ローン金利は高止まりし、賃貸に住もうにも家賃が急騰。ホームレスの数も過去最多となっています。身近な住まいに起きている異例の事態とは。(ワシントン支局・小田島拓也記者)

有名レストランは満席

「去年の売り上げは過去最高だった。ことしも好調な状況が続くだろう」

こう話すのは、全米有数の観光地ボストンにあるシーフードレストランのオーナー。ケネディ元大統領など歴代の大統領や著名人が訪れる有名店で、コロナ禍が明けて以降は、ほぼ毎日満席となる状況が続いているといいます。
名物の生がきやロブスターを楽しむ来店客に話を聞くと、インフレが続く中でも、好調な企業業績が経済を支え、飲食や旅行などのサービス消費を活発にしていることがうかがえました。
来店客
「生活費の高騰は心配ではある。でも、私が投資している企業の株価はとても好調だ。資産はこの1年で大きく上昇したから、とても満足している」
アメリカのことし1月から3月までのGDP=国内総生産の伸び率は、年率換算の実質で前期比プラス1.6%と、減速したものの7期連続のプラス成長でした。特にサービス消費はプラス4%と伸びが加速し、成長率を下支えしました。

高金利でも根強いインフレ

この強い経済が、根強いインフレにつながっています。
物価の動向を示す消費者物価指数の前年比の上昇率は、2023年6月以降、3%台から下がらず、ことし3月は2か月連続で前の月を上回りました。サービス業を中心に企業が従業員の賃上げを続け、人件費の上昇分を価格に転嫁する動きが続いているからです。

中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が目指す2%の物価目標への到達が見通せない状態となっています。
FRBは5月1日、政策金利を5.25%から5.5%という高い水準に据え置くことを6会合連続で決めました。

インフレ抑制のため、約23年ぶりという異例の高金利政策を維持せざるを得なくなっているのです。

市場では、ことしはじめの時点で、インフレは低下傾向が鮮明となり、FRBはことし3月に金利の引き下げに踏み切り、年6回の利下げを決めると見込んでいました。しかし、その開始時期は大幅に遅れるとみられ、今では年内の利下げの市場予想は2回以下です。

市場関係者は「個人消費、特にサービス消費にかげりが見えるような状況にならないとインフレ収束は遠いままで、利下げに踏み込むことはできないだろう」と分析しています。

中古住宅市場に異変

歴史的な高金利は、じわじわと庶民の生活に影響を及ぼし始めています。特に中古住宅の市場に異変が起きているといいます。

背景にあるのが、住宅ローン金利の上昇です。30年固定の住宅ローンの金利はコロナ禍では2%台でしたが、ことし5月時点では7%台となっています(政府系住宅金融機関フレディマック調べ)。
高金利の住宅市場への影響
1. 住宅ローンの金利上昇
2. 住宅建設の資金コスト増
→住宅の供給制約・家賃の高騰
アメリカで取り引きされる住宅は、約70%から約80%が中古住宅だとされています。過去に多くの人々が低い住宅ローン金利で購入したため、この高金利のもとでローンを借り換えて、新たな住宅に移り住もうという人は少なく、供給が限られる状況となっています。

さらに、デベロッパー側にとっても、金利上昇によって住宅を建設する際の資金の借り入れコストの負担が増しています。

建築資材や人件費の上昇も続く中、住宅の建設は限られ、住まいの大幅な不足に陥っているのです。

そしてこれが、賃貸物件の需要を増やし、家賃の値上がりも招いています。家賃を含む住居費の上昇率は、去年よりは鈍化したものの、ことし3月は前年比で5.7%の上昇と高い水準です。

ホームレスは最多に

こうした状況が、ホームレスの増加という大きな問題も引き起こしています。
気候が温暖で、全米でも特に家賃の水準が高いフロリダ州は、平均的な家に住むためには時給換算で約30ドル(4500円余り)の収入が必要とされています。

このため、ホームレスの人々を支援する団体の住宅相談窓口は、訪れる人が後を絶ちません。
今回の取材で話を聞いた30代と20代の夫婦は、妻が新たな資格を得るためフロリダの学校に通うことを決め、別の州から移住してきました。

妻は大手ファストフード店で働き、夫は主に家事をしていましたが、家賃が高すぎて住める家が見つからず、車も故障。

橋の下でのテント生活を余儀なくされ、支援を求めに窓口を訪れたと打ち明けました。

「住居費の高騰は最悪です。生活費の上昇に賃金が全く見合っていないのです」
路上での生活などを余儀なくされているホームレスの数は、2023年に全米で65万人余りと前年より12%増え、集計を始めてから最も多くなりました。
長年ホームレスの支援に携わる地元の団体の代表者は、住居費の高騰はかつてないほど深刻で、多くの人々を苦しめていると訴えています。
支援団体代表 エリック・グレイさん
「多くの人が車やテントでの生活を強いられる状況は悪夢です。こうした人々を救うため、連邦政府、州政府などが連携して、より多くのシェルターや住宅を建設するべきです」

日本経済も左右 アメリカのインフレ

アメリカ経済の実態を取材していると、その力強さには驚かされるばかりです。「FRBの利上げが経済を減速させ、物価も低下していく」。こうした多くのエコノミストの予想をことごとく覆し、堅調な個人消費と低失業率が続いています。

しかし、その力強さゆえに、インフレも収まらず、高い金利水準が維持され、安定した住まいを求める低所得者層の人々を苦しめています。
FRBのパウエル議長は「食料や住居などの必需品のコストの上昇が大きな苦難をもたらすことを痛感している」と強調しています。

FRBの利上げに伴う高金利の水準が続くかぎり、日米の金利差から外国為替市場では円安ドル高になりやすい状況が続きます。

アメリカのインフレの動向は、今後の日本経済の動向を大きく左右することになりそうです。

(4月24日「おはよう日本」放送)
ワシントン支局記者
小田島 拓也
2003年入局
甲府局、経済部、富山局などを経て現所属