イスラエル ラファで地上部隊が限定的な作戦開始 交渉に懸念も

イスラエルとイスラム組織ハマスとの間の戦闘休止と人質解放に向けた交渉をめぐり、ハマスは仲介国の提案を受け入れると発表しました。これに対しイスラエルはエジプトに交渉団を派遣するとする一方、ガザ地区南部のラファの一部地域で地上部隊が限定的な作戦を始めたと発表し、交渉への影響が懸念されます。

イスラエルとハマスの間の戦闘休止と人質解放に向けた交渉について、ハマスは6日、仲介国のカタールとエジプトに対し「停戦合意についての提案を受け入れると伝えた」と発表しました。

提案の内容について中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、3つの段階に分かれ、それぞれ42日間の戦闘の休止が盛り込まれていると伝えていて、第1段階では、ハマス側が子どもや女性などの人質33人を解放し、イスラエル側が収監しているパレスチナ人を釈放するなどとしています。

イスラエルはハマス側が受け入れるとした案はイスラエルの中核的な要求を満たすには程遠いとしながらも、交渉団を派遣すると発表しました。

一方で、南部ラファでの作戦は継続するとしていて、イスラエル軍は空爆に加え地上部隊がラファ東部の限られた地域でハマスの壊滅に向けて限定的な作戦を始めたと7日、発表しました。

また、エジプトとの境界にあるラファ検問所のガザ地区側を掌握したとしています。

地元のメディアはイスラエル軍によって検問所が閉鎖され、支援物資の搬入ができなくなっていると伝えています。

また、ラファでは7日にかけて、イスラエル軍が住民に退避を通告した東側に加えて西側でも激しい空爆があり、住民20人が死亡したとも伝えています。

戦闘の開始から7日で7か月となりましたが、ガザ地区の保健当局はこれまでに3万4789人が死亡したと発表していて、住民の犠牲が増え続けています。

ハマスはラファでの作戦は交渉を危機的な状況にさらすなどとしていて、戦闘の休止と人質の解放に向けた交渉への影響が懸念されます。

ハマス側が受け入れた提案の内容

イスラエルとハマスの間の戦闘休止と人質解放に向けた交渉でハマス側が受け入れた提案の内容について、中東の衛星テレビ局アルジャジーラは、3つの段階に分かれ、それぞれ42日間の戦闘の休止が盛り込まれていると伝えています。

それによりますと、第1段階では双方ともに軍事行動を一時的に停止し、イスラエル軍はガザ地区の人口密集地などから段階的に部隊を撤退させるとしています。

また、ガザ地区での軍事・偵察を含めたすべての航空活動を1日10時間、人質の解放日には12時間停止するとしています。

人質の解放については、ハマス側は第1段階で子どもや女性、それに病人や50歳以上の人質合わせて33人を解放するとしています。

合意から3日目にまずは3人を解放し、その後は1週間ごとに3人ずつ、そして6週目に残りの人質を解放するとしています。

これに対してイスラエル側は、ハマス側が人質1人を解放するごとに収監しているパレスチナ人30人を釈放するなどとしています。

また、1日にトラック600台分の人道支援物資の搬入を行うほか、電気や水道、通信などのインフラの復旧などを行うとしています。

第2段階では軍事行動の恒久的な停止が宣言され、イスラエル側に収監されているパレスチナ人の釈放と引き換えに、兵士を含むイスラエル人男性の引き渡しを行うとしています。

そしてイスラエル軍はガザ地区から完全に撤退するとしています。

第3段階では、双方の遺体の返還を進めるとしているほか、エジプトとカタール、そして国連機関などの管理のもと住宅やインフラの再建を含む3年から5年にわたる復興計画が開始されるとしています。

そしてイスラエルによるガザ地区の包囲を完全に終わらせるとしています。

専門家「停戦の実現は懐疑的」

イスラエルとイスラム組織ハマスの間の戦闘休止と人質解放に向けた交渉をめぐって、ハマスが仲介国の提案を受け入れると発表したことについて、イスラエル・パレスチナ情勢に詳しい東京大学中東地域研究センターの鈴木啓之特任准教授は「現在、ハマスが持つ、イスラエルに対する最大の交渉の材料が人質の存在だ。ハマスとしては、みずからが持つ交渉の材料を最大限に利用した形で、イスラエルを交渉に誘い出そうとしている」と分析しました。

この提案をイスラエル側が受け入れるかどうかについてはガザ地区からイスラエル軍が完全に撤退するという条件に反発を示す可能性を指摘したうえで「イスラエルとしては、ガザ地区の治安情勢に関してみずから管理できる体制を維持したいという意思が非常に強くあり、完全撤退には容易に合意できないと思う。今回の提案で停戦が実現するかどうかはかなり懐疑的にみている」と述べました。

また、イスラエルが交渉団を派遣するとした一方で、ガザ地区南部のラファの一部地域で限定的な地上作戦を始めた点について「イスラエルの国内政治的にラファへの侵攻と制圧がガザ地区全体での軍事行動の総仕上げと捉えられ、大きな目標になってしまっている。ネタニヤフ首相としては、国内世論へのアピールと政権内の強硬派の閣僚への意識から限定的な形であったとしてもラファへの侵攻に踏み込まざるをえない立場にある」と指摘しました。

そのうえで「イスラエルがこれほど大胆に大規模な軍事作戦をガザ地区で展開できる背景には同盟国であるアメリカの絶対的な支持があり、そこに対して自信を持っているからだと言える。そのアメリカが大きく働きかければ、イスラエルとしても配慮せざるをえない、場合によっては従わざるをえなくなる」として今後、合意の実現に向けてアメリカの対応が鍵を握るという見方を示しました。

さらに、今回の交渉でイスラエルとハマスの間で意見が食い違っているガザ地区の将来的な統治の在り方についても国際社会からの働きかけが重要になるとしたうえで「国際社会による関与は、スピード感を持って、かつ実行力がある形で行われる必要がある。イスラエルでは、来週、独立記念日があり、これを目指して、勝利を象徴するような戦果を求める可能性は十分にある。今、国際社会がイスラエルとハマスの合意形成に向けて働きかけをしていく、正念場を迎えつつある」と指摘しました。