プーチン大統領 通算5期目の就任式 “共に勝利しよう”

ロシアのプーチン大統領の通算5期目となる就任式がモスクワのクレムリンで行われました。
プーチン大統領は演説で、「国民の利益と安全が何よりも優先される」と述べ、ウクライナ侵攻を受けて欧米側との激しい対立が続く中で、国家の安全と安定を最優先の課題として取り組むと強調しました。

任期は2030年まで6年間

就任式は、日本時間の7日午後6時すぎから、モスクワにあるクレムリンで行われ、プーチン大統領は、憲法に手を置いて宣誓を行いました。

プーチン氏は71歳。2000年にロシアの大統領に就任し、首相時代も含めて20年以上にわたり、ロシアで実権を握り続け、新たに2030年まで6年の任期が始まったことになります。

プーチン大統領は就任式の演説で、ウクライナへの軍事侵攻に参加する兵士たちに謝意を示した上で、「ロシア国民の利益と安全が何よりも優先される」と述べ、欧米側との激しい対立が続く中で、国家の安全と安定を最優先の課題として取り組むと強調しました。

また、安全保障や戦略的安定の問題を含めて、西側諸国との対話は可能だとしたものの、「ロシアの発展を抑制し、侵略政策を続け、圧力をかけ続けるのか、それとも協力と平和の道を模索するのか。対話は、あくまで対等の立場で互いの利益を尊重した上でのことだ」と述べ欧米側をけん制しました。

そのうえで、「われわれは結束した偉大な国民だ。あらゆる国難を乗り越えて、計画したことをすべて実現する。共に勝利しよう」と述べ、国民に結束を呼びかけました。

国営テレビは、就任式のもようだけでなく、プーチン大統領がクレムリンの執務室を出て専用車に乗って会場に向かう様子なども生中継で大々的に伝え、国民に向けてみずからの権力を誇示するねらいもあるとみられます。

モスクワ市民は賛否の声

ロシアのプーチン大統領が7日から通算で5期目の任期が始まることについて、首都モスクワの市民からはさまざまな声が聞かれました。

このうち年金暮らしの女性は「とてもよいことだ。プーチン大統領だけがロシアの発展を最高のレベルにまで引き上げてくれる」と話し、期待を示していました。

そのうえで、ウクライナへの軍事侵攻について「プーチン大統領が任期中にすべてを終わらせてくれるだろう。われわれは勝利し、ロシアが国際社会を率いていくだろう」と話していました。

また、別の女性も「プーチン大統領が新たな任期を迎えることを喜んでいる。プーチン大統領が始めたことは計画通りにすべてやり遂げてほしい。この戦争は勝利するまで続ける必要がある」と述べるなど、ウクライナ侵攻においてロシアが勝利することに期待する声が多く聞かれました。

一方で、30歳の女性は、プーチン氏を支持するかどうかについて明言を避けたうえで「モスクワではいま、自分の立場を表明することすら難しくなっている。どこの国でも健全な政治状況であれば、指導者は交代する必要があると私は思う。戦争が終わることを待ち望んでいる」と悲観的な様子で話していました。

また、若い男性は「プーチン大統領の任期が続くことは誰もがわかっていることだ。それについては考えない方がいい。私は近い将来、ロシアを去ることを考えている。ロシア社会の雰囲気が好きではないからだ」と話していました。

ウクライナ市民からは憤りの声

ロシアのプーチン大統領が7日から通算で5期目の任期が始まることについて、ロシアが軍事侵攻を続けるウクライナの首都キーウの市民からは、憤りの声が聞かれました。

このうち28歳の女性は「戦争で悲惨なことがこれだけ長く続いているのに、なぜこのような人物が大統領と名乗れるのか。大統領に就任してほしくない」と話していました。

40歳の弁護士の女性は「私たちにとって彼は大統領でないというだけでなく人として認められない。すべての民主国家はこのような人を大統領と認めるべきではない」と話していました。

また60歳の男性は「ロシアではずっと前からちゃんとした選挙は行われていない。このような人が国のリーダーだと、ロシアにいい未来はない」と話していました。

林官房長官 “国益の観点から適切に対処”

林官房長官は7日午後の記者会見で、「ロシアによるウクライナ侵略は国際秩序の根幹を揺るがす暴挙で、引き続きウクライナの公正かつ永続的な平和を実現するための取り組みを強力に進めていく。日ロが隣国として対処する必要がある事項については、何がわが国の国益に資するかという観点から適切に対処していく」と述べました。

また、北方領土問題については「領土問題を解決して平和条約を締結するとの方針を堅持する。こうした方針のもと、引き続きロシア側と必要なやり取りを行っていく」と述べました。

一方、就任式への対応を問われ、「在ロシア日本大使館に対し直前に招待があったが、日本政府からは出席しない予定だ」と明らかにしました。

ロシア 外交評論家 新任期の外交「歴史的な任務」

ロシアの著名な外交評論家フョードル・ルキヤノフ氏は、NHKのインタビューに対し、プーチン大統領にとっての主要な外交課題は、ロシアの安全が保障される形でヨーロッパに新たな戦後秩序を構築することだとしたうえでこれを「歴史的な任務」と位置づけて今後6年の新たな任期で取り組むという見通しを示しました。

この中でルキヤノフ氏は、ウクライナ侵攻について「ロシアは西側諸国がウクライナをどれだけ支援しようとも自分たちの財政的な資源の方が勝っていると考えている」と述べ、プーチン政権は、戦時経済体制のもとで侵攻を継続するという見通しを示しました。

ただ「ウクライナから領土を奪うために戦っているという考え方は間違っている」と指摘しました。

ルキヤノフ氏は「プーチン政権にとっての主要な課題はヨーロッパや世界において軍事的な均衡システムをいかに構築するかということだ。目標は、ヨーロッパの安全保障をどのように形づくるかを議論するプロセスを確保することだ」と述べ、プーチン大統領にとってウクライナをNATO=北大西洋条約機構に加盟させないなど、ロシアの安全が保障される形でヨーロッパに新たな戦後秩序を構築することが主要な外交課題だとしています。

そして「プーチン大統領はこの問題を解決したうえで次の世代に政権を引き継ぐことをみずからの歴史的な任務とみなしていると思う」と述べました。

また、アメリカとの対立が深まっていることについてルキヤノフ氏は「世界最大の核兵器保有国が敵対していることを考えると核戦争の脅威は常に存在する。現状は過去数十年よりも危険だ」と懸念を示しました。

そして「トランプ氏が当選すればアメリカの姿勢が変わると考える人もいるがそうは思わない。トランプ政権を思い返せばロシアにとってはよい結果はなくむしろ悪い時もあった。ロシアとアメリカの関係は少なくとも今後数年は瀬戸際の激しい対立が続くことは間違いない」と分析しました。

中国については「ロシアが孤立する中でその損失を補う必要がありパートナーとして最も強力で有能であることは明らかだ」と述べる一方、ロシアに対する軍事支援については中国は距離を置く姿勢を示していて、ロシア側も中国の支援には期待していないという見方を示しました。

北朝鮮との関係については「新たな段階に入ったことは明らかだ。北朝鮮に対する新たな制裁にはロシアは断固反対するだろう」と述べました。

また、ことしロシアがBRICSの議長国をつとめることについて「ロシアの外交の見通しが狭まる中で非常によい機会だ。また、グローバル・サウスと呼ばれる国々についてわれわれは『グローバル・マジョリティー』ということばを使い始めている。ロシアに敵対的な立場をとらない国々だ。あらゆる可能な手段を使って関係を築くだろう」と述べ欧米側に対抗するうえで新興国や途上国との関係強化が重要性を増すと指摘しました。

一方、ロシアが勢力圏と見なしてきた旧ソビエト諸国との関係についてルキヤノフ氏は「深刻な転換の時が来ている。中でもアルメニアは全く異なる地政学的な共同体に方向転換しようとしている」と指摘し、プーチン政権はロシア離れが目立ち始めた国々への新たな対応に迫られるとしています。

ルキヤノフ氏は、プーチン政権に外交や安全保障政策を助言してきたほか、ロシアで設立された、国際政治の専門家などが集まる「バルダイ会議」で司会を務め、プーチン大統領に質問するなど、ロシアを代表する外交評論家として知られています。