中国 月裏側の無人探査機 あす打ち上げへ 岩石など採取目指す

中国は、月の裏側の岩石などを採取して地球に持ち帰ることを目指す無人の月面探査機を、3日、打ち上げることにしています。これを前に、宇宙当局の担当者は「中国だけでなく全人類に科学的な価値をもたらしたい」と意義を強調しました。

中国は、無人の月面探査機「嫦娥(じょうが)6号」を3日、中国南部 海南島の発射場から打ち上げる予定で、地球からは見えない月の裏側に回り込んで岩石などのサンプルを採取して地球に持ち帰る「サンプルリターン」を目指しています。

発射場では2日、宇宙政策を担当する国家宇宙局の担当者が取材に応じ「月のさまざまな場所のサンプルを採取することで、人類が月の成り立ちなどについて理解を深めることは非常に重要な価値や意義がある。中国だけでなく全人類に科学的な価値をもたらしたい」と述べ、意義を強調しました。

月の裏側は地球からの電波が届かず、直接、通信ができないため、月の裏側からの「サンプルリターン」は難易度が高いとされていて、成功すれば世界で初めてとなります。

中国としては、今回の試みを達成することで、長年、アメリカが先行し続けてきた宇宙開発の分野で存在感を高め、今後の月探査や開発をリードしていくねらいもあるとみられます。

月探査計画は宇宙開発の重要な柱

月の探査計画は、中国が加速させている宇宙開発の重要な柱の1つです。

中国は、2000年代に入って以降、月の探査計画を着々と実行に移してきました。

2007年と2010年にそれぞれ探査衛星を打ち上げ、月の立体画像を撮影したのに続き2013年には無人の探査車両を月に送り、月面を調査しました。

2019年には、月の裏側に探査機を着陸させることに世界で初めて成功し、翌年の2020年には、月の岩石などのサンプルを採取して地球に持ち帰る「サンプルリターン」を、アメリカと旧ソビエトに続いて成功させました。

そして、今回打ち上げる「嫦娥6号」で、世界初となる月の裏側からの「サンプルリターン」を目指すとしています。

将来的には、2030年までに中国人宇宙飛行士による有人での月面着陸を目指すほか、2035年までに月面に科学実験や資源開発を行う研究ステーションを整備するとしています。

中国 月探査計画以外にも開発加速

中国は、2030年までに世界の宇宙開発をリードする「宇宙強国」を目指すという目標を掲げ、月の探査計画以外にもさまざまな分野で開発を加速させています。

【宇宙ステーション】

2022年には、アメリカや日本などが計画に参加するISS=国際宇宙ステーションとは別に、中国独自の宇宙ステーション「天宮」を完成させました。
宇宙空間における拠点として中国人宇宙飛行士を常駐させていて、先月下旬にも、宇宙船「神舟18号」を打ち上げ交代する宇宙飛行士3人を送り込んでいます。

【火星の探査】

さらに火星の探査も推し進めていて、2021年には探査機「天問1号」を火星に到達させ、アメリカに次いで2か国目となる火星表面の探査に成功しました。
観測した画像データをもとに火星の地形図を公開した際には、クレーターなどに中国の地名に由来する名前をつけたと明らかにしてアピールしています。

【中国版GPS】

このほか4年前の2020年には「中国版GPS」とも呼ばれる位置情報システム「北斗」の全世界での運用が始まっています。
中国政府は「宇宙空間の利用は平和目的だ」と強調しながら開発を加速させていますが、計画には軍が深く関わっているとされ、国際社会からは宇宙空間の軍事利用に懸念の声が出ています。

「嫦娥6号」とは

今回、中国が打ち上げる無人の月面探査機「嫦娥6号」は地球からは見えない月の裏側に回り込んで、岩石などのサンプルを採取し地球に持ち帰る「サンプルリターン」を目指しています。

月の裏側からの「サンプルリターン」が成功すれば世界で初めてとなります。

月は、常に同じ面を地球に向けているため、地球から月の裏側を見ることはできず、電波も届かないため、直接、通信もできません。

中国は、月の裏側と地球の間で通信を行えるようにするため、ことし3月に打ち上げた中継衛星を用いて「嫦娥6号」との間で通信を行うことにしていますが、こうした通信上の問題もあって、月の裏側からの「サンプルリターン」は難易度が高いとされています。

中国としては、世界初の試みを達成することで、長年、アメリカが先行し続けてきた宇宙開発の分野で存在感を高めるねらいがあるとみられます。

また、月の南極周辺には、飲み水や燃料としての利用が期待される水が、氷の状態で存在する可能性が指摘されていて、今回得られたデータをもとに今後の月探査や開発をリードしていくねらいもあるとみられます。

「アルテミス計画」

「アルテミス計画」はアメリカが主導する国際月探査プロジェクトです。

1960年代から70年代、人類を月面に送り込んだ「アポロ計画」以来、およそ半世紀ぶりに月に宇宙飛行士を送り込むことを目指しています。

計画の名前の由来となっている「アルテミス」はギリシャ神話の月の女神で、「アポロ計画」の由来となった「アポロ」とは双子のきょうだいです。

現在の計画では、2026年9月に宇宙飛行士が月面に降り立つミッションを実施することを目標としています。

これに先立って、2025年9月に宇宙飛行士を乗せた宇宙船が月の周りを周回する試験飛行を行うことを目指しています。

さらには2026年以降も継続的に宇宙飛行士による月の探査が行われる予定で、月面での長期滞在や将来、火星の有人探査も見据えています。

NASA=アメリカ航空宇宙局はこのプロジェクトで使用する宇宙船「オリオン」や大型ロケットの開発を進めていて2022年には無人の宇宙船を大型ロケットで打ち上げ、月を周回して地球に帰還させる試験飛行を行いました。

また、宇宙飛行士が月面に降り立つ際に活用する、月を周回する新たな宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建設も予定されています。

アルテミス計画は国際協力のもと進められていて、日本やヨーロッパなども参加し、ゲートウェイの建設やプロジェクトに必要な機材の開発に協力することになっています。

日本は先月、アメリカ側と月面探査に関する取り決めに署名し、この中でNASAが日本人宇宙飛行士に2回にわたり月面に着陸する機会を提供し、探査活動を行う一方で、日本側はJAXA=宇宙航空研究開発機構がトヨタ自動車などとともに開発を進めている有人月面探査車の開発や運用にかかる費用などを負担して、月面探査に協力することなどが盛り込まれました。

また民間企業では、アメリカの宇宙開発企業「スペースX」が月面着陸に使用することを想定した大型宇宙船「スターシップ」やこれを打ち上げるための大型ロケットの開発を進めています。

アメリカ 月などでの経済活動目指す

アメリカは、月やその周辺を舞台に新しい技術開発でビジネスを展開しようという民間企業を国として後押しすることで「ルナ・エコノミー」と呼ぶ、月やその周辺での、新たな経済活動の場を生み出そうとしています。

月着陸船では、NASA=アメリカ航空宇宙局が「CLPS」と名付けたプロジェクトで、月面に物資を輸送する手段の開発を民間に委託しようと現在、10社余りを選び、2028年までに最大26億ドルの資金提供を行う計画です。

ことし2月、民間企業として初めて月面着陸に成功した「インテュイティブ・マシンズ」やことし1月、月着陸船を打ち上げたもののシステムの異常から着陸を断念した「アストロボティック・テクノロジー」もこのプロジェクトの支援を受けてきました。

プロジェクトを担当するNASAのジョエル・カーンズ博士は「プロジェクトの目的の1つは、将来、月面着陸をサービスとして国内外に定期的に提供できる企業の集団を構築することだ。初めからすべてがうまくできるとは考えておらず、失敗するリスクも受け入れている」と話していました。

また、アメリカ国防総省の研究機関、DARPA=国防高等研究計画局も、「LunAー10」と名付けたプロジェクトで民間企業14社を選び、月面でのインフラの構築に関する研究プロジェクトを進めています。

選ばれた企業が進める研究テーマは電力や通信、資源、輸送、それに建設など、さまざまな分野におよび、DARPAは「月面や月の周辺で活動しようとする利用者に提供される、収益化が可能なサービスを通じて地球から離れた場所に経済的な活気を生み出すことが目的だ」としています。

輸送手段の開発を委託された米企業は

NASA=アメリカ航空宇宙局が進める、月面に物資を輸送する手段を開発するプロジェクトで開発を委託された企業の1つ、テキサス州の宇宙開発企業「ファイアフライ」は、月着陸船「ブルーゴースト」を開発しています。

この着陸船は高さが2メートル、直径が3.5メートルで、ことし中に1機、2026年にもう1機の打ち上げを目指しています。

このうち、ことし打ち上げる予定の着陸船ではNASAなどが開発した実験機器10台を月に運ぶ予定で、月の表面の砂の調査や、地球の人工衛星を使って月やその周辺で正確な位置を特定する技術の検証など、今後の月面での活動を想定した実験が行われる予定です。

また、2026年には月の裏側への着陸を目指していて、こうした場所にも民間企業が到達し、物資を運搬する能力があることを実証しようとしています。

NASAはこの企業の開発のため、およそ2億3000万ドルを支援しています。

この企業のビル・ウェバーCEOは「NASAのプロジェクトがなければ、われわれも、他の企業も『月に行く』とは言えなかっただろうし、言ったとしてももっとコストがかかっただろう。NASAのプロジェクトは、すべての業界が月着陸船開発に携わる必要があるという考えにエネルギーを与えてくれた」と話していました。

また、アメリカ国防総省の研究機関、DARPA=国防高等研究計画局が進める、月面でのインフラの構築に関する研究プロジェクトで選ばれた企業の1つ、テキサス州のベンチャー企業「ICON」は巨大な3Dプリンターを使って、建物を作る技術を開発しています。

2023年、NASAが始めた火星を想定した環境でおよそ1年間、生活する実験でも、この技術で作られた建物が使用されています。

月舞台の開発競争 ここ数年で激化

月を舞台にした各国や企業の開発競争はここ数年、激しさを増しています。

2023年、インドは、無人の月面探査機「チャンドラヤーン3号」の月への着陸に成功し、月面への無人探査機の着陸に成功した国としては、旧ソビエト、アメリカ、それに中国に次いで世界で4か国目となりました。

また日本もことし1月、無人探査機「SLIM」の月面着陸に成功し、インドに次いで5か国目となりました。

一方で、ロシアは去年、無人の月面探査機「ルナ25号」で、旧ソビエト以来およそ半世紀ぶりとなる月面着陸を目指しましたが、通信が途絶え、成功していません。

民間企業ではことし2月、アメリカの宇宙開発企業「インテュイティブ・マシンズ」が無人の月着陸船の月面着陸に成功し、民間企業としては世界で初めてとなりました。

月面着陸をめぐっては、日本の企業やアメリカの別の企業も着陸船の開発を進めていて、国や企業による競争が今後も続く見込みです。

月の資源 国際的なルールは

月をめぐる各国の競争が激しくなる一方、月の資源に関する国際的なルールは、事実上、確立していません。

宇宙の利用に関する初めてのルールとして、1967年に発効した「宇宙条約」は日本やアメリカ、中国、ロシアなど主要な国を含め、締約国は110か国以上に上ります。

宇宙条約では、すべての国が自由に宇宙空間を探査できることを認め、特定の国が月などの天体や宇宙空間を自国の領土とすることを明確に禁じています。

一方、宇宙における資源開発についての明確な規定はありません。

こうした中、宇宙空間で企業が採取した資源の扱いに関して、国内の法律で定めようという動きが相次いでいます。

アメリカは2015年、民間企業が宇宙空間で採取した資源をその企業の所有物として認める法律を定め、その後、ルクセンブルクやUAE=アラブ首長国連邦も同じ趣旨の法律を作っています。

日本でも2021年「宇宙資源法」が成立し、一定の条件のもと、企業が採取した資源がその企業の所有物となることを認めています。

また国連の委員会の中では新たな国際ルールを定めようという議論が始まっています。

月をめぐる国際ルールの現状について、宇宙空間の法制度に詳しい、ミシシッピ大学のミシェル・ハンロン教授は「1960年代に交渉が行われた宇宙条約は、本質的には軍縮条約であり、宇宙に核兵器や大量破壊兵器を持ち込むことはできないという規定はあるが、資源の利用については何も書かれていない。現状では『早いもの勝ち』の状況になっている」と指摘しています。

その上で「1960年代の人たちは宇宙空間の平和について考えた。今は、宇宙空間の資源利用について、どうすればすべての人類の利益になるのか考えることがわれわれの仕事だ」と話していました。