保育所で子ども見守りなどにAI活用の動き

保育所での子どもの見守りや自治体の子育て支援の現場にAIを活用する動きが広がり、業務の効率化や経験による対応の差を埋めることなどが期待されています。専門家は「AIをバックアップの道具として活用し、子どもや親子に人が手厚く関われる体制を作ることが期待される」と話しています。

東京 港区の保育所では昼寝時間の子どもの見守りにAIを活用し、保育士とAIのダブルチェックによって、子どもの安全を守る取り組みを進めています。

0歳から2歳の合わせて12人の子どもを受け入れているこの保育所では、去年、昼寝の時間に寝ている子どもたちの体の向きを自動で解析して、うつ伏せの状態が続くと危険を知らせるAIを導入しました。

開発した会社によりますと、このAIは1億枚を超える乳幼児の画像を学習していて、部屋の天井に設置したカメラで撮影した画像から、子どもたちの体の向きを解析します。

そして、窒息事故などを防ぐため、うつ伏せの状態が続いた場合は保育士のタブレット端末に危険を知らせる仕組みです。

この保育所では、従来から行っている保育士による5分おきの目視による確認と組み合わせることで、子どもを見守る体制を強化しました。

さらに、これまでは子ども一人ひとりの状態を保育士が手書きで記録していましたが、AIが自動でデータを記録するため、事務作業の効率化にもつながっているといいます。

にじのそら保育園芝浦の保育士の岩田深優姫さんは「保育士が目視で5分ごとに確認はしているが、その短い間に何か変化が起こる可能性もあり、ダブルチェックができることで安心できる部分が増えた。また、事務作業が軽減されたことで、子どもと関わったり職員どうしで話し合ったりする時間が増え、保育の質の向上にもつながっている」と話していました。

さらに、子どもや家庭に関するデータをAIに学習させ、自治体の子育て支援にいかそうとする取り組みも始まっています。

千葉県印西市は、支援が必要な子どもや家庭をいち早く把握して虐待の防止などにつなげるこども家庭庁の実証事業に参加し、これまで複数の担当課がそれぞれ保管していた子育て世帯に関するデータを統合し、AIで子育てへの不安や悩みを抱えやすい家庭を分析するシステムを、昨年度導入しました。

AIに妊娠を届け出た際の面談記録や乳幼児健診の記録、それに親の健康状況や経済状況など、これまで子ども家庭課や健康増進課、それに市民課など合わせて5つの課がそれぞれ保管していた50の項目を読み込ませて分析します。

これまでも、保健師が産後うつや孤立などによって子育てへの不安や悩みを抱えやすい家庭を抽出してきましたが、より多くの視点からこうした家庭を把握するために、AIによる統合データの分析を活用したいとしています。

こうして抽出された家庭については保健師が実際に状況を確認し、必要と判断した場合は訪問や電話などを通じて声かけを行い、虐待などの問題が起きる前に支援につなげたい考えです。

さらに、AIの活用で職員の経験によって支援に差を生じさせず、対応を平準化することも期待できるとしています。

印西市子ども家庭課の坂本郁子課長は「経験値の差として支援の現場で出てしまっていたので、AIの力を入れて言語化していきたい。AIはあくまで補助的なもので、一番大切なのは人による絞り込みで今までと同じように支援を実施していきたい」と話していました。

保育や子育て支援に詳しい玉川大学の大豆生田啓友教授は、「AIやデジタルがバックアップする道具として関わることで実際に子どもや親子に対して人が手厚く関われる体制を作っていくことが期待されている。一方でAIだけに頼りすぎることで人が関わることが手薄になるとしたら、それはむしろマイナスになってしまう」と話していました。

総務省と経産省のガイドラインは

AIの活用をめぐっては、総務省と経済産業省が先月ガイドラインを公表し、AIにより目指す社会としての基本理念の一つとして「人間がAIに過度に依存するのではなく、人間がAIを道具として使いこなすことによって人間のさまざまな能力をさらに発揮することを可能とする」などとしています。

また、公平性を保つための取り組みとして「AIの出力結果が公平性を欠くことがないよう、AIに単独で判断させるだけでなく、適切なタイミングで人間の判断を介入させる利用を検討する」としています。

さらに、AIの利用者は「人間の判断を介在させることにより、人間の尊厳や自律を守りながら予期せぬ事故を防ぐことも可能となる」としています。