「人生に映画を」経営難で閉館も…ミニシアターのこれからは

「人生に映画を」経営難で閉館も…ミニシアターのこれからは
皆さんは最近、いつ映画館に行きましたか。仕事帰りに1人で足を運んだり、家族や友人と見たかった作品を見に行ったり。多様な楽しみ方ができるのが、映画館の魅力です。

映画館の中でも、小規模ながら独自の視点で選んだ作品などを上映するのが、ミニシアターです。ただ、経営難などを理由にやむなく閉館するところが少なくないのも現状です。

どうしたら観客に作品を届け続けることができるのか。そのヒントを探ります。

(仙台放送局記者 北見晃太郎/経済部記者 野中夕加)

閉館したミニシアター

ことし3月末、仙台駅東口で営業を続けてきた映画館が20年の歴史に幕を閉じました。

映画館の名前は「チネ・ラヴィータ」。
イタリア語で「人生に映画を」を意味しています。

2004年、当時閉館した映画館を引き継ぐ形でオープンしたこの映画館。

当初は大手の映画会社が配給するヒット作品を中心に上映していました。

ただ8年前、近くに大型の映画館がオープンし、競争が激しくなります。

運営会社は差別化を図るため、大手が扱わない作品を独自に選んで上映する「ミニシアター」に営業形態を変えました。
幅広い世代に親しまれてきましたが、厳しい経営が続き、ことし3月末での閉館が決定。

運営会社は、市内にもう1つのミニシアターを運営していて、そこでの営業は続けていくとしています。
マネージャー 鵜飼優子さん
「長年支えてくれた人たちにただ感謝の気持ちを伝えたい。個人的にも、長年勤め上げ愛情を注いできた映画館なので無念な気持ちはあるが、もう1つの映画館でスタッフと一緒に頑張っていきたい」

全国的にも厳しい経営

映画文化を発信する場所として愛されるミニシアターですが、その経営となるとハードルが高いのが現状です。

全国のミニシアターなどでつくる団体、「コミュニティシネマセンター」などが去年、全国78のミニシアターに、経営に関するアンケートを行いました。

その結果、全体のおよそ7割が現在の経営状況について「とても悪い」、「悪い」、「やや悪い」と回答。

さらに、「1年以内に閉館を検討する可能性がある」と回答したところは、全体の1割余りにのぼりました。
経営を圧迫する要因として多く挙げられたのが、機材の更新に伴う負担や物価の高騰、施設の老朽化などでした。

専門家は、複数のスクリーンがある、規模の大きな映画館「シネコン=シネマコンプレックス」とは異なるミニシアターならではの収益構造も、経営の厳しさの背景にあると指摘します。
せんだいメディアテーク 小川直人 学芸員
「シネコンではヒット作品を複数のスクリーンで1日に何本も上映することで安定した収益を得られるほか、3Dなど映像・音響技術を駆使した付加価値を提供することができる。一方、ミニシアターはスクリーンの数が少なく、チケット代だけで収益を得ているところがほとんどだ。その上に新型コロナや設備投資などの問題を抱え、経営的に厳しいところが多くなっている」

新たなビジネスモデル模索の動き

こうした中、経営を維持していくため、新たなビジネスモデルを確立しようという動きもあります。

東京・墨田区の「Stranger」は座席数49席のミニシアターです。
2022年のオープン以来、独自の企画として、海外の権利元と直接取引して日本初公開の作品を上映するなど、映画ファンの支持を集めてきました。

しかしことし2月、大きな転換点を迎えました。

厳しい経営が続いてきたうえ、先行きも見通せないとして、運営が別の会社に委ねられることになったのです。

新たな運営会社が目指すのは、地域に密着したミニシアター。

いわゆる映画ファンだけでなく、地域の人にいかに足を運んでもらうかが重要だと考えています。
まず取り組んだのが、作品のラインナップの強化です。

独自色の強い作品だけでなく、より幅広い層が見やすい作品も選ぶようになりました。

ことし3月には、79年前の東京大空襲をテーマにしたドキュメンタリーを上映しました。

映画館のある墨田区は、この空襲で大きな被害を受けた地域です。

ふだん足を運ぶことのない地域の人たちに来てもらうきっかけとなり、大きな手応えを感じたといいます。
Stranger 小金澤剛康 会長
「作品の本数や上映回数を増やし、編成ルールも変えた。例えば翌週の作品は、前の週の観客数を見てから決めている。お客さんがたくさん来てくれるのであれば延長すべきで、柔軟に対応している」

チケット代以外でどう稼ぐ

映画のチケット代以外の収益を伸ばす取り組みにも力を入れています。

映画館にはもともとカフェが併設されていましたが、提供するビールの種類や食事の品数を増やしました。

さらに、カフェのスペースを使って人を呼び込もうと次々と企画を打ち出しています。
短編の映画を上映し、その監督や出演者と交流できるイベントを開いたり、アート作品の展示販売を始めたりしました。

また、地元で活動するDJが、上映している映画にちなんだ音楽を流すイベントも定期的に行っています。
Stranger 小金澤剛康 会長
「ミニシアターというとコアな映画ファンだけが来るところだと思われがちだがそれでは、その少ない人たちをミニシアターどうしが奪い合うだけで、事業として広がっていかない。ミニシアターの魅力はスタッフとお客さんとの距離の近さであり、気軽に入れる文化発信拠点として、地域社会に貢献できる施設にしていきたい。コアな映画ファンと初めて足を運んだ人たちが共存できる空間を作りたいという思いが強い」
ミニシアターをめぐっては、さまざまな動きも出ています。

名古屋市にあるミニシアター「ナゴヤキネマ・ノイ」は、1度閉館した映画館を元スタッフらがクラウドファンディングで募った資金で改装。

ことし3月に新たにオープンしました。

3年前に東京・青梅市にオープンしたミニシアター「シネマネコ」は、映画を上映する劇場を地域の団体などに貸し出す取り組みを行っています。
また地元の子どもたちにも映画に親しんでもらおうと、小学校の課外授業の一環として、映画鑑賞会も開催しています。

まちの映画館として、地域に根ざした運営をしていくことに力を入れているということです。

ミニシアターのこれからは

いわゆる「シネコン」とは大きく異なる「ミニシアター」。

専門家は、その意義について次のように話しています。
せんだいメディアテーク 小川直人 学芸員
「現代社会において、市場原理に基づいた、あるいはマーケティングとか、アルゴリズムに基づいて作られるものがビジネス的に成功するというのもある。ただ映画を例にとるのであれば、ミニシアターのように非常に個性的で小さな映画の場所があることで、多様性や創造性、あるいは次なる成功のための準備、もしくは偉大なる失敗というのも含めて体験できる、そうした文化の土壌ができるのではないか」
動画配信サービスの普及でいつでも手軽に映画を見ることができるいまの時代ですが、ミニシアターにはただ映画を見るという体験以上の価値があるのだと、取材を通して改めて感じました。

観客どうしやスタッフとの距離が近いアットホームな雰囲気はその1つです。

ミニシアターならではの独自の魅力をどう打ちだし、観客の来館につなげていくのか。

その動向にこれからも注目したいと思います。

(3月29日「てれまさ」で放送)
仙台放送局記者
北見晃太郎
2019年入局
気仙沼支局や県警キャップを経て経済担当
経済部記者
野中夕加
2010年入局
松江局 広島局 首都圏局を経て現所属