さようなら“男性政治” 台湾で女性の政界進出が進む理由とは

さようなら“男性政治” 台湾で女性の政界進出が進む理由とは
「台湾では、政治は男性だけのものではありません」

総統として台湾を8年間率いてきた蔡英文氏も、5月から副総統に就任する蕭美琴氏も女性です。また、台湾の議会・立法院では全体の4割以上が女性議員です。

台湾の政治制度に詳しい専門家は「有能な女性たちが政治に積極的に参加するようになっている」と指摘します。

女性活躍のきっかけになったのが、議席の一定数を女性に割り当てる「クオータ制」です。制度の導入で台湾がどう変わったのか、現地を取材しました。

(国際部 吉田麻由)

県議会でも、立法院でも「クオータ制」

台北から車で2時間ほど離れた台湾北西部の苗栗県。

ここで県議会議員を務める、蕭詠萱さん(27歳)は、2022年の議員選挙に立候補し、クオータ制により順位が繰り上がり初当選を果たしました。
「クオータ制」とは、議会の議席の一定数を女性に割り当てる制度です。台湾の地方議会については、選挙区ごとに4つの議席のうち1つは女性でなくてはならないと定められています。

蕭さんの選挙区の定数は8。クオータ制により2人以上の女性が当選する必要がありますが、得票順では上位8人のうち女性は1人だけでした。蕭さんの得票数は全体で11位でしたが、女性候補の中で2位だったため、得票順で8位だった男性と入れ替わり、当選を果たしました。
蕭詠萱さん
「もともと2議席は女性と決められているので、私が負い目を感じることはありません。より多くの女性が政治に参加したいと思うようになると思います」
もともと高齢者や子どもの世話をするのが好きだという蕭さん。当選してからは、毎日欠かさず、地域の人たちの集まりに顔を出し、生活面で困っていることを聞いて回っていると言います。
住民からは「女性と男性は考え方や関心が違う面もあり、蕭さんのような女性議員が増えることで政治にいろいろな声が反映される」といった声が聞かれました。

背景に民主化運動 今や立法院4割 台北市議会で約半数が女性

台湾ではどのようにクオータ制が導入されたのでしょうか。

1980年代までは今の野党の国民党の1党支配のもと独裁政治が行われていました。民主化運動が活発化すると女性の政治参画を促そうという声が高まり、1998年には地方議会でクオータ制が導入されました。
台湾の議会にあたる立法院では小選挙区の女性の割り当てはありませんが、比例代表の34議席については各党が獲得した議席のうち、女性は2分の1を下回ってはならないとされています。

結果、女性議員の割合は大きく増えました。

地方議会での女性議員の割合は、1990年代には15%程度でしたが、2022年には37%にまで増えたといいます(台湾大学・黄長玲教授調べ)。
ことし1月に行われた立法院の選挙では113議席のうち4割を超える47議席が女性となりました。また、定数61の台北市議会では半数近い30人が女性議員となっています。

台湾の政治制度に詳しい台湾大学の黄長玲教授は、クオータ制の導入は、能力の高い女性の政治参画を促し、政治全体の底上げにもつながったと指摘します。
黄教授
「クオータ制があれば、一定数の女性は必ず当選できるので、それぞれの政党は確実にその議席を得ようと、能力の高い女性の候補者を擁立したいと考えます。このため、候補者になるための競争が激化し、より有能な女性が政治に参画するようになっています。
有能な女性たちが次々と議員になったことで、台湾の人たちの多くは『政治は男性だけのものではない』と考えるようになりました」

育児など政策に変化も

台北市議会議員で3期目を務める簡舒培さんは、女性議員が増えたことにより、男性議員が取り上げることが少なかった議題が積極的に取り上げられるようになったと指摘します。
簡さん
「男性議員はインフラの整備や建設などに関心がある人が多いですが、女性議員は子育てや社会福祉に関する政策に関心を寄せている人が多いです。
女性議員が増えたことで、育児施設の充実や福祉に関する議論が増えました」
簡さんが、女性議員が増えたことによる成果の1つとしてあげるのが、子どもを預ける施設の充実です。共働きの家庭が多い中、民間団体と協力して、長期休みでも、子どもを受け入れることができる施設の設置を進めました。
少子化などであまった公立の小学校のスペースを活用することで、利用料も安くおさえることができたといいます。男性議員からの支持も得ることができ、台北でこうした施設はこの8年間で18か所から54か所の3倍に増やすことができました。

利用者からは「夏休みと冬休みに、子どもを預けられるのでとても助かっている」とか「女性議員が幼稚園の設置を進めるのは素晴らしいことだと思う」といった声が聞かれました。
簡さん
「育児に関する政策の充実に関心を持っているのは女性議員だけではなくなりました。男性議員も、こうした育児に関する政策は票につながると思うようになりました。
このため、男性議員の間でも育児に関する政策への関心が高まり、政策の議論を進めやすくなりました」

台湾でクオータ制はもはや不要?

実は今では、クオータ制を利用せずに当選する女性が大半になっています。
定数61の台北市議会では、クオータ制で合計14議席が女性に割り当てられることになっています。ただ、現在の女性議員は30人。いずれもクオータ制を使わずに得票順で当選を決めた人たちです。

2022年の統一地方選挙では当選した女性議員342人のうち、台湾の中央選挙委員会によりますとクオータ制で繰り上げ当選した女性議員は4人にとどまっています。

女性の政治参画が当たり前となるなか、クオータ制を見直す時期にあるのではないかと感じている人もいます。
かつて南部の台南市で市議会議員を1期務めた劉米山さんは、女性の活躍は必要だと感じているものの、台湾で女性の政治参画が定着しつつある中、制度のあり方について議論を始める段階に入っていると感じています。
劉さん
「クオータ制は男女平等を促すために必要だったと思いますが、多くの女性が政治参画している今、クオータ制を続ける必要はあるのでしょうか。政治参画している女性は非常に多くなった今、制度はなくてもいいと思います」

世界で導入進むクオータ制

日本ではあまりなじみがないクオータ制ですが、世界では各地で導入が進められています。内閣府のまとめによると、導入している国や地域は、2020年の時点でおよそ120に上るとしています。

クオータ制には、主な3つのパターンがあります。

1. 議席のうち一定数を割り当てるもの→台湾、バングラデシュ、ルワンダなど。

2. 候補者の一定数を割り当てるもの→フランス、メキシコ、韓国など。

3. 政党が自発的に党の規則などで一定数の候補者を割り当てるもの→イギリス、オーストラリア、カナダなど。
台湾の例は 1. にあたります。2. にあたる例としてフランス、3. にあたる例としてイギリスがあります。

フランスの議会下院の選挙では、各政党は候補者を男女同じ数にすることとされ、守らなければ国から政党に交付される助成金が減らされる罰則もあります。

イギリスの議会下院の選挙では、各党が自発的に党の規則などで、候補者の一定数を女性に割り当てる取り組みが導入されています。

いずれも1990年代から2000年代にかけて導入されました。導入前、フランスもイギリスも女性議員は10%以下でした。現在、フランスの下院議会は40%近く、イギリスの下院議会は35%が女性議員となっています。

女性の政治参画のその先に ジェンダー問題への意識変化

台湾大学の黄長玲教授は、女性議員の増加は単に女性の声が政治に反映しやすくなっただけではなく、社会そのものの空気を変えていると指摘します。
黄教授
「直接的な証拠はありませんが、女性の議員が増えたことによって台湾の社会全体でジェンダーに関する問題への関心が高まったと感じます。台湾で同性婚がアジアで初めて認められたのは偶然ではないと思います。こうした流れは、政治以外にも広がっていて、ビジネスの場でも多くの女性が活躍するようになっています」

日本の女性比率 衆議院は10%余 都道府県議会は14%

一方、日本の女性議員の割合は参議院は26.8%、衆議院は10.3%。都道府県議会議員の女性議員の割合は、内閣府のまとめによると、14.5%となっています。

政財界のリーダーが集まるダボス会議の主催者・世界経済フォーラムによる世界各国の男女間の平等に関する調査で、日本は2023年、「政治参画」の分野で146か国中、138位と位置づけられました。
日本でもどうすれば女性議員が増え、男性中心の政治を変えていけるのか。台湾の事例も参考になるかもしれません。
(2月17日 おはよう日本で放送)
国際部記者
吉田 麻由
2015年入局
金沢局、長崎局、国際放送局World News部を経て現所属 主に中国や台湾を担当