“ナメクジ大量” 投稿で偽計業務妨害の罪に 元従業員の初公判

「ナメクジ大量にいる」

うその内容をSNSに投稿し、店を一時休業させたとして偽計業務妨害の罪に問われている元従業員の裁判が始まりました。

投稿をきっかけに店には批判が集まり“炎上”状態に。その後、店は閉店しました。

元従業員は「うその発信はしていない」と起訴された内容を一部否認しています。

裁判のポイント、そしてSNS投稿の注意点は?

“ナメクジ大量にいる”

住所不定、無職の25歳の被告は、おととし7月、従業員として勤務していた仙台市太白区にあった外食チェーン「大阪王将」のフランチャイズ店に、「ナメクジ大量にいる」とか「寄生虫絶対やばい」などとSNSにうその内容を投稿して、衛生管理のために店を一時休業させたとして偽計業務妨害の罪に問われています。

24日、仙台地方裁判所で開かれた初公判で、元従業員は「投稿をした結果、店が一時休業したことは認めるが、うその発信はしていない」などと述べ、起訴された内容を一部否認しました。

検察は冒頭陳述で「店長から勤務態度を注意されたことに憤慨し、退職をきっかけに店長や店などに対する不満を解消して復しゅうするため、大量のナメクジがいたなどと装ってSNSで投稿した」などと説明しました。

SNSへの投稿

この事件をめぐっては、元従業員の投稿をきっかけに仙台市の保健所が店の調査に乗り出し、外で猫を飼うなど店で不適切な衛生管理が行われていたことが分かりました。

投稿されたナメクジなどは見つかりませんでしたが、「大阪王将」は店の運営会社とのフランチャイズ契約を解除し、店はその後、閉店しました。

次回の裁判はことし6月5日に開かれる予定です。

事件のこれまでの経緯は…

今回の問題はおととし7月、「大阪王将」のフランチャイズ店「仙台中田店」について、SNS上で「ちゅう房でナメクジが発生している」とか「ゴキブリが出過ぎる」などという匿名の投稿がきっかけとなりました。

こうした投稿は多いもので数千回転載され、店への批判や告発を支持するコメントが相次ぎました。

このあと仙台市の保健所が調査に乗り出し、ナメクジなどは確認されませんでしたが、店の外で猫を飼育するなど不適切な衛生管理が行われていたことがわかり、市が改善を指導。

店の従業員だった被告みずからも記者会見を開き、投稿をしたことを明らかにしたうえで「従業員として改善しようとしたが改善に結び付かなかったので告発した」などと訴えました。

その後、「大阪王将」はこの店舗を運営していた会社とのフランチャイズ契約を解除し、店は閉店しました。

そして去年12月、店舗を運営していた会社が警察署に被害届を提出。

うその投稿で店の業務を妨害したとしてことし2月、元従業員は逮捕されました。

【Q&A】裁判のポイント、SNSの注意点は

SNSでの投稿がきっかけとなった今回の事件。私たちはどのようなことに気を付ける必要があるのか。労働問題に詳しい仙台弁護士会の太田伸二弁護士に話を聞きました。

太田伸二弁護士

Q.刑事裁判になったこと、受け止めは?

A.SNSの投稿から刑事裁判まで発展したことは、私も驚きました。同様の投稿を考える人には強い萎縮効果があるのではないかと考えます。「偽計業務妨害」の罪に問われたのは、店が閉店したことが大きかったのだと思います。

Q.裁判のポイントは?

A.当時は投稿のあと、元従業員が記者会見を開いて、画像や投稿を見せながら社会に訴えかけており、“内部告発“と捉える向きもありました。

投稿内容が事実に基づく表現として許容されるものなのか、それとも虚偽として許されないのか、裁判では判断が問われると思います。

Q.SNSを通じて訴えることについては?

A.身近な方法として投稿者の目的を達成することもありますが、内容が事実に即していないような場合には、逆に投稿者に非難が集まるケースもあります。名誉毀損などの罪に問われる可能性もあります。

また、勤務先の不正を通報する場合には「公益通報者保護法」に基づく制度がありますが、要件に当てはまるかどうかは、法的な問題なので難しく、たとえ制度的には保護されても、実際には不利益がもたらされることも十分にありえます。

本当にそれを発信してよいのか、それは真実なのか、真実だとしても発信することが相手に与えるダメージ、そして自分が受ける影響・リスクはどうか。評価したり検討したりする時間がないまま、個人で発信できてしまうのが、SNSのリスクだと思います。

Q.内部告発はどうすれば?

A.内部告発については社会的な問題を明らかにする意義があり、萎縮してはいけないと思います。しかし、やり方を間違えると、本人に不利益やリスクがある行為だというのも事実です。

まずは社内の窓口が利用可能なのか、労働基準監督署や保健所などの行政機関に相談するのがよいのかなどを確認し、そこで解決しないようなものなら、メディアを通じて世に訴えていくといった選択肢もあります。

その通報をする必要があるのか。それが保護されるような公益通報にあたるのか。どの程度まで事実を公表するのか。検討が必要だと思いますし、専門家のサポートを受けるのがいいと思います。

Q.SNSで注意すべき点は?

A.SNSで安易な発信を生まないためにも、発信する人だけでなく、それを拡散する側も注意しなければならないと思います。拡散することで、問題に加担してしまうおそれもあります。

やはり情報を裏付けること。発信を裏付ける情報があるのか、情報の精度を見極めることが必要だと思います。

拡散する側も責任を取る可能性があることに注意しながら、SNSに向き合わなければならないと思います。