輸送能力が32.5%足りない!? 相次ぐモーダルシフト

輸送能力が32.5%足りない!? 相次ぐモーダルシフト
「収穫から3日目の東京での競りに間に合わせなければいけない」

物流の2024年問題を受けて取材したJAの担当者は危機感をにじませました。農産品や水産品の出荷団体では何も対策を取らなければ、トラックの輸送能力は今年度、5年前と比べて32.5%不足し、業界別では最も影響が大きいという民間の試算もあります。

生産地では「モーダルシフト」が相次いでいます。

(北九州放送局記者 大倉美智子/札幌放送局記者 波多野新吾)

福岡特産「あまおう」 関東・関西で売り上げ7割

3月、福岡県南部・大木町にある農業法人を訪ねると、特産のブランドいちご「あまおう」が収穫の最盛期を迎えていました。
全国的に人気がある「あまおう」。

「あかい」「まるい」「おおきい」「うまい」が名前の由来です。

「JA全農ふくれん」によると年間の売り上げはおよそ150億円。
このうち関東や関西での売り上げが7割を占め、そのほとんどがトラックで輸送されています。

しかし、4月から始まったドライバーの時間外労働への上限規制の適用で輸送量の減少が懸念される「2024年問題」に直面し、「あまおう」の輸送にも影響が出る可能性が出てきたのです。

産地の1つである福岡県八女市から東京までの道のりは1100キロ余り。

トラックでの輸送は上限規制などに対応すると、休息や休憩の時間も含めておよそ26時間かかります。

ドライバーが不足する中で、人手の確保も簡単ではありません。

そこで打ち出したのは、トラックの輸送から切り替える「モーダルシフト」です。

フェリーの活用 収穫から3日目で競りに

JA全農=全国農業協同組合連合会が去年12月から試験的に始めたのがフェリーの活用です。

午前中に福岡県内の各地で収穫された「あまおう」を、まず九州の玄関口、北九州市の「中央卸売市場」にある物流拠点に集めます。

その後、トラックで市内の港に運び、夕方出港するフェリーで神戸に向かいます。
神戸に到着するのは翌日の朝。

トラックはそのまま関東に向かい夕方には東京などの市場に届けられ、次の日の朝、競りにかけられます。

JA全農では、関東向けのものは鮮度や品質を保つために収穫から3日目までに競りにかけることにしています。

フェリーを活用した輸送もトラックでの輸送と時間的に大きな差はなく、収穫から3日目の競りに間に合うといいます。
輸送の際、最も気をつかうのが鮮度です。

輸送の過程で途切れなく低温に保つ「コールドチェーン」を徹底しています。

フェリーを活用する輸送でも「あまおう」を集める北九州市の物流拠点に低温の冷蔵施設を設置。

フェリーで運ぶ時にも船内にある電源を使ってトラックの荷台の温度を5度以下にしています。

コスト増加も勤務時間は削減

気になるコストは、物流拠点での作業などが増える分、従来のトラック輸送よりも上がる見込みです。

一方、ドライバーの労働時間はフェリーの乗船中は「休息」とすることができ、減らすことができるということです。
試験輸送を担った運送会社のドライバー 壇一彦さん
「陸送でずっと運転していくよりも疲れが少なくありがたいです。会社からは運転は4時間ごとに30分の休憩を必ず取るよう指示を受けているのできちんと守っていきたい」

フェリー活用どこまで広がる?

フェリーの活用は、今後増えるとみられます。

北九州と神戸・大阪を結ぶ路線を運航する「阪九フェリー」によると、昨年度(2023年度)の平日の利用率は9割を超え、トラックの利用は前年と比べておよそ1万台多い13万台余りに上りました。
九州から関東や関西に出荷される野菜や果物は、そのほとんどがトラックで運ばれています。

JA全農では今後「2024年問題」による影響が広がった場合、ほかの果物や野菜の輸送でもフェリーを活用する方針です。
全農物流 園芸営業部 北九州青果事業所 河田大樹所長
「産地からは3日目の競りに間に合わせてほしいと言われています。きちんと運ぶことができないとあまおうの売り先が減ってしまい、農家も生産を減らそうか、やめようかという話になってくると思う。そうならないようにするためにも運べないリスクを軽減するために何ができるか、先を見据えて模範的な取り組みになるようしていきたい」

広い北海道 ドライバー1人では1日で届かないところも

モーダルシフトの動きは広大な面積を有する北海道でも出ています。

2024年問題によるトラックドライバーの不足の影響は、物流の中心となっている札幌圏から離れた地域でより深刻になると想定されています。
上の地図で黄色や赤色で塗られているエリアは、札幌圏からの輸送が片道で4時間半を超える地域です。

国土交通省の想定によりますと、4月以降はドライバー1人が1日で輸送できるのは平均で片道4時間半程度が限界になるのではないかとしています。

これまでは札幌から片道4時間半以上かかる地域でも当日中に輸送できていましたが今後はそうした輸送が難しくなると見込まれているのです。

輸送手段をシフトする企業

こうした状況を受けて、輸送手段をトラックから切り替える企業が出てきています。

取材に向かったのは北海道苫小牧市にある牛のエサを製造する工場。
ここではおよそ330キロ離れた北海道北部の幌延町にある保管施設までトラックで輸送していましたが、去年から一部の区間を鉄道に切り替えました。
以前は片道5時間以上かけて、ドライバー1人でトラックで運んでいました。

しかし、4月からドライバーの時間外労働に上限規制が適用されるため、往復で10時間以上かかる運転をドライバー1人で対応することが難しくなります。
そこで、工場がある苫小牧市から途中の名寄市まではJR貨物が輸送を行い、名寄市から保管施設のある幌延町の間のみ、自社がトラックで輸送するように変えました。

こうすることで、ドライバーの運転時間を往復でも4時間程度に短縮できたということです。
工場の物流計画を立てている ホクレン 小林哲郎課長
「輸送コストは上昇したが、持続可能な輸送形態を維持するために鉄道に切り替えた。北海道内のほかの区間や商品についても輸送手段の切り替えができるか検討していきたい」

トラックからの切り替え需要の取り込み図る

トラックからの切り替え需要を取り込もうという動きもあります。

というのも北海道では、道内各地から札幌方面に向かう鉄道貨物は農作物など多くの積み荷がある一方、札幌から道内各地に向かう鉄道貨物は積み荷が少なくコンテナに空きが多い「片荷」と呼ばれる状態の解消が課題となっています。
トラックからの切り替え需要を取り込むことでこの課題を解消しようと、JR貨物はことし2月、卸売業者などと協力して初めての実証実験を行いました。

実証実験では、これまで主にトラックで行ってきた札幌市から北海道北見市までの輸送を鉄道に切り替えた場合の所要時間やコストなどを卸売業者などに確認してもらおうというものです。
実証実験には2社が参加し、食品などあわせておよそ12トンを輸送しました。

参加した卸売業者は、貨物列車に積み荷を積み替えた後出発するまでの時間はトラック輸送より余計にかかるものの、ドライバーの労働時間の削減の面ではメリットは大きいとして、今後の貨物鉄道の活用を検討するとしています。
実証実験に参加した卸売業者
「『2024年問題』によって長距離の配送が非常に難しくなるため、数年後もいまの状態を続けられるか分からない。トラックにかわる輸送方法を模索していきたい」
JR貨物北海道支社営業部 中村隆 部長
「空のコンテナを札幌から道内各地に回送しているのが現状で、そのコンテナが荷物で埋まることは非常にありがたい。引き続き課題の解決に取り組んでいきたい」

課題も残る鉄道貨物への切り替え 私たちにできることは

徐々に進んでいる鉄道貨物への切り替えの動きですが、課題もあります。

まず挙げられるのが「スケジュールの柔軟性」です。

トラックでは、貨物を届けたい時間に合わせて車を手配するなど、スケジュールに柔軟性を持たせやすいとされていますが、鉄道貨物ではあらかじめ決められたダイヤに合わせる必要があり、スケジュールや輸送量の柔軟な調整が難しいとされています。
そして、もう1つが災害への対応です。

土砂災害などで線路が使えなくなった場合、復旧に時間がかかってしまうおそれがあります。

トラックドライバー不足の簡単な解決法はありません。

私たちが意識を変えることも求められています。

例えば、宅配便などを利用する場合、ゆとりを持った配達日時を指定すること、再配達にならないよう確実に受け取ること、など身近でできることから始めることが必要になると思います。

(4月1日「おはよう日本」で放送)
北九州放送局記者
大倉美智子
2012年入局
熊本局、ニュース制作部を経て現所属
札幌放送局記者
波多野新吾
2009年入局
長野局、ニュース制作部などを経て2022年から出身地の札幌局で勤務