巨大IT企業規制の新法案 違反時の課徴金は売り上げの20%に

スマートフォンの基本ソフトなどで優越的な地位にある巨大IT企業を規制するための新たな法案が明らかになりました。競争の妨げとなる禁止行為をあらかじめ示したうえで、違反した場合には売り上げの20%を課徴金として支払わせるとしています。

アップルやグーグルといった巨大IT企業は、スマートフォンの基本ソフトやアプリストアの分野などで優越的な地位にあることから、新規参入の妨げや利用する事業者のコスト上昇が懸念されています。

このため、政府は巨大IT企業に対する規制を強化する方針で、16日に開かれた自民党の部会で、新たな法案を提示しました。

それによりますと、スマートフォンで使われる
▽基本ソフトや
▽アプリストア
▽ブラウザー
▽検索エンジンの分野で、
規制対象の企業を指定したうえで、アプリストアや決済システムで競合他社のサービスの利用を妨げることや、利用条件や取り引きで不当に差別的な取り扱いをすることなど、禁止行為をあらかじめ示すということです。

そして、指定された企業には、規制の順守に向けて毎年度、報告を求めるとともに、違反した場合は、日本国内での売り上げの20%を課徴金として支払わせるとしています。

今の独占禁止法でほかの事業者の活動を不当に排除した場合と比べて、課徴金の水準は3倍以上にのぼり、違反を繰り返した場合にはさらに30%に引き上げられます。

政府はこの法案を来週にも閣議決定し、今の国会に提出する方針です。

林官房長官 “公正な競争環境の確保を期待”

林官房長官は午後の記者会見で「違反行為の防止という行政目的の達成のため、違反事業者などに対し、行政処分として金銭的不利益を科す制度を設ける必要があると指摘されていることなどを踏まえ検討を行っている。対策を講じることで、スマートフォンのアプリストアなどの市場における公正な競争環境が確保されることを期待している」と述べました。

新法案 取り引き先には期待と実効性のある運用

アップルやグーグルといった巨大IT企業を規制する新たな法案に対し、取り引きがある事業者からは手数料の引き下げなどの効果に期待する一方、実効性のある運用を求める声が出ています。

日本ではスマートフォンの基本ソフトや、アプリストアでアップルとグーグルの2強が高いシェアを占める寡占の状態となっていて、競争が十分に働いていないと指摘されています。

利用者は両社のアプリストアからゲームなどのサービスを提供する、さまざまなアプリをダウンロードして使えますが、課金サービスの場合にはアプリ事業者は最大30%の手数料を両社に支払う必要があります。

匿名を条件にNHKの取材に応じたアプリゲームの制作会社の担当者は「手数料が高いというのは業界の共通認識だが、それ以外の手だてがないため、従わざるをえない。彼らのルールの中でしかビジネスができないので、いつも顔色をうかがわないといけない」と話しています。

そのうえで「日本のアプリゲーム市場は頭打ちの状況で、年々、開発コストが上がって新規参入が難しくなっている。手数料が下がったり、彼らのルールに縛られなくなったりすれば新しいコンテンツやサービスに投資できるようになる」と話しています。

一方で、巨大IT企業を規制するEU=ヨーロッパ連合のデジタル市場法の本格運用に合わせて、アップルが事業者から新たな手数料を徴収するルールを明らかにしたことを例に挙げ「現状の制度よりひどい対応で、プラットフォーマーは新たな規制に対してやり過ごそうとする。新しい法案の実効性を担保できるかが重要だ」と話しています。

巨大IT企業に対し 各地で規制の動きなど強まる

デジタルサービスの分野で圧倒的な存在感を示すアップルやアマゾンなどの巨大IT企業に対しては、独占的な地位を利用して競争を妨げているとして欧米では批判の声も出ていて、当局が規制を強めています。

このうち、EU=ヨーロッパ連合では、先月7日から巨大IT企業を規制する「デジタル市場法」の本格運用が始まっています。

日本の法案では規制の対象となっていないネット通販やSNSなどの分野も含まれていて、巨大IT企業が
▽自社のサイトで自社の製品やサービスを優先的に表示したり
▽アプリストアで自社の決済システムなどを使うよう求めたりすることなどを禁止しています。

違反した場合、年間の売り上げの最大10%を罰金として科すことができるとしています。

EUの執行機関「ヨーロッパ委員会」は先月25日、グーグルの親会社のアルファベットとアップル、それにフェイスブックなどを運営するメタの3社がデジタル市場法に違反している疑いがあるとして、調査を開始したと発表しました。

また、アメリカでも「GAFA」と呼ばれる巨大IT企業4社に対して、司法省などの規制当局が日本の独占禁止法にあたる反トラスト法に違反したとして訴えを起こし、対決姿勢を強めています。

このうち
▽アップルに対しては、司法省が先月21日、「iPhone」をめぐり、他社の製品との間でアプリの機能を制限することなどで、市場での独占的な地位を違法に維持しているとして、提訴しました。

また
▽アマゾンに対しては、サイトに出店している小規模事業者に多額の手数料を請求し、不法に独占的な地位を維持しているなどとして、FTC=連邦取引委員会などが去年9月に訴えを起こしたほか

▽グーグルに対しても反競争的な買収を通じて、インターネット広告市場の競争を妨げているなどとして、去年1月、司法省などが提訴しました。

▽旧フェイスブックのメタについても競合の可能性がある「インスタグラム」などの企業を買収し、公正な競争を妨げたとしてFTCが2021年の8月に再び訴えを起こしています。

こうした規制や提訴の動きに対し、巨大IT企業も対応を進めています。

このうち、EUのデジタル市場法の本格運用に対しては、アップルが事業者と結ぶ新たな規約を示し、これまで認めてこなかった他社のアプリストアなどからのアプリの取得を認める方針を示しています。

一方で、新たな規約では、他社のアプリストアを利用した場合でも年間100万回以上のダウンロードが行われるアプリには、新たな手数料を徴収するなどとしていて、EUの規制を回避しようとしているなどと批判的な声も出ています。

日本の新たな法案に対しても、企業側が同様の対応をする可能性もあるとして、日本政府は欧米をはじめ各国政府と連携しながら規制の実効性を高めたいとしています。

専門家「手遅れになる前に一定の措置が必要だ」

巨大IT企業を規制するための新たな法案について、競争法に詳しい慶應義塾大学の渕川和彦准教授は「今回対象となるアップルやグーグルの行為を規制しようとする場合には、なかなか従来の競争法の枠組みでは捉えきれない。こうした企業の市場シェアが拡大し、寡占的な状況になると、市場の自浄作用で元に戻すことは非常に難しくなってしまう。手遅れになる前に一定の措置が必要だと世界的に認識されている」と話しています。

そのうえで、スマートフォンを利用する消費者のメリットについては「今回の新法によってアップルやグーグルが提供するアプリストアの使用を義務づけることが禁止されると思うので、消費者は多様なアプリストアを利用することが可能になる。競争によって良質で廉価なアプリを購入することができるようになる」と話しています。

一方で、今回の法案ではスマートフォンで利用されるソフトウエアのみを規制の対象にしていることから「オンラインモールや広告分野などに関しても、今後、規制を検討していかなければならない」と述べ、巨大IT企業が優越的な地位にあるほかのデジタル分野の規制についても対応していく必要があるという考えを示しました。