【解説】衆院3補選告示 政治の行方は?

【解説】衆院3補選告示 政治の行方は?
衆議院の3つの補欠選挙が16日告示され、12日間の選挙戦がスタートしました。選挙の構図や今後の政治の行方について解説します。
(政治部 阿部有起、谷井実穂子)

Q.今回の補欠選挙、どう位置づけますか?

A.いま、国会では、政治とカネの問題をめぐって、与野党の攻防が続いていますが、今回の補欠選挙は、去年秋に自民党の政治資金問題が明らかになって以降、初めての国政選挙ということになります。
現時点での岸田政権への評価が示されるということだと思います。

Q.自民党は3つのうち2つで候補者擁立を見送ったが

A.そうなんです。
そもそも3つの選挙区はいずれも自民党が議席を持っていましたし、補欠選挙は「ヒト、モノ、カネ」を集中的に入れることができますので「与党有利」とよく言われるんです。
ただ、今回の場合、東京15区と長崎3区は、自民党に所属していた議員が事件で立件され、辞職したことによる選挙ということもあるんですが、長崎3区は別の事情もあるんです。

Q.長崎3区の「別の事情」とは?

A.選挙区が変わるということです。
「1票の格差」という言葉を聞いたことがあるかと思うんですが、それを是正するため、次の衆議院選挙から、5つの都と県で選挙区があわせて10増える一方、10の県では1つずつ減ることになっているんです。
長崎は、1つ減る10県のうちの1つで、いまの4つの選挙区が3つになるんです。

Q.長崎3区のエリア、区割りも変わるということか?

A.そういうことなんです。
変わることが決まっていますので、自民党の中では、次の選挙に備えて、新しい区割りでの候補者をすでに内定しているんです。
ですから、自民党関係者はこう説明していました。
「いまの区割りで行われる今回の補欠選挙で仮に勝ったとしても、次の衆議院選挙での立候補を確約できない状況だった」(自民党関係者)
長崎は、もともと保守の地盤がかたく、自民党が強い地域ですので、地元でも戦うべきかどうか意見がまっぷたつに割れたということなんですが、結果として擁立見送りということになりました。
長崎の自民党が擁立を見送るのは昭和30年の結党以来、初めてなんです。

Q.与野党が対決する唯一の構図になる島根1区はどんな戦いに?

A.2つの選挙区と違ってこちらは、衆議院議長だった自民党の細田氏が、去年11月に亡くなったことに伴う選挙です。
自民党と立憲民主党の一騎打ちになりますので、双方からは早くも「総力戦」という言葉がよく聞かれますし、実際、両党の幹部が続々と現地入りしているんです。
自民党としては、さきに、政治とカネをめぐる問題で関係議員らの処分を決めました。
それを区切りにして、この問題での逆風を食い止めて、議席を死守したい。

一方で、立憲民主党としては、逆に、処分を決めたことで幕引きは許さない、実態を解明すべきだということで今後に弾みをつけるためにも議席を奪いたいといったところだと思います。
永田町の現場で取材していても、与野党幹部の関心の高さはもちろん感じるんですが、ほかの議員の間でも関心があることがうかがえるんです。

Q.自民が2選挙区で候補者擁立を見送っている中でどんな関心?

A.いろいろ話を聞いてみますと、勝敗だけではなくて、自民党と立憲民主党の候補者が、どの程度の票を獲得するのか、どの程度の票差がつくのかというところに対する関心です。
島根は、もともと自民党が強い地域で、これは誰もが認めるところだと思います。
そうした地域で、いまの政治情勢を、有権者がどう判断するのかを参考にして、今度の自分の選挙に備えたいということなんです。
もちろん、各党としても、衆議院の解散に向けて、戦略を立てる上で重要な選挙になるということなんです。

Q.今回の補欠選挙の結果、岸田政権には何らかの影響はあるか?

A.影響はないと言ったら嘘になると思います。
実際、補欠選挙の結果というのは、ときの政権運営に影響を与えてきたんです。
たとえば菅政権で3年前の4月、衆参3つの補欠選挙などが行われたんですが、自民党は候補者擁立を見送った選挙を含めて敗北し、その後、菅氏は9月の総裁選挙への立候補を断念したんです。
さらにさかのぼれば、2008年4月に行われた衆議院山口2区の補欠選挙で自民党は当時の民主党に敗れ、福田内閣は9月に退陣しています。
ただ、岸田総理周辺は今のところ、こう話しています。
「選挙区によって事情が異なるため、結果が政権運営に直結することはない」(岸田総理周辺)
一方の立憲民主党の泉代表ですが、就任して2年半ほどたちましたが、この間、補欠選挙で党の公認候補が勝ったことがないんです。

ですので、泉氏にとっても、9月には代表選挙を控えていますので選挙結果が持つ意味は小さくないと思います。

Q.衆議院の解散はどうなりそうか?

A.永田町では、いろんなことが言われていますが、こればかりはわかりません。
知っているのは、岸田総理ただ一人なんですが、その岸田総理は、「先送りできない課題に取り組んでいくこと以外は考えていない」と繰り返しています。
ただ、解散の時期を判断する上で、ことしの秋が一つの節目になるだろうという見方があるんです。
岸田総理が自民党総裁としての任期を迎える。
状況によっては総裁選挙になるということ。
そして、衆議院議員の4年の任期満了までいよいよ残り1年となること。
この2つが来るのがことしの秋なんです。
ですので、岸田総理自身、本音では、解散のタイミングを意識していることは間違いないところかと思います。
解散の時期を取材するのは私たちの仕事なんですが、岸田総理も発言している政治資金規正法の改正ですね、この大きな課題がまだ残っています。
政治改革の特別委員会も設置されましたので、今後、政治とカネの問題を繰り返さないためにも、まずは、改正に向けた与野党の議論、これに期待したいですし、しっかり取材したいと思っています。
政治部記者
阿部 有起
2015年入局。鹿児島局、福岡局を経て2021年から政治部。
政治部記者
谷井 実穂子
2008年入局。 政治部、大阪局などを経て、2023年夏から再び政治部。