ソロモン諸島で総選挙 中国の影響力強まる

太平洋で中国の影響力が強まる中、ソロモン諸島で17日、総選挙が行われます。中国との関係を深めているソガバレ首相率いる与党が勝利するのか、関係見直しも訴える野党が政権交代を実現するのか、注目されています。

南太平洋のソロモン諸島はソガバレ政権が2019年に台湾と断交して中国と外交関係を結び、おととしには安全保障協定を結ぶなど、急速に中国との関係を深めてきました。

今回の選挙では、こうした中国寄りの政策や安全保障協定が争点の1つとなっていて、ソガバレ首相は選挙の演説の中で「中国に物乞いはいないが、アメリカのすべての主要都市には物乞いがいる。これが世界第1位の経済大国なのか」と述べ、中国との関係強化の正当性を訴えました。

これに対して、野党の党首は「今の政府はソロモン人が作っているが、コントロールはしていない」として、今の政府は中国の影響を受けすぎていると批判し、関係見直しも検討すべきだとしています。

太平洋では、2019年にはソロモン諸島とキリバスが、ことし1月にはナウルが台湾と断交し、中国と外交関係を結んでいて、太平洋の島しょ国で台湾と外交関係があるのは、ツバル、マーシャル諸島、パラオの3か国だけになっています。

与党は中国関係強化 実績強調

2019年に外交関係を結んで以降、ソガバレ政権は急速に中国との関係を深めてきました。

去年、首都ホニアラで行われた国際的なスポーツ大会では、中国が外国からの支援のおよそ8割を占める1億1900万ドル、日本円にして170億円以上の資金を提供していて、スタジアムなどの施設が建設されました。

大会ではこのほか、去年交わした覚書に基づいてソロモン諸島に常駐している中国の警察官がドローンなどを使って警備にあたっていました。

ホニアラでは、中国資本の商業施設やホテル、集合住宅などの建設も次々に進められているほか、通信インフラについても中国の通信機器大手のファーウェイが整備を進めています。

ソガバレ首相は、選挙戦のなかでこうしたことを成果として強調したうえで「中国では財布を落としても誰かが届けてくれる。中国に物乞いはいないが、アメリカのすべての主要都市には物乞いがいる。これが世界第1位の経済大国なのか」と述べ、中国との関係強化の正当性を訴えています。

また、市民の中にも中国の支援を評価する人は多く、40歳の男性は「ソガバレ首相が中国とともにスタジアムやその他の施設を作ってくれた。また彼に首相になってほしい」と話していました。

また、39歳の女性も「今の政府は発展のためにいろんなことをやってくれた。それに関しては何もいうことはなく、中国には感謝をしないといけない」と話していました。

取り残された地方の実態は?

首都ホニアラでは中国の支援で開発が進む一方、地方ではその恩恵が受けられていないという現状もあります。

ホニアラから船で2時間ほどのマライタ島では、人口が最も多いにもかかわらず、中心部でも道路は舗装されておらず、橋など、インフラの老朽化も進んでいます。

マライタ島では、台湾が農場を運営したり、農家を支援したりするなど、基幹産業である農業の支援に力を入れていました。

農業を営む男性は台湾からさまざまな種類の野菜の種をもらったり、耕うん機を借りたりしていたほか、台湾が運営する農場で働き、ノウハウを学んできたと言います。

しかし、2019年に断交して以降、台湾の農場で働くことができず、自分で育てられる野菜の種類も減ってしまい、収穫量は半分ほどになったということで「生活は苦しくなりました。畑も今では小さくなって、キャベツとタロしかありません。台湾に戻ってきてほしい」と話していました。

マライタ島の選挙区で立候補している野党のリッキー・フオー氏は「今の政権は一部の国を他の国よりも重要視している。それは変えなければならない」として、ソガバレ政権は中国との関係を重視しすぎていると批判しました。

そして「国民が分断されてしまったのは政府が署名したものの透明性がないからだ」として、中国との支援の協定や、安全保障協定などについて、情報を公開し、見直すことも含めて検討すべきだという考えを示しました。

地方支援にも動き始めた中国

首都ホニアラに支援が集中している現状に不満が高まる中、中国はホニアラ以外の地域への支援にも動き始めています。

去年10月、中国はマライタ州政府と州都アウキ中心部の道路の舗装工事を進める覚書を交わしたほか、今月4日には、マライタ州と中国の江蘇省が姉妹都市の提携を結び、貯水タンクや太陽光でつくライトなども提供されました。

いずれも調印式には、ソロモン諸島に駐在している中国の大使が出席するなど、ホニアラ以外での支援も強化していく姿勢を見せています。

これに対して、日本はマライタ州の中心部近くで病院建設を予定しているほか、水道施設の提供などを行っています。

このほか、選挙を支援するために、オーストラリアやニュージーランドは軍の部隊を派遣していて、選挙に必要な物資の輸送や、まちなかの警備にあたっています。

支援歓迎も政治家に不満高まる

独立系メディアのオファニ・エレマエさんは、有権者は中国の支援でインフラ整備が進んでいることを歓迎する一方で、中国と関係が深い一部の政治家が私腹を肥やしているのではないかという不満も高まっていると指摘します。

オファニさんは「大規模プロジェクトが本当に自分たちのためになっているのか、疑問を持っている人たちがいるのです。政治家の子どもが高級車を乗り回しているような様子を目の当たりにした国民は不信感を抱いたり、失望したりしています。中国は支援国の1つであり、その関係はソロモンの人々、国のためのものであり、一部の政治家のものではないのです」と話していました。