“もしトラ”の中での国賓訪米 その思惑は?

“もしトラ”の中での国賓訪米 その思惑は?
岸田総理大臣が国賓待遇でアメリカを訪問し、バイデン大統領との首脳会談や議会での演説を行った。
秋の大統領選挙ではトランプ氏が再選する可能性も伝えられている、「もしトラ」の中での訪米の意義や思惑とはー。
(安藤和馬)

異例の厚遇のワケ

4月10日(現地時間)にワシントンで行われた岸田総理とバイデン大統領との日米首脳会談。
両国の関係を「未来のためのグローバル・パートナー」と位置づけて、防衛、経済安全保障、宇宙、人的交流など幅広い分野での協力を確認し、強固な日米関係を内外に印象づけた。
国賓待遇で招かれた岸田総理は盛大なもてなしを受け、首脳どうしの親密ぶりをアピールした。
国賓待遇での訪米は、2015年の安倍総理大臣以来、9年ぶりとなる。
なぜ岸田総理がこのタイミングで招待されたのか。
岸田政権は▽ウクライナ支援に継続的に取り組んでいるほか、▽防衛費の大幅な増額、▽「反撃能力」の保有などの政策を実行している。
これら一連の政策は同盟国アメリカの負担を軽減する、つまりアメリカの国益にかなうものと言える。
現にアメリカから、反撃能力に活用するとして、トマホークを最大で400発購入する契約を結んだ。
バイデン大統領は、首脳会談後の共同記者会見で、岸田政権の政策を挙げながら、岸田総理を「勇敢なリーダー」だと持ち上げた。
外務省の担当者は、こう推測した。
「バイデン政権にとっては、秋の大統領選挙でプラスになると期待しているのだろう」(外務省担当者)

背後にトランプ氏の影

一方、訪米準備を進めていた外務省幹部は次のように語った。
「主役は岸田総理とバイデン大統領だが、背後には常にトランプ氏の影がちらついた」(外務省幹部)
アメリカの各種調査ではトランプ氏がややリードしている状況が続いていて、外務省内でも「トランプ氏が勝つ可能性は十分ある」という見方がある。
「もしトランプ氏が大統領に返り咲いたら」=「もしトラ」が現実味を持って語られ始めている。

岸田総理は3月下旬の記者会見でこう述べた。
「『もしトラ』という話もあったが、選挙情勢に関わらず日米同盟の重要性を改めて世界に示すことは重要だ」

“もしトラ”を見据えて

「もしトラ」の中での訪米の意義とは何か。
「1つは現政権としっかり向き合うこと。もう1つは政権が変わっても日米関係がぶれないよう、手を打っておくことだ」(外務省幹部)
トランプ氏はかつて、日米安全保障条約は不公平だと不満を示したり、在日アメリカ軍の駐留経費の負担増を求めたりするなど「予測不能」な言動で日本が振り回された経緯がある。
トランプ氏が返り咲くと、再び自国第一主義を掲げ、政策が内向きになる懸念がある。

今回の日米首脳会談では、自衛隊とアメリカ軍の指揮・統制の向上や、防衛装備品の共同開発の推進など安全保障分野での協力が特に強調された。
中国が覇権主義的な動きを強める中、日本として、東アジアにおけるアメリカの関与や協力が揺るがないよう、現政権のうちに重要事項を固めておきたいという狙いが見えた。

両面作戦は功を奏するのか

岸田総理が11日にアメリカ議会で行った演説では、大統領選挙を意識したくだりがあった。
アメリカ国内の政治的分断が深まっていることも念頭に、日米同盟が国際秩序の維持に向けた役割を果たしていくためには、党派を超えた協力が必要だと呼びかけたのだ。
「民主党だけでなく共和党にも向けたメッセージだ。日本との同盟がアメリカの国益につながるということを両党に改めて認識してもらう狙いがあった」(同行した政府関係者)
外務省幹部は次のように語った。
「バイデン政権は、日本とともにトランプ氏を共通の敵として見ているかもしれないが、私たちは違っていて、どちらが勝ってもいいような関係づくりをしている」(外務省幹部)
外務省は2016年の大統領選挙の際、民主党のヒラリー・クリントン氏が優勢という予想を強めていたが、結果トランプ氏が勝利した。
まさにその渦中にアメリカ大使を務めていた佐々江賢一郎氏はNHKの番組で次のように語った。
「トランプ氏が選ばれた場合のことを想定して、いろいろ準備を進めることは重要だ。当然のことながら日本政府やアメリカ大使館員がトランプ氏のサポートをしている周辺の人たちと接触し、関係を強化する努力を行っているはずだ。私は現職ではないので、とやかく言う立場にはないが、当然やっていると思う」
一方、次のようにも指摘した。
「アメリカが中長期的に世界のいろいろな問題から手を引いて、国内のことに忙殺されることにならないよう、引き続き、大きな役割を果たしてもらう。日本としてそのために同盟関係を強化していく、この基本的な姿勢が重要だと思う」
日本政府は「同じ轍は踏まない」として、バイデン再選とトランプ復帰の“両にらみ”で備えている。
今回の訪米の成果をふまえつつ、したたかで戦略的な外交を展開できるのか。

決戦の秋に向けて、今後も取材を続けたい。

(4月10日 ニュースウオッチ9などで放送)
政治部外務省キャップ
安藤和馬
山口局、釧路局などを経て政治部
今回、岸田首相の訪米に同行取材