ストロング系どうなる? お酒の最新事情

ストロング系どうなる? お酒の最新事情
新年度を迎えたこの季節。花見や歓迎会など、お酒を囲む機会が増えるという人も多いと思います。このお酒をめぐり、最近メーカーなどで新たな動きが相次いでいます。
(経済部デスク 井村丈思)

「ストロング系」に見直しの動き

今年に入り動向が注目されているのが、缶酎ハイなどのうち、度数が8%以上の「ストロング系」と呼ばれるアルコール飲料です。
このストロング系について、大手ビールメーカー4社のうちアサヒビールとサッポロビールの2社が、今後、新商品を発売しない方針を明らかにしたのです。

ストロング系はこの15年ほどで広く普及し、民間の調査会社「インテージ」によると、一時は缶酎ハイなどのうち、販売金額で40%以上のシェアを占めました。

最近のシェアは低下傾向にあるものの、今なお25%に上ると推計されています。

純アルコール量に着目 飲酒ガイドライン

ストロング系の取り扱いが注目されるようになった背景に、厚生労働省が2月に公表した、飲酒に関するガイドラインの存在があります。
ガイドラインでは、お酒に含まれるアルコールの量「純アルコール量」で、健康へのリスクを示しています。

国の基本計画で、1日あたりの純アルコールの摂取量について、男性で40グラム以上、女性で20グラム以上を、生活習慣病のリスクを高める飲酒量と定め、それ以上飲む人の割合を減らしていくことが目標になっていると紹介しています。

この純アルコール量は、アルコール度数と飲んだお酒の量などをかけ算して計算できます。
例えば、純アルコール量20グラムの目安は、アルコール度数5%のビールならば中びんやロング缶1本、12%のワインならば小グラス2杯に相当します。

これが度数9%のストロング系の場合、350ミリリットル缶1本でも25グラム余りと、20グラムを超える量になります。

ストロング系 各社の戦略は

ストロング系は、今も消費者の間に根強いニーズがあります。
その背景について、アルコールと健康の関係に詳しい筑波大学の吉本尚准教授は飲みきりタイプで、手軽に飲めて、缶のデザインがカラフルで目を引きやすい特徴もあり、いわば『コスパよく酔いたい』という人に支持されている面がある」と分析しています。

一方で、「手軽さ故に、アルコール依存症のリスクもあり、注意が必要だ」とも指摘しています。

大手メーカーではここ数年、ガイドラインに先駆けて、缶ビールや缶酎ハイなどの商品に、純アルコール量を記載する取り組みを進めてきました。

こうした中で、業界で表明が相次ぐストロング系見直しの動き。

新商品を今後発売しないとする理由について、アサヒビールは「不適切な飲酒を撲滅し、お客様が『お酒とのいい関係』をずっと楽しんでいただけるよう商品構成を見直した」、サッポロビールは「健康志向の高まりもあり、市場の動向を踏まえて判断した」としています。

一方、キリンビールは「今後の販売についてはあらゆる可能性を検討している」、サントリーは「幅広い商品ラインナップでお客様に対応する一方、適正飲酒の啓発を続けている」と説明しています。

ノンアルコール市場は拡大

お酒の市場をめぐっては、アルコール度数が高めの商品戦略を見直す動きがある一方で、ノンアルコール分野は活況です。

度数0.00%のノンアルコールビールは、飲酒運転が社会問題となる中で、15年前にビール大手が初めて発売。その後各社が追随しました。

最近では、コロナ禍で自宅で飲んだり、飲食店がアルコールを出せない時間帯に提供したりして、需要を伸ばしました。
各社が新商品を投入し、酎ハイやワイン風味など、品ぞろえも多様化しています。

ノンアルコール飲料の市場は拡大傾向で、この10年で1.4倍に増えているという大手ビールメーカーによる試算もあります。

外食業界もノンアルコール対応広がる

こうした需要の広がりをとらえる動きは、外食業界でも広がっています。

都内のレストランでは、コース料理で、ワインなどの代わりにノンアルコール飲料を組み合わせて提供するサービスを、去年4月から新たに始めました。
お茶や甘酒をベースに果物で香りをつけるなど、専属のソムリエが開発した4種類のノンアルコールのドリンクを、コース料理に合わせてワイングラスなどで提供します。

当初は、コースを選ぶ人全体の2割ほどの利用でしたが、今では4割ほどまで広がっているということです。
八芳園 吉橋真子マネージャー
「普段お酒を飲む常連客でも、その日の体調や翌日の予定などを意識してノンアルコールを選ぶ方が増えている。アルコールを飲まない方にも飲む方と同じ食事を一緒に楽しめる環境を提供していきたい」
また、居酒屋チェーンを展開するエー・ピーホールディングスは、ノンアルコール飲料に合わせて、食べ物のメニューを独自に開発する取り組みを進めています。

お酒を飲む場合を想定するよりも、やや薄味に仕立てるなどの工夫をしていて、この夏の商品化を目指すとしています。

飲み放題はどうなるの?

お酒と健康の観点からは、飲食店での「飲み放題」プランの扱いがどうなるかも気になるところです。
居酒屋業界の間では「飲み放題は継続する一方で、ガイドラインは参考にする。過度にアルコールを摂取するお客様には注意喚起を促していく」とか、「ノンアルコールのドリンクをメニューに含めていて、お客様の選択に委ねる」などという声が聞かれます。

また、業界団体の日本フードサービス協会は「飲み放題は楽しく飲食をする場を提供するため、各社が個々の判断で導入しているサービス。決して過剰な飲酒を助長しているわけではない」と説明しています。

お酒は文化として暮らしに根づいていますが、不適切な飲酒による健康障害や飲酒運転による悲惨な交通事故などは防がなければなりません。

ガイドライン策定も踏まえて、お酒とどう向き合うべきか、私たち消費者の行動とともに、企業の対応にもより一層関心が集まりそうです。
経済部デスク
井村 丈思
1998年入局
流通業界を担当