一時1ドル=153円台 政府・日銀による市場介入への警戒感も

11日の東京外国為替市場で、円相場はおよそ34年ぶりの水準となる1ドル=153円台前半まで値下がりしました。アメリカで早期に利下げを行うとの観測が後退したことを受けて、円を売る動きが広がっていて、政府・日銀による市場介入への警戒感も出ています。

外国為替市場では、10日に発表されたアメリカの消費者物価指数の上昇率が市場予想を上回ったことで、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が早期に利下げを行うとの観測が後退し、円を売ってドルを買う動きが強まりました。

このため、円相場は日本時間の11日早朝に、およそ34年ぶりの水準となる、1ドル=153円台前半まで値下がりしました。

11日の東京市場では、政府・日銀による市場介入への警戒感も出て、1ドル=152円台後半での取り引きが続きましたが、午後に入って再び円安ドル高が進み、午後6時前には1ドル=153円29銭をつけました。

市場関係者は「日本時間の今夜発表されるアメリカの物価に関する指標が、 インフレ圧力の根強さを改めて示す内容だと受け止められた場合には、一段と円安が進む可能性もあり、市場が注視している」と話しています。

財務省 神田財務官 “行き過ぎた動きにはしっかりと適切な対応”

財務省の神田財務官は11日朝、記者団に対し「必ずしも特定の水準を念頭に判断をしているわけではないが、過度な変動というものは国民経済に悪影響を与える。そういった意味では足元の動きは急であり、行き過ぎた動きに対してはしっかりとあらゆる手段を排除せずに適切な対応を取ってまいりたい」と述べて、市場の動きをけん制しました。

また、記者団から円相場の現在の状況は過度な動きと言えるのかと問われたのに対し「どちらかというのは私から申し上げられない。ただひと晩で1円ぐらいと、それをどう判断するかというのはファンダメンタルズ=経済の基礎的条件との関係を総合的に見ながらやっていく」と述べました。

この発言を受けて市場では政府・日銀による市場介入への警戒感が強まり、円相場はやや円高方向に動きました。

鈴木財務相「あらゆるオプション排除することなく適切に対応」

鈴木財務大臣は11日午前、記者団に対し「為替の変動についてはコメントを控えるが、為替の水準は市場を通じてファンダメンタルズ=経済の基礎的条件を反映して決められるものであり、過度の変動は好ましくなく、安定的に推移することが望ましい」と述べました。

そのうえで「私と財務官の間では頻繁に連絡を取り合っている。我々が見ているのは152円になったとか153円になったという数字だけではなく、背景についても分析し、高い緊張感を持って動きを見ている。行き過ぎた動きに対してはあらゆるオプションを排除することなく適切に対応していく」と述べ、市場の動きをけん制しました。

また鈴木財務大臣は11日午前、参議院の財政金融委員会で「円安はプラスの面もあればマイナスの面もある。しかし今、物価高騰という状況の中にあるわけで、円安が物価に与える影響は常に関心があり、また懸念している」と述べました。

ファーストリテイリング柳井氏 “日本にとっていいわけがない”

外国為替市場で円安が進んでいることについて、ファーストリテイリングの柳井正 会長兼社長は、11日の決算発表の記者会見で、「円安はわれわれに対してだけでなく、誰にとっても日本にとってもいいわけがなく、それが基本的な考え方だ。世界の中の日本で、円安になること自体を喜ぶ人はおかしいのではないかなと思うし、そうあってはならないと考えている」と述べました。

“次の焦点は市場介入に踏み切るか” さまざまな観測も

34年ぶりの円安水準となっていることで、市場関係者の間では、次の焦点は政府・日銀が市場介入に踏み切るかどうかだとしてさまざまな観測が出ています。

政府・日銀は2022年に、3回にわたって円安の進行に歯止めをかけるための市場介入を行っています。

2022年9月22日には1ドル=145円台後半の水準で24年ぶりにドル売り円買いの市場介入に踏み切りました。

そのおよそ1か月後、10月21日には1ドル=151円台後半まで下落したところで介入の事実を明らかにしない「覆面介入」を実施、3日後の10月24日にも同様に覆面介入を行いました。

今回は、この水準を突破して円安が進んでいることから、市場関係者の間では政府・日銀による市場介入をめぐってさまざまな観測が出ています。

このうち、野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは過去の財務大臣や財務官の発言から、政府は1ドル=152円を防衛ラインとしてきたと考えられるとしたうえで「今回、まず海外市場で1ドル=153円をつけたことに加え、岸田総理大臣が訪米中であることが判断の制約になったのではないか。ただ、今後はいつ介入してもおかしくない状況で、一日で1円以上、円安が進む局面などでは介入に踏み切る可能性がある」としています。

また、大和証券の石月幸雄シニア為替ストラテジストは「午前中の財務大臣と財務官の発言は少しトーンダウンした印象で、市場にヒントを与えない『死んだふり』だとすれば演技派だが、すぐに市場介入だという緊迫感は感じられなかった。介入の水準は読みづらくなったが、これだけ口先介入を重ねてきた以上、1ドル=155円までは待たずに介入するのではないか」と指摘しています。

一方、三井住友銀行の鈴木浩史チーフ・為替ストラテジストは「前回の市場介入の時は円安方向へのスピード感が速かったが、今回はそこまでのペースとは言えず、円安が定着してきていることもあって、すぐに介入に踏み切る可能性は低い。1ドル=155円程度が心理的な節目で、この水準まで円安が進めば政府も看過できなくなるのではないか」と指摘しています。