バイデン政権のキーパーソンに聞く

バイデン政権のキーパーソンに聞く
「私たちは今、世界史において重大な局面に立たされている」

バイデン政権で安全保障政策を担当するジェイク・サリバン大統領補佐官がNHKの単独インタビューに応じ、日米両国を取り巻く世界の現状に強い危機感を示しました。
今こそ日本とアメリカが手を携えて世界をリードする必要があると語るサリバン氏。

日米首脳会談を前に4月8日にワシントンで行われたインタビューの内容を詳しくお伝えします。
(ワシントン支局長 高木優)

ジェイク・サリバン氏

ジェイク・サリバン氏はバイデン政権が発足した2021年1月、当時44歳の若さで安全保障政策を担当する大統領補佐官に就任しました。

ホワイトハウスのNSC=国家安全保障会議を束ね、大統領に直接、国の安全保障や外交に関わる助言を行う重要ポストで、バイデン大統領はサリバン氏に全幅の信頼を置いていると言われています。
バイデン政権の外交戦略を担い、ロシアによるウクライナ侵攻や中東でのイスラエルとハマスの衝突などについてみずからも現地に赴き交渉にあたってきたサリバン氏。

中国が影響力を増す中、日本をはじめとした地域の同盟国との関係強化に努め、日米韓や、日米豪にインドを加えたクアッドといった枠組みの制度化も主導してきました。
(以下、サリバン氏へのインタビュー)

Q:バイデン政権は日本との同盟関係を一貫して強化してきた。今回の日米首脳会談はこれまでの日米同盟における取り組みと比べてどう特徴づけられるのか?

あなたが言うようにバイデン大統領は政権が発足した初日から強固な日米関係を構築するために個人としても、そして政府全体としても多大なる力を投入してきた。
私たちがこの3年間で成し遂げたのは、この同盟をインド太平洋地域の平和と安全の礎としただけでなく、真の地球規模の協力関係へと発展させたことだ。今回の岸田総理大臣とその一行の国賓待遇での訪問は地球規模の協力関係をあらゆる分野にわたって広く示す機会になる。私たちは安全保障分野で新しい発表をするだけでなく、人工知能をはじめとする先端技術や有人月探査という共通の願い、経済や投資、第三国のインフラ整備や開発を支援するための協力のあり方などを示すことになる。
岸田総理大臣の歴史的な訪問を迎えるこの機会は日米同盟がかつて成し遂げたことのない高みに達したことを示す機会になる。そしてその絆はこのあと何年にもに渡って維持できるものだと信じている。

Q:中国が影響力を増す中、アメリカは日本に対して国際社会でどのような役割を期待しているか?

俯瞰(ふかん)してみると、私たちは今、世界史において重大な局面に立たされている。それは民主主義は自国民に進歩を、そして世界中の人々に進歩と発展、平和と繁栄をもたらすことができるのかという問いかけだ。そして私たちは答えは「イエス」だと確信を持っている。

アメリカと日本は世界で民主主義をリードする2か国であり、最も経済力のある2か国であり、もっとも強力な技術力を持った2か国として手を携えて民主主義国は成果をもたらすことができると示すべきだ。
民主主義国は技術を敵に回すのではなく味方につけることができ、インド太平洋が自由で開かれた、そして安全で豊かであるよう安全保障で協力できると示すべきだ。

また、発展のさなかにある「グローバル・サウス」の国々に対し、中国のような専制主義的な国よりもよい価値を提示できるように経済戦略でも連携すべきだ。

これらを行うことで私たちが大切にしている価値観や日米両国に根付いている政治体制が世界中の人たちのために成果を出すことができる最善の方法だと示すことができる。

Q:日米の部隊の指揮統制をめぐって日本は来年、統合司令部を設置するが、これと並行してアメリカは作戦指揮の機能をどのように強化するのか?

岸田総理大臣の訪問の際に発表することになる共同声明で、バイデン大統領は日本の作戦指揮の機能が強化されるのに合わせてアメリカの作戦指揮の機能の強化をはかることについて完全なる約束を示すことになる。そうすることにより私たちはインド太平洋地域で直面しているすべての共通の課題に対してより効果的に連携できることになる。現在、その具体的な内容についてはアメリカ国防総省と日本の防衛省の間、および首脳のあいだで詰める必要があるが全体としての戦略的方向性は明確だ。
私たちは日本におけるアメリカの作戦指揮の機能を高めるとともに、日本とのあいだで作戦指揮の機能の統合を確実に進めていく準備がある。なぜなら、私たちはめまぐるしく変わる脅威や課題に協力して対処していくことができなければならないからだ。そしてその準備はできている。

Q:南シナ海のセカンド・トーマス礁の海域で起きている事態(※)について、ホワイトハウスはどれくらい潜在的な緊張の高まりについて懸念しているのか?
※フィリピンが実効支配するセカンド・トーマス礁では3月、中国海警局の船がフィリピン軍の拠点に向かっていた運搬船に放水銃を発射し、けが人が出る事態となった
私たちは深く懸念している。ここ数週間、ここ数日間でさえ中国の行動は国際法の基本命題に反し、地域を不安定化させバランスを欠いてきた。

一方、私たちは航行の自由、合法的な通商活動が妨害を受けないこと、国連海洋法条約の基本ルールを支持してきた。私たちはアメリカとフィリピンの相互防衛条約の第4条が南シナ海で活動する公船や航空機、軍隊に適用されると明確にしてきた。
私たちが望むのは南シナ海における平和と安定、安全、そして国際法の尊重だ。中国はこれらを尊重し、逆らわないことを示すための措置をとるべきだ。

バイデン大統領と岸田総理大臣、マルコス大統領は3か国の首脳会談で、南シナ海やその他の地域における平和と安定への脅威にどう対処するかについて話し合う。経済や技術、海洋分野などでの協力の可能性についても意見を交わすことになるだろう。

Q:なぜいまアメリカと日本、そしてフィリピンの協力関係を格上げすることが重要だと考えるのか?なぜ日本の関与を期待するのか?

今まさに、民主主義の国が結束して世界や地域の安全保障に貢献できることを示す必要がある。アメリカと日本、フィリピンの3つの国は活力ある民主主義の国だ。私たちはよき友人であり補完しあう能力を有している。
今こそ、この地域と世界の平和と安全への私たちの共通の貢献について明確なメッセージを発信することを考えるときだ。今こそ3人のリーダーが集まり協力して、道をねじ曲げようとする者に屈さず、地域と世界のための構想を進めるときだ。

Q:台湾で5月に頼清徳政権が発足する一方で、中国は台湾に対し軍事的な圧力を強めている。台湾海峡における緊張を緩和させる重要なカギは何か?

アメリカと中国は40年にわたり、その関係に浮き沈みはありながらも台湾海峡を挟んだ両岸関係の問題を効果的に管理できてきた。なぜならアメリカは「1つの中国」政策、3つの米中共同コミュニケや台湾関係法、それに「6つの保証」を維持してきたからだ。私たちはこれからもこれを維持していく。こうした原則の根底にはどちらの側も一方的な現状変更を行ってはならないという命題がある。
中国による懸念すべき行動や圧力行為がみられるが、そうしたものはやめるべきだ。私たちはすべての人たちが平和と安定のために貢献する責任があると信じているし、アメリカはもちろんその責任を果たす用意がある。

ワシントン、台北、そして北京が過去何年にもわたり維持してきた立場をとれば台湾海峡において平和と安定を維持することができる。

Q:「台湾有事」の可能性はどの程度差し迫っているのか?

われわれの取り組みのすべての目的は不測の事態が絶対に起きないようすることだ。

Q:4月2日に米中首脳による電話会談が行われたが、近く双方による相手国への訪問はあるのか?

予定はない。両首脳はこの先、数か月にわたりきちんと電話で連絡を取り合うことについて話し合った。なぜなら複雑で重要な両国関係において首脳どうしによる直接対話に代わるものはないからだ。
アメリカは中国と精力的に競争している。私たちや同盟国の利益と相容れない行動については反対している。一方でまた、私たちの利益に沿う、世界の平和と安定、繁栄に貢献できる事柄については協力する用意がある。とても困難で複雑な関係だが私たちは慎重に、そしてすべての人たちの利益にかなうよう効果的に関係を管理していく。

Q:バイデン大統領は日本製鉄によるアメリカの大手鉄鋼メーカー「USスチール」の買収計画に否定的な考えを表明した。これは日米関係を損なう可能性があるとの見方もある。なぜバイデン大統領は公に表明したのか?

バイデン大統領は非常に率直な人物だ。

彼はアメリカの労働者の権利と利益のために立ち上がり、それらを守ると明確にしてきた。それと同時にとても強く活力のある日米同盟のためにも立ち上がり、戦い、取り組むことを長年、明確にしている。
彼は両方行うことができると確信している。

このことは岸田総理大臣の国賓待遇での訪問で示されるだろう。

Q:バイデン政権は「スモール・ヤード・ハイ・フェンス」(小さな庭に高いフェンスを設ける=重要な先端技術分野を“小さな庭”の範囲に特定したうえで、その分野の技術は流出しないよう“高いフェンス”を設けて厳格に管理する)という概念を主張し、日本をはじめ同盟国も歩調を合わせている。一方、中国は急速に技術を発展させ、すでに極超音速ミサイルを保有している。バイデン政権の中国に対する経済安全保障政策の究極の目標は何か?

答えは単純だ。私たちはアメリカや同盟国の技術が、アメリカや同盟国に対して不利になる形で使用されることはあってはならないと考えている。そのため特定の先端技術が軍事利用などされてアメリカや日本、同盟国の安全保障を脅かすおそれがあれば、それを制限する措置をとる。
それは最先端の技術開発における比較的小さな範囲の技術になると思うが断固として対処する。私たちはこれまでもそうしてきたし、これからも日本を含む同盟国と連携しながら対処していく。

Q:この数年、アメリカも日本も北朝鮮の核開発の進展を止めることができていない。この状況を打破するために、今、何が必要だと思うか?日本がキム・ジョムウン総書記と首脳会談を行う場合、政権は日本を支持するのか?

まず第1に、何年もの間、そして、何人もの大統領と総理大臣の間、北朝鮮が核・ミサイル開発を進展させ続けてきたのは事実だ。また、アメリカと日本、そして韓国が2国間や3か国間で、それに対する対応の調整という点で、ますます緊密に連携してきたことも事実だ。進化する北朝鮮の脅威に直面する中で、2国間、そして3か国間の非の打ちどころのない調整と協力があることが最も重要な要素だ。
その脅威は非常に現実的なものであり、アメリカにとっても日本にとっても韓国にとっても大きな懸念事項だ。私たちがともに結束すれば、その脅威に直面しても私たちの国の安全を確保することができると深く信じている。アメリカは北朝鮮との外交の道も開いており、前提条件なしに対話する用意があることを示してきた。北朝鮮はそのことに関心を示してこなかった。
日朝間の外交については岸田総理大臣とバイデン大統領が話し合う機会に委ねる。ただ、広い意味では私たちの外交の道が開かれているのと同様に他国による原則ある外交を支持する。具体的にいつ、どのような会合を開くのかについては首脳間で調整と議論が行われるべきだ。

Q:日本もアメリカも民主主義国家である以上、選挙によって政権が変わることになる。AUKUS(米英豪)や日米韓、クアッド(日米豪印)といった枠組みは将来、維持されるのか?

アメリカには強力な日米同盟、そしてアメリカのインド太平洋地域への強い関与について超党派の長い伝統がある。私はこれらが将来にわたって永続的に続くよう全力を尽くすつもりだ。大統領の任期が終わってもこれらが長く続くと私が確信しているのは、これらが根本的なアメリカの国家安全保障上の利益にかなうからだ。AUKUSがそうでありキャンプ・デービッド山荘で開かれた日米韓の枠組みもそうだ。
日米同盟は単にインド太平洋地域の礎であるだけでなく、今や地球規模での協力関係にあり、アメリカが目標を達成し地球規模で私たちの国益を防衛するうえで中心的な存在となっているのだ。私は同じことが日本にも言えると思う。それは、アメリカ国民、そして私の故郷の平均的なアメリカの人たちにとって重要なのだ。アメリカの人たちは同盟関係が重要であることを知っており、それは最終的に輝くことになると信じている。
(4月9日 ニュース7、NW9などで放送)
ワシントン支局長
高木 優
1995年入局
国際部 マニラ支局 中国総局(北京)などを経て
2021年3月から2度目のワシントン駐在
ワシントン支局記者
有岡 加織
1998年入局
神戸局、国際部などを経て2021年から現所属
ワシントン駐在は2度目
ワシントン支局記者
渡辺 公介
2002年入局
国際部 ヨーロッパ総局
モスクワ支局などを経て2021年7月から現職
ワシントン支局記者
久枝 和歌子
2003年入局
静岡局や国際部などを経て2021年6月から現所属
ホワイトハウスを取材 アメリカ政治における女性参画に関心
ワシントン支局 記者
根本 幸太郎
2008年入局
水戸局、政治部、経済部を経て現職
ワシントン支局
岡野 杏有子
2010年入局
大阪局、国際部、政治部などを経て2023年7月から現所属
国務省担当 大統領選挙では主に共和党の動きを取材