まもなく日米首脳会談 ポイントは? 大統領夫妻と夕食会も

総理大臣として9年ぶりとなる国賓待遇でアメリカ訪問中の岸田総理大臣は、日本時間の11日未明、バイデン大統領との首脳会談に臨みます。

自衛隊とアメリカ軍の部隊連携の円滑化など、防衛面での協力を深めるとともに、経済安全保障、宇宙など幅広い分野での連携強化を確認する見通しです。
(※記事の中ほどに担当記者による会談のポイント解説があります)

日米両国 幅広い分野で連携強化へ

会談では、日米両国が「グローバル・パートナー」として、国際情勢をめぐる課題に対応していく認識を共有し、自衛隊とアメリカ軍の部隊連携の円滑化など、防衛面での協力を深める方針です。

また、AIなどの最先端技術の開発といった経済安全保障分野に加え、アメリカが主導する月探査計画「アルテミス計画」を含めた宇宙分野など、幅広い分野での連携強化を確認する見通しです。

さらに両首脳は、ウクライナや中東情勢、それに中国、北朝鮮などの動向をめぐっても意見を交わすものとみられ、会談後にはそろって記者会見に臨み、成果を発表することにしています。

日米首脳会談は、日本時間の11日午前0時からホワイトハウスで始まる予定です。

日米首脳 部隊連携強化指示で合意へ

日米首脳会談を前に、バイデン政権の高官は、記者団に対し、日本が陸・海・空の各自衛隊を一元的に指揮する「統合司令部」を来年3月までに設置するのにあわせて、バイデン大統領は首脳会談で、日米の部隊の連携を強化するため在日アメリカ軍の側も指揮統制を現代化させる方針を示すと説明しました。

その上で、こうした、日米の指揮統制をめぐる動きについて「1960年以来の日米同盟における最大の変化だ」と述べ、会談は、日米同盟の歴史的な変化を示す場になると強調しました。

さらに高官は「両首脳は、外務・防衛の『2+2』の閣僚に対し、こうした変化を実行する責任を担うよう指示する」と述べ、日米首脳は外務・防衛の閣僚協議で部隊連携の強化に向け指揮統制のあり方をめぐって具体的な協議を始めるよう、指示することで合意する見通しだと明らかにしました。

また、別の高官は「われわれは、武器をどこで共同生産できるのかを評価するため軍事産業に関する協議の枠組みを設置する。日本の工業力と強みは、今のアメリカの国防生産能力の弱点を支えることになる」と述べ、日米の首脳が防衛装備品の共同開発や共同生産に向けて新たな協議の枠組みを設けることで合意するという見通しを明らかにしました。

日米首脳会談のポイントは

(政治部 安藤和馬記者)
Q 日本側が、最も重視しているのは何でしょうか。

A 特に重視しているのが、防衛分野での連携強化です。ウクライナや中東情勢の緊迫が続く中、東アジアでも中国や北朝鮮の動向によって緊張が高まっていますので、日本としては、会談を通じて、アメリカとの結びつきを強め、それによる抑止力を内外に示す狙いがあります。
一方で、内閣支持率の低迷が続く岸田総理大臣としては、バイデン大統領との個人的な信頼がこうした国どうしの関係強化につながっているとして、自身の外交手腕をアピールし、局面転換を図りたい思惑もあるとみられます。


(ワシントン支局 有岡加織記者)
Q アメリカは岸田総理大臣をどう見ているのでしょうか。

A 重要視していると思います。もちろんアメリカ政府も、日本国内で岸田総理大臣の支持率が低迷していることは把握しています。それでもバイデン政権は、岸田総理が防衛費の増額や「反撃能力」の保有など防衛力の強化に取り組んできたことや、防衛装備品の輸出ルールを緩和したことなどを、高く評価しているのです。
バイデン大統領としては、岸田総理大臣を国賓待遇で招くことで、とりわけ安全保障分野での連携強化に向けた日本の取り組みに最上級の歓迎を示し、この流れの加速と定着につなげるねらいがあるとみられます。

Q バイデン大統領は日本から何を引き出そうとしているのでしょうか。

A 中国を念頭にした安全保障面でのより深く、幅広い連携です。とりわけ重視している日米の部隊の指揮統制面での連携強化に加え、防衛装備品の共同開発や共同生産での協力も進めたい考えです。武器の生産能力に課題を抱える中、日本の先端技術や工業力を頼りにしたいからです。
また、アメリカは、中国を抑止するために張り巡らせた日米韓やクアッドといった複数の枠組みで日本により大きな役割を担ってほしいと期待しています。
秋の大統領選挙で再選をめざすバイデン大統領としては、日本との連携強化をアメリカの国益にプラスになる外交成果としてアピールしたい思惑もありそうです。

(政治部 安藤和馬記者)
Q 大統領選挙ではトランプ氏の再選の可能性も指摘されているが、日本政府は何らかの対応をしているのでしょうか。

A 現職の大統領から招かれているわけですから、表だってトランプ氏を意識した対応をとることはしていません。ただ、ある外務省幹部は、トランプ氏が復帰する可能性も念頭に、「安全保障や経済など重要政策を『ピン留め』しておく、つまり、容易に転換されないようにする 狙いがある」と解説しています。
また、日本時間の12日に予定される議会演説では、民主・共和両党に対し、党派を超えた協力の重要性を呼びかける方針です。
日本としては、大統領選挙の情勢を分析しつつ、“両にらみ”の対応を続けることにしています。

両首脳が笑顔の「自撮り写真」投稿

アメリカのバイデン大統領は、9日夜、旧ツイッターのXに、首都ワシントンを訪れている岸田総理大臣との「自撮り写真」を投稿しました。

写真は、車の中で撮影したもので、バイデン大統領と岸田総理大臣が笑顔で並んで座っています。バイデン大統領は「アメリカに戻ってきてくれてうれしい」と書き込んでいて、岸田総理大臣の訪米を歓迎する内容となっています。

一方、岸田総理大臣も日本時間の10日午前10時すぎ、「X」に写真を投稿しました。

岸田首相 会談前にバイデン大統領と非公式の夕食会

会談を前に岸田総理大臣は日本時間の10日午前、バイデン大統領夫妻の主催による非公式の夕食会に裕子夫人とともに出席し、親交を深めました。

岸田首相は被災地の伝統工芸品を贈呈

この中では贈り物の交換が行われ、岸田総理大臣はバイデン大統領に、能登半島地震で被災した石川県の伝統工芸品「輪島塗」のコーヒーカップとボールペンなどを贈りました。

コーヒーカップには、バイデン大統領とジル夫人のファーストネームが、まき絵の技法で金色で描かれていて、岸田総理大臣は地震で被災した職人が心を込めて制作したことなどを説明しました。

また、裕子夫人はジル夫人に富山県の「高岡銅器」のアクセサリーを贈りました。

バイデン大統領夫妻からは

一方、アメリカ・ホワイトハウスは、バイデン大統領夫妻から岸田総理大臣夫妻への贈り物は、日系アメリカ人の企業が北米原産の木材で製作したテーブルなどだと明らかにしました。

また、バイデン大統領から岸田総理大臣への贈り物は歌手のビリー・ジョエルさんのサイン入りのレコードや特注の革製の箱に入ったレコードのコレクションなど、ジル夫人から裕子夫人への贈り物はサッカー女子の日米両国の代表チームのサイン入りのボールなどだということです。

公式晩さん会 おもてなしの内容は?

国賓待遇でアメリカを訪問している岸田総理大臣と裕子夫人は10日、ホワイトハウスでバイデン大統領夫妻が開く公式晩さん会に出席します。

これを前に9日、ファースト・レディーのジル夫人が会場の装飾や提供される食事のメニューについて、報道陣に紹介しました。

テーブルや廊下には、日米友好の象徴となっている桜が、数多く飾られています。

メニューには、日本で親しまれている食材が使われていて、前菜には、サーモンに、しその葉を揚げたものが、添えられています。
そして、デザートのケーキには抹茶が使われているほか、桜の飾りが施されています。

ジル夫人は、「晩さん会の場が、明るい春の庭に変わります。喜びと再生、そして、希望と成長の場となります」と述べ、日米関係のさらなる深まりを象徴する場にしたいと、期待を示しました。

公式晩さん会には日米の関係者など、およそ230人が招待されていて、日本政府関係者によりますと、2人組の音楽ユニット「YOASOBI」も招かれているということです。

岸田首相 アーリントン国立墓地で献花

岸田総理大臣は、日本時間の9日夜、戦没者が埋葬されているアーリントン国立墓地で献花したほか、10日朝にかけて、マイクロソフトのブラッド・スミス社長ら経済関係者などと面会しました。

全米商工会議所の会頭などと意見交換

岸田総理大臣は日本時間の10日未明、全米商工会議所のクラーク会頭やアメリカの大手企業の経営者らと昼食をとりながら意見を交わしました。

この中でクラーク会頭は「日米両国の経済連携は、インド太平洋地域の安定と平和の基礎であり、両国関係はかつてないほど強固になっている。引き続き、日本との連携・協力を強化したい」と述べました。

これに対し岸田総理大臣は、デフレやコストカット志向からの脱却を通じて日本経済の再生に取り組んでいると説明するとともに、半導体やAI、それに量子などの先端分野で、日米両国が相互の投資を拡大していくことへの期待を示しました。

その上で「日米こそが、世界の安定と繁栄に向けて国際社会をリードしていくという強い決意を共有できた。引き続き各分野で連携を強めたい」と述べました。

国賓待遇とは

岸田総理大臣は総理大臣として9年ぶりとなる国賓待遇でアメリカを訪れています。

国賓待遇は、アメリカの大統領が同盟国など重視している国の首脳を最大級の格式で招くことです。バイデン大統領は就任以降、フランス、韓国、インド、オーストラリアの首脳を国賓または国賓待遇で招いていて岸田総理大臣で5人目となります。

招待されると、歓迎式典や公式晩さん会など、特別な公式行事が行われます。大統領など国家元首の場合は「国賓」、首相の場合は「国賓待遇」と呼ばれますが、行事などの内容はほぼ同じです。

首脳会談の直前にホワイトハウスの庭で歓迎式典が行われ、19発の礼砲が放たれます。国家元首の場合は21発です。

その後、首脳会談と共同記者会見に臨みます。首脳会談の日の夜には、ホワイトハウスで大統領夫妻主催の公式晩さん会に招待されます。

食事のメニューは、アメリカ側が主賓の好みなどを入念にリサーチして決めるということで、工夫と演出を凝らしたもてなしをします。2015年は、オバマ大統領が安倍総理大臣の地元である山口県の日本酒「獺祭」を用意し、乾杯しました。

また日米にゆかりのあるゲストも招待されます。

晩さん会にはドレスコードがあり、男性は「ブラックタイ」と呼ばれる黒いちょうネクタイ姿の正装で出席します。首脳だけでなく招待客や政府関係者も正装で臨むことになっています。国賓待遇で招かれた外国の首脳は、多くの場合、アメリカ議会で演説を行います。

国賓待遇で訪米した歴代首相

中曽根首相とレーガン大統領(1987年)

外務省が把握している、過去に国賓待遇でアメリカを公式訪問した日本の総理大臣は以下です。(肩書は当時)

▼中曽根総理大臣は、1987年4月から5月にかけてワシントンを訪問し、「ロン・ヤス」関係で知られるレーガン大統領と会談しました。

▼小渕総理大臣は1999年4月から5月にかけてワシントンとロサンゼルス、シカゴを訪問し、クリントン大統領と首脳会談を行いました。

小泉首相とブッシュ大統領(2006年)

▼小泉総理大臣は2006年6月に、ワシントンとテネシー州メンフィスを訪問しました。ブッシュ大統領との会談では「世界の中の日米同盟」をうたい北朝鮮による拉致問題やミサイル問題に多くの時間を割きました。
メンフィスでは、ブッシュ大統領の案内で、小泉総理大臣が大ファンだという故エルビス・プレスリーの邸宅を見学し、2人の親密ぶりをアピールしました。

▼安倍総理大臣は、2015年4月から5月にかけてワシントンとボストン、サンフランシスコ、ロサンゼルスを訪問しました。オバマ大統領との会談では日米同盟を強化していくことを確認しました。

外務省によりますと、中曽根氏より以前に日本の総理大臣がアメリカを公式訪問したケースは何回かありますが、それが国賓待遇だったかどうかは分からないということです。

アメリカ議会で演説した歴代首相

外務省によりますと、アメリカ議会で演説を行った日本の総理大臣は、岸田総理大臣で5人目です。

1954年に吉田茂総理大臣がアメリカ議会の上院で初めて演説しました。

1957年には岸信介総理大臣が上院と下院で個別に、1961年に池田勇人総理大臣が下院で演説しました。

2015年に安倍総理大臣がアメリカを公式訪問した際は、上下両院の合同会議で日本の総理大臣として初めて演説しました。「希望の同盟へ」と題した演説の中では、先の大戦の硫黄島での戦いに参加した、元アメリカ海兵隊員と、旧日本軍の守備隊司令官・栗林大将の孫の新藤衆議院議員を紹介し、2人が握手を交わすと、議場から盛大な拍手が送られました。

今回、岸田総理大臣も現地時間11日に上下両院の合同会議で演説を行います。