芥川龍之介の蔵書に“恋心”の押し花 初恋女性とのやり取りか

文豪、芥川龍之介が所蔵していたフランスの小説の本に、恋心を表す花言葉を持つ押し花が挟まれていたことが日本近代文学館などの調査で分かりました。専門家は、芥川と初恋の女性とのやり取りの一端である可能性があるとみていて、「芥川の実人生で大きな揺れ動きのあった時期の貴重な発見だ」としています。

押し花は、芥川の遺族から日本近代文学館に寄贈されたおよそ2600冊の蔵書の調査で、フランスの作家、アナトール・フランスの恋愛小説「赤い百合」の英訳版から2点見つかりました。

植物学の研究者が押し花を調べたところ、「オオマツヨイグサ」という黄色の花と、薬草にも使われる「ウイキョウ」だと分かったということです。

このうち「オオマツヨイグサ」は、同じ仲間の「マツヨイグサ」の花言葉が“ほのかな恋”で、小説の中では、主人公の恋愛が成就し、「I love you!」などと叫ぶ場面に挟まれていたということです。

押し花の台紙には1914年7月12日と記されていて、調査に参加した龍谷大学の澤西祐典 准教授によりますと、当時、芥川は22歳で、この時期、思いを寄せる初恋の女性との手紙でも、この本について言及していたことから、押し花は女性とのやり取りの中で芥川が挟み、女性に本を貸した可能性もあるとみています。

芥川は家族の反対で、この女性とは結ばれず、これまでの研究ではこうした出来事が後に「羅生門」で描かれるエゴイズムにつながったと言われています。

澤西准教授は「芥川の実人生ですごく大きな揺れ動きのあった時期の発見で、見つけたときには感動を覚えました。初恋の女性とうまくいかなかったことは、その後の作家人生に大きな影を残したと言われ、そういった意味で直前に摘み取った押し花はまさに気持ちが高まっていく途上のものだと考えられます」と話していました。

押し花と蔵書は、東京 目黒区にある日本近代文学館の芥川龍之介展でことし6月8日まで展示されます。