わたしたちの荷物はどうなる?「物流2024年問題」解決のカギは

わたしたちの荷物はどうなる?「物流2024年問題」解決のカギは
時間外労働の上限規制の適用に伴い輸送量の減少が懸念されている物流の「2024年問題」。わたしたちの暮らしにも影響を与えかねない課題の解決に向け、物流各社は大きな変革を迫られています。

「マテハン改革」と呼ばれる取り組み、そしてライバルどうしの異例のタッグ。これまでの日本の物流業界の常識を覆す、企業の枠を超えた模索が始まっています。(福岡局 早川俊太郎記者/広島局 児林大介記者)

変革を迫られる物流各社

ことし2月下旬に福岡市内で開かれた「九州物流研究会」の会合。

おととし8月に発足した研究会に加盟するのは大手の運送会社やスーパーなど15社。
背景にあるのが物流の2024年問題で企業経営にも大きな影響が出かねないという危機感です。

4月からのトラックドライバーの時間外労働の上限規制などの適用で輸送量の減少などが懸念されています。

1社単独の対策では24年問題にはとても対応できないとしてこの2年半余りにわたって話し合いを続けてきました。

この日、議題に上がったのが「マテハン改革」です。

バラバラな「マテハン」

「マテハン」とはモノを運ぶ作業を意味するマテリアルハンドリングの略称。商品を納品するための「かご付きの台車」や「こん包容器」「6輪カート」などがあります。
食品や日用品などさまざまな商品をトラックでスーパーなどに運ぶために使われます。

しかし、各社によって台車や容器の形も大きさもバラバラ。効率的な配送を進めたくても機械などを使ったまとまった輸送を難しくしています。

「九州物流研究会」では1つのトラックで各社の商品を効率的に運ぶ共同輸送の取り組みを福岡県内で進めていて大きな成果をあげています。

しかし、この「マテハン」がバラバラなことが共同配送の拡大を進めるうえで大きな壁となっているのです。

研究会の会議資料には各社が自社の利益や効率化だけを考えて「マテハン」の運用を進めてきたとして厳しい言葉が並んでいます。

「小売のわがまま」「メーカーのわがまま」「小売とメーカーの板挟みの卸」物流における課題の縮図…。

「マテハン」の統一化へ

2月下旬の会合ではメンバーが「マテハン」の規格の統一化に向けて議論しました。

研究会では、規格を統一すれば、つまり「海上コンテナ」のようにそろえられれば、運搬作業を大幅に効率化できるとみています。

取材した各社からは前向きな意見が多く聞かれました。
参加メンバー
「アメリカやヨーロッパでは各メーカーが容器を同じもの、同じようなサイズのを使う。たとえばジュースでは同じサイズで中身やデザインはもちろん違いますけどサイズは同じものを使いましょうねと。一緒のものを使った方が物流の効率がいいよねという意識が共通しているのは当たり前だ」

「皆さんの総意、ベクトルは一緒なので、協力しながら1つのモデルができたらいいなと思う」
ただ、「マテハン」の統一化の方向性には「賛成」であっても、具体的にどのような規格にするのかについては各社の利害もからむだけにすぐには答えが出ません。メンバーからは、率直な声も聞かれました。
参加メンバー
「マテハンの規格の統一化について興味はあるが、容器をどの企業のものに合わせるのかで思考が止まってしまうところがある」
研究会では小売企業だけでなく、メーカー側にも働きかけながら、マテハンの規格の統一化を目指して協議を続ける方針です。

そして、共同配送の拡大とあわせて、トラックの走行距離を将来的に50%削減することを目標に掲げています。
研究会の発起人 イオン九州 柴田祐司社長
「総論はみんな賛成なんです。でも各論に入っていくとやっぱりそうは言ってもと。それを一つ一つつぶしていくことが一番の課題です。これは1年とか2年でできることではなくて3年5年かかってやっとできあがることだと思っています。課題はたくさんありますが、川下である流通業から変えていくことが出来ればいい形ができるのではないかと考えています」

ライバルどうしが異例のタッグ

さらにライバルどうしがタッグを組む動きも広がり始めています。瀬戸内海にある、人口およそ6800人の広島県大崎上島町。

この島でスーパーなどを展開する“ライバル会社”どうしが荷物を1台のトラックにまとめて共同で配送しています。
トラック輸送を担っているのは、広島県内を中心に64店舗を展開するスーパーです。

配送の現場を訪ねました。3月中旬の午前4時半ごろ。広島市西区にあるスーパーの物流拠点には、荷物を積み込むために1台のトラックが入ってきました。
荷台の扉を開けると、そこにはすでに、同業他社の店舗に届ける生鮮食品が載っていました。

このトラックの空いているスペースに、スーパーの店舗に運ぶ肉や刺身、パン、野菜、冷凍食品などを積み込みます。
ここから、目的地となる島の店舗までは、直線距離でおよそ50キロ。高速道路を経由し、1時間以上をかけてフェリーターミナルに到着しました。
フェリーによるおよそ30分の船旅を経て、午前9時半の開店前に島にあるスーパーの店舗に着きました。

スーパーの店舗に自社の荷物を下ろした後、トラックは、島内にある同業他社の店へと向かっていきました。
どうして“ライバル会社”が、異例のタッグを組んだのか。この島でスーパーなどを展開する各社は、いずれも自社の商品だけではトラックを満杯にできず、効率が悪いことが大きな課題となっていました。
そこで、1台のトラックに複数の会社の荷物をまとめることにしました。これによって、各社はトラックドライバーの労働時間を減らすことができます。
さらに、大崎上島との間を4トントラック1台が往復するのにかかる1万3500円のフェリー代も削減できるのです。

輸送量は変わらないのに、ドライバーの労働時間は減らせる成果をあげているのです。
フレスタホールディングス サプライチェーン部 藤原一美さん
「ドライバーの労働時間も短縮できますし、車もいらないということで、共同配送はとても大きなメリットになっていると思います。共同で配送することによって、各社ともにコストが下げられるので、地域のお客様にとってもメリットがあります」

共同配送の連携拡大へ

こうした共同配送では、運んでいる商品や量を、他社に知られることになります。

また、トラックを1台にまとめることで配送ルートが変わり、仮に到着が30分前後するだけでも多くの従業員やパートの出勤・退勤時間に大きく影響します。

取材したスーパーでは、こうした点がこれまで共同配送が広がらなかった要因の1つになっていると分析しています。

それでも各社にとって、ドライバーの労働時間を減らすことは待ったなしの課題です。

物流の「2024年問題」に対応するため、この取り組みをほかの地域にも広げられないか、違う業種の荷物も載せられるのではないか、さまざまな可能性を視野に、他社との交渉を進めています。
サプライチェーン部 藤原一美さん
「今後は山間部に共同で配送できないか、衣料品や医薬品なども含め、モノを運ぶ企業と交流や話し合いを行って、この取り組みをさらに広げていきたいと考えています」
わたしたちの暮らしにも影響を及ぼしかねない「2024年問題」。

民間のシンクタンクでは、何も対策をとらなければ2030年には全国のおよそ35%の荷物が運べなくなるという試算もあり、こうした取り組みを通じて、配送効率を高める取り組みをどこまで広げられるかが、問題解決のカギとなっています。

(3月30日ニュース7で放送)
福岡放送局記者
早川俊太郎
2010年入局
経済部などを経て現所属
福岡市政と地域経済を取材
九州の地魚に魅了され
食材を届けるべく奮闘する
事業者の取り組みを積極取材
広島放送局記者
児林大介
2006年入局
鳥取→和歌山→東京→盛岡→広島 5つの放送局で勤務
ニュースウオッチ9リポーターとして全国のさまざまな現場を取材