地震被害の輪島の高齢者施設 受け入れ可能は3割以下にとどまる

能登半島地震の発生から3か月がたちましたが、特に被害が大きかった石川県輪島市では特別養護老人ホームなど高齢者が暮らす施設のうち、受け入れができているところが3割以下にとどまっています。
地域に戻りたいという住民が増える中、介護の受け皿をどのように立て直すかが課題となっています。

厚生労働省によりますと、ことしの元日に発生した能登半島地震では、石川県内の特別養護老人ホームなど高齢者が暮らす施設をはじめサービス付き高齢者向け住宅などあわせて最大191の施設が被災し、これまでにあわせて43の施設で、利用者が市外の施設や医療機関などに移ることを余儀なくされました。

発生から3か月がたち、水道なども少しずつ復旧する中、厚生労働省のまとめによりますと、能登半島の6つの市と町では3月22日の時点で、105の施設のうち、7割を超える77の施設で受け入れができているということです。

しかし、その一方で、特に被害が大きかった輪島市によりますと、市内の特別養護老人ホームやグループホームなど16の高齢者が暮らす施設のうち、受け入れができているのは4月1日時点で4施設と3割以下にとどまり、地域によって復旧に大きな差が出ています。

地震の発生から時間がたち、地域に戻りたい住民が増える中で、高齢化が進む地域に欠かせない介護の受け皿をどのように立て直すかが課題となっています。

閉鎖中の高齢者施設 利用者の声を受け7月をめどに再開へ

石川県輪島市では、高齢者が暮らす16の施設のうち12施設が地震で被害を受けてサービスを休止しましたが、3か月たっても再開できておらず、市外の施設に移された約500人の利用者が今も戻ることができていません。

そうした中で、利用者が輪島に戻れるよう、再開を決めた施設があります。

輪島市の海沿いにある、地域密着型の特別養護老人ホーム「輪島荘」では、29人が入所していましたが、地震で建物の床にひびが入り排水設備も破損したため、現在は施設を閉鎖し、利用者は市外の施設に避難しています。

施設の復旧には、5000万円から7000万円ほどの費用が見込まれていますが、金銭的な補助をどれだけ受けられるかはっきりしないということです。

しかし、そうした状況でも利用者からの「早く戻りたい」という声を受けて、ことし7月をめどに再開することを決めました。

輪島荘を運営する社会福祉法人の理事長 猪谷圭一郎さんは、3月末に、一部の利用者が避難している石川県内灘町の施設を訪れ、再開の意向を伝えました。

利用者の80代の女性は、「再開すると聞いてとてもうれしいです。輪島にはきょうだいも親戚もいるし、1日でも早く地元に帰って、海をながめながら静かにすごしたい」と話していました。

猪谷さんは、「介護が必要な人にとっては、施設が再開しなければ、輪島に戻りたくても戻れません。施設で働いていた職員、それに県や市と“ワンチーム”になって、必ず施設を再開させます」と話していました。

「市立輪島病院」病床の一部を介護が必要な人向けに

輪島市内の高齢者が暮らす施設の多くで受け入れが再開できない中、市の病院では病床の一部を介護が必要な人向けに変更し、介護の受け皿作りを進めています。

取り組みを進めているのは、輪島市中心部にある市内唯一の総合病院、「市立輪島病院」です。

市内の高齢者が暮らす施設の多くが受け入れを再開できていないため治療を終えた介護が必要な患者が退院後にすごせる施設がありません。

現在は、医療が必要な患者の多くが市外に避難していて、およそ100人いた入院患者が20人余りと5分の1に減ったため、ベッドには空きがあり大きな影響は出ていません。

しかし、今後、水道や道路の復旧が進み市外に避難していた人たちが戻ってきた場合には、退院後の施設の不足は新たな入院患者の受け入れに影響を与えるおそれがあるということです。

このため病院は市の条例を改正して、96床ある急性期病床のうち18床を、介護が必要な人が長期間療養できる「介護医療院」に変更しました。

4月10日から運用を開始する予定で、市内の福祉避難所で暮らしている住民や、市外の病院に入院している住民などで、要介護認定を受けている人の受け入れに向け、部屋の準備を進めています。

今後、市内の高齢者が暮らす施設が復旧した場合は、入院患者用の病床に戻す方針だということです。

病院の河崎国幸事務部長は「輪島に戻った住民が安心して暮らせようにするためには、医療と介護のどちらかだけではなく、両方を同時に整備していく必要がある。行政が運営する病院がその役割を先導することで、介護施設の復旧の後押しにもつなげたい」と話しています。

住民からは介護サービスの相談が相次ぐ

輪島市福祉課によりますと、住民から市に対して、介護サービスを受けたいという相談が相次いでいます。

「避難中に家族の認知症が進行したが、入所できる施設はないか」とか「避難先から自宅に帰ったが訪問介護は利用できるか」といった内容の問い合わせが寄せられているということです。

しかし、高齢者が暮らす施設の多くで受け入れができないことに加え、訪問介護など、自宅で暮らしながら受けるサービスも再開できたのは一部だけで、今後、地域の介護ニーズにどう応えていくかが、課題となっています。

輪島市福祉課の山田政人課長は「仮設住宅の入居も始まり介護サービスが必要な方は今後さらに増えてくる。地元で安心・安全に暮らすためには、医療や介護を受けられる施設があることがとても重要ですので、財政的な支援を含めて国や県に働きかけていきたい」と話していました。